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殺人ヘアカット【11】


「まず、おかしいのはナイフ」


 砂橋は鏡の目に置かれたビニール袋に入っていた血塗れのナイフを指さした。


「僕がずっとナイフを持っていたのなら柄に血の跡がついてるはずないでしょ」

「血だまりに落としたのかもしれない」


 今まで押し黙っていた一の字の口が開かれた。島津の言葉に砂橋はにっこりと微笑む。


「それもそうだ。でもまぁ、僕には小松くんをこの通路で殺した上で奥のシャワーベッドまで連れて行くような腕力はないよ」


「それは自己申告でしょう。本当は運べる可能性もある」


 島津が喋り始めると今度は、噛みつくように話をしていた西片が押し黙ってしまった。この様子が今だけのものではないと分かったのは西片と島津が視線も交わさずに相手の口が開いたのを察していたからだった。


「それもそうだ」


 砂橋はあっさりと島津に言い負かされる。それでも余裕の表情を消さない砂橋は両腕を持ち上げて、島津と西片を指さした。


「僕が殺人犯だったら、目撃者の君たち二人を殺してないわけがない」

「警察が来たから殺せなかったんだろ?」


 今度は西片が反論する。しかし、その反論はいささか不出来だ。


 小松が警察に通報して、すぐに警察が駆け付けるのは不可能。しかも、警察が駆け付けた時には、島津も西片も気を失っていた。


 気を失った相手を殺すのに、時間は要らないだろう。


「間抜けに倒れてた君たちを殺せる時間ぐらいあるでしょ」


 いちいち島津と西片を煽るような物言いをする砂橋に俺はため息をつきたくなる。熊岸警部だけではなく、俺までもが砂橋と二人の間に割り込まないといけなくなるかもしれない。


「分かった。俺たちが秀伸を殺したとしよう」


 観念したというように島津は両手を軽く耳の横まで持ち上げた。


「でも、そうすると俺たちはどうやって、秀伸をシャワーベッドまで運んだんだ? 足跡もついていないし、俺たちは君ほど血塗れになってない」


 血だまりの上にいる返り血塗れの砂橋と、返り血を浴びていない島津と西片。


 第三者がこの状態を見たら、間違いなく砂橋が犯人だと言い出すだろう。俺だって、返り血に塗れた砂橋を見て「こいつはついにやったのか」と思ったぐらいだ。


「返り血を浴びずに小松くんを殺して、シャワーベッドまで運んだ」


「通路にはこんなに血だまりが広がっているのに? 俺たちの靴の裏には血なんかついてないけど?」


 そう言って、島津が片足を持ち上げる。スニーカーの白い靴底には血はついていなかった。それに倣って、西片も近くの壁に手をついて、片足をあげた。彼のスニーカーの灰色の靴底にも血はついていなかった。


 彼らが気を失ったと主張していたのは待合室とレジの内側。血がついていないのは当たり前だろう。


「スニーカーを履き替えたというのは?」

「店内を調べましたが、そのようなものはありませんでした」


 俺の疑問に猫谷刑事が答える。そのやり取りに、島津がふんと鼻を鳴らした。


「ほら。通路には血が広がってる。秀伸を運ぼうと思ったら、血を踏まないといけないでしょう?」


 島津は砂橋のスニーカーを指さした。砂橋は今まさに血だまりの上に立っていて、靴底は赤くなっていることだろう。最初から砂橋の靴底が赤かったのか、そうではなかったのかは知らないが。


「僕の靴が血で汚れてるから、なに?」


「だから、俺たちには秀伸の身体を運ぶことはできないと言ってるんです。靴の裏に血がついている君の方こそ、犯人だと断言してるようなものでしょう」


「僕の靴の裏が血で汚れてるのは事実だけど、君は馬鹿なの? 引きずった血の近くに靴の跡なんて一つもないのに、どうして僕が犯人ってことになるの」


 俺は、はっとしてシャワーベッドが並ぶ中に掠れた筆を引きずったような赤い跡を見た。確かに、赤い足跡はない。砂橋のものも他の人間の足跡もシャワーベッドの周りにはなかった。


「つまり、靴に血がついているかどうかは、小松くんの死体を運んだかどうかには関係ないってこと」


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