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アイドル危機一髪【8】


 探偵事務所に出社した僕は笹川に待機を言い渡し、桃実に連れられてアイドル事務所のフルーツフィールドの部屋へと向かうとそこにはすでに他のメンバーがそろっていた。


 桃実は僕のことを見て、さりげなく目を離した。他のメンバーがこちらを見て、怪訝そうな顔だったり、目を丸くしていたり、と様々な表情をしている。


「こんにちは。記者の砂橋です。今回、インタビュー記事を書かせていただきますのでお時間いただきますね。一人ずつ、インタビューさせていただきます」


 フルーツフィールドのマネージャーである北斗ほくとさんは僕を記者だと信じ込んでインタビューを了承した。本物の記者に知り合いがいるってめちゃくちゃ楽だな、と思った瞬間だった。実際、インタビューした内容は協力してくれた記者の人に渡すつもりだし、ストーカーの件以外にも色々聞かせてもらうとしよう。


 近くにある個室に移動して、フルーツフィールドのメンバーを待つと、最初に来たのはもちろん桃実だった。最初にインタビューをした彼女からストーカーの件を聞いて、後にインタビューする四人にもストーカーのことを質問するという流れだ。


 もちろん、桃実にも記者に頼まれた質問をして答えてもらった。


 次に来た女性ははきはきと「失礼します」と言いながら部屋へ入ってきた。


「よろしくお願いします」


 礼儀正しい彼女は黒髪のショートヘアーで動きやすそうなジャージを着ている。この後、レッスンだから動きやすい服を着ているのだろう。


「苺果さん。今日はよろしくね。さっそくインタビューに移りたいんだけどいいかな?」

「はい、大丈夫です」


 はっきりと物事を喋る彼女は、フルーツフィールドをまとめるリーダーとパンフレットには書かれていた。


「苺果さんがアイドルになったきっかけってなんですか?」

「私、好きなアイドルがいて……」


 ボイスレコーダーのスイッチを入れて、彼女の話を聞きながら重要な部分をメモに書き留める。ボイスレコーダーは記者の人に渡す用、メモ帳にはその人の特徴などをまとめる僕用の。


 それから、グループで一番仲がいい人は誰かと聞くと葡萄担当の藤だという答えが返ってきた。仲間への不満や直してほしいところがあるかと聞くと少し悩んでから「もっと有名になりたい、と思ってるんです」と言った。何かまだ不満はありそうだと思ったが、これ以上聞くことはないだろう。他にも記者から頼まれた質問をしていって、最後に本題に入ることにした。


「そういえば……桃実さんがストーカーにあっているという話を聞いたんですが」


 僕の言葉に今まですらすらと答えて行った苺果は分かりやすく目を細めた。


「あの子、外部にもそんな話をしているんですか?」

「悩みを聞いた時に話してくれたんです」


 苺果は小さく息を吐いた。


「……それじゃあ、私の悩みも教えますね」


 僕はこくりと頷いた。自分から話をしてくれるというのであれば、これ以上いいことはない。できれば、桃実の人間関係についてだとなおありがたい。


「できれば、私は本気でアイドルをやりたいんです」


 先ほど、建前として語ってくれた「有名になりたい」と言っていたことと似ているが。


「だから、グループの子で数人レッスンに本気じゃなかったりすると苛立つし、それに、桃実も最近ストーカーがどうのこうのって言いだすし……」

「苺果さんは桃実さんがストーカーにあっていると思ってないということですか?」

「そういうことじゃないんですけど……」


 苺果はごくりと唾を飲み込んだ。話したいけれど、話すのをためらってる。視線が横へと泳ぐ。僕はボイスレコーダーへと手を伸ばしてスイッチを切る。もちろん、苺果にもそれは見えていて、彼女はじっと僕の指がスイッチを切るのを見ていたと思うと、はっとして目を逸らした。


「噂があるんです……。桃実が枕営業してるんじゃないかって」

「枕営業?上司とか偉い人と寝ていい仕事もらうってやつ?」


 しかし、桃実一人が枕営業を行ったところで、フルーツフィールドという五人組アイドルが大成するかと言われれば怪しいところだ。一人で活動しているのならいざ知らず。


 しかし、噂になっているということは何かあるわけで。火のないところに煙は立たないと思うし。


「そうです」

「苺果さんはその噂を信じてるんですか?」


 そう聞くと苺果は僕から目を逸らした。ちゃんと調べたわけでもないのに不確定な情報を記者に話しているのか。きっと彼女は本気でアイドルをやりたいとは思っていても、今、このメンバーでやりたいと本気で思っているわけではないだろう。


「最初は嘘だろうなって思ってたんですけど……見ちゃって……」

「何を?」


 こてんと首を傾げると彼女はついに俯きながら話した。


「ダンスのレッスンだったから、一日だったでしょうか……。桃実が社長室に入っていくのを見たんです」


 それだけ話すと苺果は話は終わりだと言うように、ふぅと息を吐いた。


「ん?」


 もしかしてそれだけ?


 枕営業をしてるなんて、イメージで仕事をしているアイドルにとって大打撃な告白を、噂と社長室に行ったという事実だけで?


「社長室には桃実ちゃんだけ入っていったの?」

「はい」


「噂っていつから?」

「一カ月ぐらい前から聞いてたんです。社長相手に枕営業してるかもしれないって……それで、一日に……」


「社長室に入っていく桃実ちゃんを見た、と」

「はい」


 なるほど。


 僕はささっとペンを動かすと「一日」「桃実が社長室に入るところを苺果が目撃」「アイドルはしたい」「浅はか」と文字を付け足した。


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