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栖川村祟り事件【1】


 もらったから使ってみたいと言って、砂橋が室内でできる冷やしそうめんを流す機械を俺の部屋に持ってきて、俺はそうめんに合う薬味を切り刻んでいた。


「お盆に用事ってないよね?」

「……もしかして、仕事か?」


 探偵事務所セレストに迷いこんできた面倒事を砂橋が俺に手伝わせるのはいつものことだ。


 しかし、お盆に仕事とは初めて聞いた。


 探偵事務所セレストも去年のお盆はお休みだったはずだ。今年だけ例外として依頼があったのか。


「そうそう」

「なんの依頼だ?緊急じゃない依頼ならお盆は避けてもいいだろう?」

「遺産整理とお墓参りとお盆の準備の依頼」


 それならお盆じゃないといけないだろう。わざわざ砂橋がお盆に用事がないかと聞いてきた理由が分かった。


「笹川は一緒に行くのか?」


「笹川くんは実家に顔を出さないといけないので、ってすっごく悔しそうな顔しながら断ってきたよ」


 笹川の悔しそうな顔が脳裏に思い浮かぶ。よく考えたら俺は笹川が俺を睨みつける顔と、悔しそうに唇を嚙みしめる顔ばかり見ている気がする。


「遺産整理とは……」


 もし、ミステリーの中だったら遺産相続関連で一波乱がありそうなイメージだが。


「一ヶ月前にご主人が亡くなってね。息子三人が慌てて帰ってきて、色々と残った母親の手伝いとかをしていたんだけど、仕事に穴をあけてきたからお盆は帰れそうにないんだって」


 砂橋は、ゆであがって、水にさらしたそうめんを流しそうめんの機械へと移していた。このような機械があることは知っていたが、まさか自分が使うことになるとは思ってもいなかった。


「それで、その息子さんが亡くなった父親の知り合いに連絡しようと思った時に、探偵事務所セレストの連絡先があったんだって。なんでも相談にのるって手書きのチラシに書いてあったみたいで、今回、自分たち息子の代わりに母親の手伝いをしてくれないかって」


「……聞いている限りだと、息子は母親の心配をしている優しい印象だな」


 今までの依頼人にも善人だと言える者はいたが、いかんせん、善意とは真逆の感情を用いて、依頼に来る人間の方が印象深い。


「電話でも話したんだけど、本当に申し訳なさそうにしてたよ。遺産に関してはおおまかなものは生前にもう整理していたみたいだから、僕らが整理するのは家の中の荷物とか、広い物置に置いてある品物とからしいよ」


 遺産整理というよりは、掃除のお手伝いのような感覚なんだろうか。それならば、何か妙なことが起こることもない。


 俺は切り終わったネギとすりおろしたしょうがをテーブルの上に置いた。


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