緋色の部屋【25】
一度、インターホンを鳴らしても反応がなかったから、もう一度、インターホンを押す。扉の向こうから微かに音が聞こえるから、インターホンが壊れているわけではないだろう。
「砂橋くん、いると思うかい?」
「いると思うよ」
三回目を押そうかと迷っていると、扉の向こうからどたどたと足音が聞こえ、少しして、扉が開いた。
「こんにちは、佐川英雄さん」
「……あんたら、誰?」
くたびれたパーカーを着て、髭を数週間剃り忘れて、半端に伸ばしている男が顔を覗かせた。
「僕ら、ちょっと聞きたいことがあって」
砂橋くんがにこにことしながら扉に近づく。
「木村結人さんが死んだ件について」
顔を覗かせた男がドアノブを引いて、隠れようとしたのを、扉に近づいていた砂橋くんがスニーカーの先を扉に差し入れて阻止する。
「高瀬さんに関係することなので、話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「帆奈美に……?」
男は顔に動揺を浮かべて、砂橋くんの顔をまじまじと見た。幼馴染の名前を出されたら、話を聞く気にもなるだろう。どうやら、高瀬さんと佐川さんと木村さんは、長い付き合いらしい。
それならば、協力を最初から徹底的に拒むということはしないだろう。
「……帆奈美に関係があることなら」
帆奈美と名前で呼び、彼女に関係のあることならばと扉を開ける彼に違和感を覚える。
どうして、このように高瀬さんのことを気にかけている佐川さんが彼女の連絡を無視するだろうか?
「先生、入ろう」
砂橋くんに促されて、僕も佐川英雄の家の中に入ることにした。




