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緋色の部屋【23】


 俺が押しているカートのカゴの中にお菓子の材料やジャム、果物の缶詰など、目についたものを入れていく砂橋を見て、俺は眉間に皺を寄せた。


「砂橋」

「なに?」


「もう入れるな。そもそも菓子の材料なんて買ってもお前は作らないだろう?」

「弾正が作るんでしょ?」


 なにを当たり前のように言っているのか。


 確かに昨夜は菓子を作ったが、俺が菓子作りをするのは本当に久しぶりの出来事だった。


 ショートブレットは薄力粉と強力粉、バターとグラニュー糖と、塩がひとつまみあればできる代物だったから、たまたま昨日作ることにしただけだ。


 毎回砂橋が来る時に合わせて菓子を作ると思われては困る。


「菓子は作らないぞ」

「弾正のいじわる」

「いつも俺に夕飯を食わせてもらっているくせに何を言う」


 いつもとは言わないが、一ヶ月のうち半分以上の夕飯を外食か家での食事か問わずに砂橋に食べさせている気がする。俺はこいつの保護者でもやっているのか。


「あ、湯浅先生から連絡が入った」


 ポケットからスマホを取り出した砂橋はそういうと、俺の方を見た。


「佐川英雄の住所が送られてきたよ。連絡が取れないっていうから、自宅に確認してきてほしいって」

「高瀬の連絡に出ないのか?」


 佐川英雄と言えば、木村結人と同じく高瀬のことが好きだった男のはずだ。高瀬の連絡ならば反応すると思うのだが。


 もしかしたら、高瀬と同じ大学の受験に落ちてしまった時に、木村結人に高瀬を奪われて、それからはあまり関わらないようにしているかもしれない。


 知り合いでもない他人の心は俺には分からないから、色々妄想するのはやめよう。本当のことは当人ぐらいしか分からないだろう。


「それじゃあ、明日は佐川英雄の自宅に行くのか?」


 どうせ、俺が運転して砂橋を連れて行くことになるのだろう。


「弾正は一緒に来なくていいよ」

「……は?」


 砂橋が移動手段に俺を使うのがいつものことなので、思わず素っ頓狂な声が出てしまったが、決して一緒に来てほしいと言われたいわけではない。


「佐川英雄のところには、僕と湯浅先生が行くからさ」

「……分かった」


 それなら、俺は明日は自宅で待機か。大人しく仕事をしていよう。


「その後、木村結人の家で合流するから、弾正は先に高瀬さんと一緒に僕らの到着を待っていてよ」

「高瀬と、待っていて……?」


 どういう指示だ。


 今まで砂橋から何かを頼まれることは多かったが、砂橋不在の中、依頼人と現場に待たされることは初めてのことだ。


 そこまで無茶ぶりというわけではないから、引き受けるつもりだが。


「ほら、湯浅先生と昔話をするからさ。お留守番じゃないだけましでしょう?」

「留守番でも俺は別にいいんだがな」


 砂橋がリンゴをカゴの中に入れたのを見て、俺はリンゴを棚に戻す。不服そうな顔をする砂橋に俺は首を横に振った。


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