緋色の部屋【15】
「ていうか、先生?さっきからずっと木村結人の写真を眺めてるみたいだけど、顔でも気に入ったの?」
確かに、背格好が知りたいという意見はもっともかもしれないと思ったが、それにしても、先ほどからずっとスマホの写真を見ているような気がする。
「そんなに見てたかい?でも、顔は全然気にしていなかったな~。僕が見てたのは、足だよ」
そう言いながら、彼はテーブルの上に自分のスマホを置いて、写真をこちらに見せてきた。
ひつまぶしを食べるまでは木村結人の写真を見ないでおこうと決めていた俺の考えが簡単に捻じ曲げられた。
写真の中央で木村結人がカメラに向かってピースをしていた。満面の笑顔で、上半身裸の彼の向こうには川が映っている。男性用の黒い水着の下から伸びている木村結人の足を湯浅先生は指さした。
「彼の足首、脛あたりを見てごらん」
そう言いながら湯浅先生が写真を拡大する。足には痣のようなものが見られた。何かにぶつかってできた痣かと問われたら、そうではないと答えることができる、網目状に広がった赤い痣が木村結人の右足にあった。
「この網目状の痣は、電気ストーブによる低温火傷なんだよ」
「低温火傷?こんな痣になるの?」
「まだ大丈夫な方だけどね。これは、電気ストーブの傍に座っていたかな?」
右足の外側に網目状の痣がある。
木村結人の家でも、ノートパソコンが乗っていた黒焦げのテーブルから見たら、電気ストーブは右側にあった。
「この写真は最近のものかな」
「火事の一週間前に会社の同期と一緒に河原でバーベキューをしていた時の写真だと言って送ってもらいました」
俺や砂橋よりもしっかりと高瀬から情報をもらっている。
「じゃあ、その低温火傷ができるほど、木村結人は日常的に近い位置にあるストーブをつけていたってこと?」
「そうなるね」
湯浅先生はそこまで言うとスマホを自分のポケットへと戻した。
日常的に木村結人がストーブを自分の近い場所に置いていて、最近も電源をいれていたとなると、彼が死んだ火事が事故だという裏付けがどんどん固まっていくような気がした。
別に、本当は木村結人は死んでいなかったとか、これは殺人事件で木村結人を殺した犯人がいるなどという突拍子もない小説の中のようなことが起こってほしいとは思わないが、それでも「これは単純に事故でした」と高瀬に報告するのはいかがなものか。