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学校潜入編【20】


 思わず、素っ頓狂な声をあげそうになったのを喉の奥で止めて、俺は依子を見た。


「中学校で殺人事件なんて起こるわけないだろう」


 ちっちっちっと依子は立てた人差し指を横に振った。


「私たち、見ちゃったんだよね」

「ねー」


 依子と夕夏は顔を見合わせて、二人でくすくすと笑った。


「私ら、一時間目は理科室で授業だったんだけど、そこから裏庭が見えるんだよね。それで理科の実験中にちょっと裏庭を見てみたら、死体があったの!」


「ほんとにびっくりしたよねぇ~。ああ、でもすぐに人が数人来て、ブルーシートで覆われちゃったから、私たちしか見てないんだけど」


 ふと、教室の扉が開いて、先ほどトイレに行くために俺のことを「おじさん」と呼んだ男子生徒が帰ってきた。


「お前ら、まだ死体の話してんのかよ」


「なに?本当に私らは死体見たんだからね!」


 大袈裟に肩を竦めた男子生徒を依子が睨みつけてつっかかる。しかし、男子生徒はため息をついた。


「いや、俺達が見た時にはもうブルーシートで覆われてたし」


「そのブルーシートはきっと死体を隠すためのものだったんだって!」


 俺は心の中で冷や汗をかきながら、男子生徒と依子のやり取りを聞いていた。願わくば、男子生徒に依子を言い負かして、死体などなかったことにしてほしいが、残念ながら、死体が裏庭にあるのは変えようもない事実だ。


「だから、今日から裏庭の工事だから、そのためのブルーシートだって言ってんだろ?エイプリルフールでもねぇんだから、誰が騙されるかっての!」


 男子生徒は、小馬鹿にするように依子を見て、鼻で笑うとさっさと自分の席へと戻っていった。


「もう!ほんとに訳分かんない!私たちが見たのは絶対人間の死体だったのに!しかも男子生徒の!」


 生徒の死体は男だったのか。


 とにかく、死体の話をこれ以上二人にさせるのはまずい。周りが信じていないからと言ってもここまで自信満々に吹聴されるのは、誰も望んでいないだろう。


「そもそも、この椅子は借りててもいいのか?」


「あー、大丈夫大丈夫。それ、葛城の椅子だから。今日は学校に来てないみたいだし」


 彼女はやはり死体の話をしたいように軽くそう言うと、今度は俺の方を見た。


「で!ダンジョー先生はどう思う?」


「どう思うとは?」


「ほら、死体が裏庭で見つかったんだよ?犯人は誰だと思う?」


「いや、裏庭から死体が見つかっただけでは、誰が犯人とは分からないだろう」


 死体が見つかっただけで犯人が分かるんだったら、探偵も警察も苦労しないだろう。


 そんな推理小説があるのなら一度読んでみたいものだ。


 そんな中、夕夏が口を開く。


「でもさ、死体って葛城じゃないの?ほら、被害者くんも今日は来てないみたいだし」


「被害者くん?」


 名前でも苗字でもない単語に俺が首を傾げると、夕夏はちらりと確認するように依子へと視線を投げかけた。視線を受け取った依子は少し考えてからゆっくりと頷いた。


「葛城にいじめられてるから被害者くん。葛城も被害者くんも今日は無断欠席してるっぽいし」


 いじめ。


 今日、学校の来た目的ではあるものの、こんなにいきなり核心までたどり着くとは思わなかった。


「いじめなんかあるんだな」


「あ、私らは全然関わってないよ。つーか、葛城が勝手に被害者くんに絡んでるだけって感じ」


 依子は聞いてもいないのに弁明するようにそう言った。


 確かに男子生徒の死体を発見して、そして、いじめの加害者と被害者が二人とも無断欠席という状況なら、どちらか一人が死体になっているかもしれないと考えることもできるが。


「どうして、死体がいじめをしている葛城だと思っているんだ?」


「だって、被害者くんの方はSNS、更新してるし」


 依子の言葉を察して、スマホを取り出していた夕夏が画面をしばらく捜査して、該当の画面を俺に見せてきた。


 アイコンはSNSの初期設定から変えられていないし、名前も「雑多呟き」とだけなっているが、これが被害者くんとやらのSNSなのだろうか。


「みんな、知ってるよ~。これが被害者くんのSNSだって。一応、みんなSNSでは繋がってるからさ」


 俺が中学生の頃は二つ折りできるガラケーと言われるものを持っているか持っていないかという状態だったが、その時にはSNSというものもなく、そこまで仲良くないクラスメイトとは全くメルアドを交換していなかった。


 今では皆が連絡先を交換しているのだろうか。


 それは少し、窮屈だな、と今の中学生ではない俺は少しだけ思った。


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