学校潜入編【9】
朝日多北第一中学校。いや、今は朝日多中学校だ。
表の門はバスが二台並んで通っても問題ない程の大きさの門があり、登校の時間も終わった今は黒い門によって閉じられていた。それに対して、裏の方には人が二人並んで通れる程の大きさの扉があり、普段は鍵がかかっているはずだが、今はその前に校長先生が立っていた。
「お待ちしておりました。砂橋さん、弾正さん」
「お疲れ様です。渡辺校長」
砂橋が軽く会釈をしたのに習い、俺も会釈をすると渡辺校長は微笑んだ。
「弾正さんにとっては懐かしいかもしれないですね」
中学校は、卒業して以来訪れたことがない。昔と比べて、地震の対策工事などをしたのか、壁に斜めの柱のようなものが新しく出来ていた。それは俺が通っていた頃はなかったものだ。
裏門から入ると右手には裏庭がある。池が二つあり、その間に石の橋が渡されている。形から当時はひょうたん池と言われていたが、今はどのように呼ばれているのだろう。
しかし、ひょうたん池を含めた裏庭は全て簡易的な柵がたてられたいた。地面に刺された鉄の棒が等間隔で並んでおり、その間にロープが通されている。
「ああ、裏庭は弾正さんが通っていた頃もありましたよね」
「はい。立ち入り禁止になったんですか?」
「もう池も古いので今日から工事をするんですよ。本当は昨日から工事をする予定だったんですが、ほら、昨日はどしゃぶりだったでしょう?」
ひょうたん池の工事。埋めるのだろうか。よく小学生から少し背伸びした程度の一年生がはしゃいで橋の上を歩いていたり、定期的に行われる池の掃除を誰がやるかじゃんけんになっていたりした。それがなくなるのか。
「確かに昨日は雷も鳴ってたもんね。工事なんてできっこないよ」
砂橋が興味本位でロープを越えようと近づくのを腕を掴んで止めた。さいわい、前を歩いている渡辺校長には俺達のやり取りを知られることはなかった。
この学校は俺の母校だし、中学校の頃の知り合いもいる。
いつも以上に砂橋には余計な行動をさせるわけにはいかないのだ。今日一日がとても疲れることが目に見えていて、俺は思わずため息を吐いた。
そんな俺の顔を見て、砂橋はにやにやと笑っていた。




