学校潜入編【6】
「分かった。影虎くんが言うなら砂橋さんの前で小説の話はしないでおくね。講話の時はどうするの?」
俺は頭を抱えた。
そうだ。先ほど砂橋が校長先生に提案していた講話がある。砂橋は俺をからかったつもりだろうが、校長先生からしてみれば、有名ではないが、母校から小説家が出たということは箔がつくことになる。講話したいだろう。
何より、あの目は、俺に講話を頼む気満々の目だ。
「……もし、講話をするとしても砂橋の参加は許さないつもりだ」
「大丈夫なの?講話を提案したのは砂橋さんなのに……」
「なんとか、する……」
そもそも、俺が小説を書く話など砂橋は興味ないだろう。
ならば、俺の講話中は砂橋が興味を持つようなことが起こればいいわけだ。
殺人事件とか。
いや、この考えはいけない。
物事の解決の手段に殺人などという行為は考えてはいけないのだ。どうも砂橋と関わるようになってから、殺人が身近なもののように感じてしまう。
しかし、飲み込まれてはいけないのだ。
俺まで殺人を当たり前だと思うようになってしまったら、誰があの暴走列車のストッパーになれるというのだ。
「影虎くんも大変だね」
「ところで、目星はついているのか?」
「目星?」
「いじめの犯人や被害者の目星だ」
七瀬のジャケットのポケットにメッセージが書いてあるメモが入っていたのであれば、いじめがある可能性が大きいのは彼女が担任を務めるクラスだろう。
担任ならば、何か引っかかるようなことはないのか。
「……ちょっと分からないかな。ほら、まだ五月だしさ。新学期が始まって、初めてクラスを持つことになって……もし、いじめがうちのクラスで起こっているのなら、こんなことは言い訳にもならないと思うけど……」
彼女は両手でグラスを持つと自分の気持ちを宥めるようにグラスを持つ指を撫でた。
確かに彼女のクラスでいじめが起こっているのならば、七瀬が忙しいことを理由にそれに気づけないと言っても言い訳にもならないだろう。
少なくともいじめに合っている被害者とその保護者はその言い訳を受け入れたりしないだろう。
しかし、何も知らない状態だということは生徒達が全てを完璧に隠す努力をしているということになる。
その状態で、何も気づかなかった学校側はどう責任を取ればいいのだろう。
少なくとも、いじめがあるかもしれないと言って、いじめ調査のアンケートまでして、探偵事務所まで来た彼女達を「何もしていない」と責めるのは早計だ。




