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学校潜入編【5】


「それでは学校でも色々と準備があるでしょう。いつ頃、学校に行くことができるでしょうか?」


「そうですね……」


 校長先生は鞄の中から手帳を取り出して、該当ページを開いて、指先で日にちを確認し始めた。


「来週の月曜日の午前九時頃に裏門から学校に来てください。場所は弾正先生が分かっていると思いますので……」


 校長先生が心配するように俺の方を見た。


 自分の母校だ。場所を覚えていないはずがない。裏門も知っている。


「大丈夫です」


「ああ、それはよかった」


「ところで、今回の料金のことですが……」


 砂橋と校長先生が料金についての話を始めたところで、やんわりと俺と七瀬は席を外すように二人から促された。


 俺は七瀬に「このビルの一階に喫茶店がある」と誘い、探偵事務所から出ることにした。


「影虎くんが紹介してくれた探偵さん、若かったね」


「あれでも同じ歳だ」


「あ、そうなの?」


 砂橋の背を見て、七瀬は俺や自分よりも若いのだと思ったのだろう。


「ちょっと気になってたんだけど、影虎くんが書いてるミステリーの探偵さんってあの人じゃないんでしょ?」


「……どうしてそう思うんだ?」


 彼女は喫茶店に先に入ると入り口近くのテーブル席へと座った。喫茶店硝子匣のマスターである四条がカウンター席から出てきた。


「おや、女性の方と二人とは珍しいですね」


「中学の頃の同級生だ」


 にこにことこちらを見る四条に俺はため息をつきたくなった。俺がいつも砂橋と二人でこの喫茶店に来るのを彼は知っている。だから、こちらをからかいたいのだろう。


「探偵事務所を影虎さんに紹介してもらったんです」


「そうだったんですか」


「マスター。アイスコーヒーを一杯」


 俺が注文をしたのを見て、七瀬が慌てて、手に取っていたメニュー表へと視線を落とした。えっと、と悩みながらメニュー表の上に指先を滑らせる。


「私はアイスカフェオレで」


「分かりました」


 四条は余計なことは言わずにカウンターへと引っ込んでいった。もし、次に砂橋と一緒に喫茶店に来た時、他に客がいなければからかわれてしまうんだろうと未来のことを想像しながら息を吐いた。


「そういえば、さっきの質問だけど、あの探偵さんはいい人そうだったでしょう?私が出したメモを真剣に見てたから、きっといじめ調査にも真剣に付き合ってくれると思うの」


 七瀬、それは間違いだと俺は声を大にして叫びたくなるような衝動を抑え込んだ。


「でも、影虎くんのミステリー小説に出てくる探偵は、ちょっと性格が悪いというか、事件を楽しんでいる節があるでしょう?だから、本当にミステリー小説の探偵さんは空想のものなんだなぁって思ったの」


 砂橋が聞いたらどう思うだろうか。


 完全に七瀬は砂橋が良い人だと思っているし、いじめ調査に真剣に取り組むと思っている。いや、俺から見たら砂橋は依頼に対して真剣に向き合っている時とそうでない時があるかもしれないが、本人がどう考えているかは分からない。


 真剣に取り組む気がないようでいて、砂橋はいつも真実へとたどり着くし、真実を見つけるための調査をしているのだ。


 あと、長年付き合っていて分かることがある。


 砂橋は努力などを人に見られることを非情に嫌っている節がある。そのため、頑張っていると思われるのは砂橋にとっては最悪の事態なのだろう。


「……七瀬。話しておきたいことがあるんだ」


「え?話しておきたいこと?」


 俺がそう切り出したと同時にテーブルの上にアイスコーヒーとカフェオレが置かれた。


 先ほどから絶妙なところで割って入ってくる四条に視線を投げかけると彼は俺に向かって微笑んだ。もしや、わざとやっているのではないだろうか。


「それで、話しておきたいことって?」


「砂橋には俺が探偵もののミステリーを書いていることを教えないでほしいんだ」


「えっ、どうして?」


 よくよく考えてみれば、勝手に砂橋を元にしたミステリーを書いているというのは非常識だろう。しかし、同じような横暴を砂橋が行うのを俺は許しているし、それに対する意趣返しだとすれば、砂橋も俺に文句は言えなだろう。手酷い仕返しはやってくるかもしれないが。


「下手に読まれて、ミステリーのトリックの指摘などをされたら、俺の心が折れる」


「あ、あー……」


 七瀬は気まずそうに目を逸らして、カフェオレに刺さっているストローに口をつけた。


 俺が小説が書いている作品は砂橋が解いた事件を元にしているが、まるっきり推理を持ってきているわけではない。そのため、小説の中のみ成立するようなものはもちろんあるわけで。七瀬もそれは分かっているため、俺の言葉を真に受けたのだろう。


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