弾正誘拐編【13】
書斎には書き物机と重たそうな椅子、そして、その手前に二つの向かい合った赤いソファーにガラス張りのローテーブルがあった。壁には六段程の棚がある本棚があり、その棚のほとんどがぎっしりとファイルや本などで埋まっていた。
「すごい……薫のお父さんってここで仕事してるんだ?」
「うーん。私もよく知らないけど……ずっとこの部屋にいるわけでもないと思うよ」
耀太さんの言葉に困ったように笑った薫さんは、先ほど長谷川さんに言われた通り、本棚の一番下の段にあると言われたアルバムを探すためにかがんだ。それに倣って耀太さんもかがむ。
アルバムとは言うものの、僕にはアルバムを開いた記憶がないので、それがどういうものか想像があまりできない。カメラ屋の店頭にならんでいる分厚い本は知っているが、本棚を離れた場所から見ただけでは、そこまで分厚い背表紙の本はない。
アルバム探しは二人に任せようと僕は紫吹さんが使っているだろう書き物机へと近づいた。
椅子の右側に引き出しが三つあり、一番上の引き出しには鍵がかかっていた。試しに手をかけて引っ張ってみるが、鍵はきちんとかけているようで開く気配はない。
二段目を開くとそこには万年筆とインク壺、その他もろもろの文房具などが引き出し用のケースによってきちんと分けられていた。紫吹さんはずいぶんと几帳面な人らしい。
「アルバムってこれじゃない?」
耀太さんの声に僕が顔をあげると、薫さんも耀太さんの方へと目を向けた。彼の手には僕が想像していたアルバムよりもずいぶんと薄い本があった。
「それがアルバム?」
近づいて見てみると赤い表紙に「ダイアリー」と書かれている。西暦などを書く欄には何も書かれていなかった。
「ずいぶんと薄いね」
横から見てみるとページ数は十ページ程だろうか。
アルバムは本のページと違い、太いため、冊子程度の大きさだとこのページ数がちょうどいいのだろうか。
背表紙はだいぶ擦り切れている。何回もアルバムの中身を見直していたのだろうか。
「見たことがないアルバムですね」
薫さんがそう言うなら、このアルバムを見ている人間は紫吹さんしかいないだろう。一人でここまで背表紙が擦り切れるまで読み返しているのか。ずいぶんと思い入れがあるに違いない。




