配信殺人と呪われたゲーム【37】
いつ蒼梧と来島が探偵事務所に来るか分からないから出前をとろうという話になり、俺と砂橋は笹川に連絡を入れて出前をとらないかという話をした。笹川は電話の向こうで二つ返事でオーケーしていた。
「ただいま~」
「あ、砂橋さん。お寿司ですけど、二十分後ぐらいに届きます」
笹川の言葉に砂橋は「ありがとう~」と返した。ローテーブルに三人分の寿司が置いてある。ソファーには二人ずつ座れるため、必然的に一人で座る人間が出てくるが、砂橋は給湯室で手を洗ってくるとすぐに一つだけ寿司だけ置かれた側に座った。
俺と笹川は思わず二人して目を合わせてしまい、すぐに顔を背けた。
「ところで、笹川くんはゲーム全クリしたの?」
「しましたよ。最後の日まで鍵のかけ忘れでした。ゲーム内のゲームについては世界で一人きりになった勇者が最終的に高い塔から跳び下りて死ぬんですけど、そのエンディングになると主人公のゲームが終わった後にマンションのベランダから飛び降りて死ぬんです」
すらすらとゲームのネタバレをし始める笹川に隣に座っていた俺は思わず身体を強張らせた。しかし、砂橋はそれを静止することもなく、マグロへと箸を伸ばしていた。
どうやら、ゲームをプレイする気はもうないらしい。データはノートパソコンの中に入っているが、呪われたゲームが入っていたUSBはもう持ち主の場所へと戻っている。
「他のエンディングはないの?」
「あります」
笹川はすでに寿司の中にワサビが入っているにも関わらず、醤油を入れた小皿にもワサビを付け加えた。イカの寿司の上にワサビをさらに乗せると醤油をつけて、そのままいただく。
「最初の日。黒い包みが郵便受けに入ったのを確認した後、ゴミ箱を調べるんです。そしたら、中身を見ないまま捨てることができて、何も起こらずに終わります」
「ふーん。そんなエンディングがあったんだね」
砂橋はサーモンの寿司をぱくりと口に放り込んだ。
そういえば、笹川はどうなったのかを一切聞いてこないが、この事件の顛末を知っているんだろうかと首を傾げた。すると、砂橋がため息をついた。
「笹川くん。僕のスマホに盗聴アプリいれたでしょ」
「……入れてません」
「事件の顛末聞かないの」
笹川の箸がぴたりと止まる。
「それは後でニュースを見れば分かることですし……」
「あとGPSで追跡するのもやめてくれる?」
「……そんなことしてません」
「じゃあ、よく足音も外から聞こえないのに僕らがやってくる前に土下座して待ってられたね」
笹川は息を吐くと箸を皿の上に綺麗に揃えて置いて、ソファーから立ち上がる。
そして、周りの何も置いていない床の上にしゃがむとゆっくりと頭を下げた。
綺麗な土下座だった。




