配信殺人と呪われたゲーム【36】
「……真鍋は、どうして自分のファンを殺してしまったんだろうな」
「彼女を訪ねた時に見た家の中、床にはいくつかの開封された封筒。積み上げられていたゲームのソフト。就活中。心に余裕がなかったんじゃない?」
砂橋は「劣等感」と先ほど真鍋に向かって言っていた。
彼女が劣等感を持った要因としては転がっていたのかもしれない。
後輩である来島はゲーム会社に勤めている。一方、真鍋は個人でゲームを制作してネット上でタダでゲームを配布していた。しかも、彼女のゲームのダウンロード数は少なかったらしい。
「いるよね。腕がいいわけでもないのに、褒める以外の意見を自分に対する攻撃だと捉える人」
「……確かにな」
砂橋が軽い足取りで階段を下りるのに続いて、俺は重い足取りを階段に乗せた。
もし、彼女の就活の予定がずれていたら、来島の言っていた成瀬の表情を見ていたら、結末は変わっていたんだろうか。
自分の作ったものを本当に喜んでくれているのだ、と分かっていたら、変わっていたのだろうか。
「弾正」
暗くどんよりとした空気の中、砂橋が俺に声をかける。
「お腹すいた。そういえば、お昼食べてないじゃん。今からでも食べに行こうよ」
あっけらかんとした表情は、この状況に不釣り合いなはずのに、それがこの状況に一番合っているような気がした。
ああ。俺はいつの間にかこの異様な空気に毒されてしまったのか。俺は深くため息をついた。
「ああ。そうだな。そういえば、腹が減っていた。何が食べたい?」
「そうだなぁ……」
砂橋は考え込むように少し上の空中を見上げた。そのまま足を踏み外さないか心配になる。
「そばとかいいんじゃない」
「残念ながら、それだけは却下だ」




