配信殺人と呪われたゲーム【35】
「どうして」
「彼女が犯人だと思ったのか?」
俺が言いかけた言葉に、やっと口を解放された砂橋が先の言葉を予想した。俺は頷く。
砂橋が玄関から外に出たので俺もその後に続く。
扉を閉めたところで砂橋は腰を落として、かがんだ。ちょうど郵便受けの場所の高さに砂橋の目がある。
「配信をスマホで見ていたとしたら、成瀬さんが玄関の方に行くかどうか、すぐに分かったと思う。そしたら、郵便受けの片手で開けて、その中に針を持った手を滑り込ませる。女性の細い手なら入ることができるでしょ」
そこから手を入れた先にあるのは成瀬唯香の太ももだったわけだ。その針にそば粉を塗っていれば、そばアレルギーのせいで大変なことになるのは分かっていただろう。
「でも、コメントである程度玄関に行くように指示することはできても、いつ玄関まで行くか分からなかったろうから、真鍋さんは成瀬さんが配信してる間、ずっとここでしゃがんでたんだろうね」
隣が空き家で、さらにここが最上階でよかったね、とけらけらと砂橋は笑う。
隣が空き家でなければ、ここがマンションの最上階でなければ、数時間も人の家の扉の前にしゃがみこんでいる不審な人物として目撃されていただろう。
そうだったら、真鍋は通報されていて、今回の事件は起こらなかったかもしれない。
それどころか、真鍋はこんな馬鹿げたことをしようとは思わなかっただろう。
「そもそもどうして成瀬唯香が他殺だと思ったんだ?アナフィラキシーショックって分かった時点で俺は事故を予想したんだが」
「成瀬さんは一一〇番通報したんだよ」
砂橋はポケットからスマホを取り出して、軽く左右に振った。
「ただ自分の不注意でアレルギー反応が出たら、救急車を呼ぶ。それなのに、成瀬さんは一一〇番通報をした。何故なら、危害を咥えられたからだ。彼女は自分が第三者に危害を加えられたと自覚した。そして、扉の向こうに加害者がいることが分かっていた。だから、一一〇番通報したんだ。そして、最後、配信を切ろうとしたのか、パソコンのところまで行って、それは叶わなかった」
彼女が一番最後にとった行動で砂橋は他殺を確信したのだ。
警察だったら、そんな曖昧なことで事故か他殺かを判断できないのだろう。
所詮、探偵の所業だ。
当たれば警察に手柄を渡す。当たらなければ、それまでだ。探偵は犯人を逮捕する権限などない。だから、思いのままに思いついたことを言えるのだ。
もし……もしも、いつか、砂橋が間違った推理をしてしまったら、どうなるのだろう。
砂橋は笑って「間違えちゃった」と言うだろうか。それとも人並みに間違った人物を犯人扱いしたことに罪悪感を感じるだろうか。




