配信殺人と呪われたゲーム【34】
「砂橋、それぐらいにしておけ」
熊岸警部の言葉に砂橋は「はーい」と素直に従った。
「このぐらいで勘弁してあげようかな。それじゃあ、熊岸警部。成瀬さんのパソコンから真鍋さんとの会話でアレルギーのことを話しているかどうかの確認と昨夜の真鍋さんのアリバイの確認とか」
「もういい加減にしてよ!」
真鍋が砂橋の胸ぐらを掴んだ。いきなりのことで俺も熊岸警部も一歩前に出た。凶器を持っていないのならすぐに取り押さえた方がいいだろう。
「あの女、ねちねちねちねち私のゲームをやってはあら捜ししやがって!初めての実況をしてもらったと思ったら、楽しかった、もう少しストーリーの深いところまで知りたかったとか、一言多いのよ!それどころか私がゲームを出す度に実況をして、私のゲームのあら捜しをして……!私のゲームをやってちやほやされてうざかったのよ!」
心の溜まっていたどろどろとしたものを吐き出すように叫ぶ彼女を砂橋は無感動の目で見ると大きくため息を吐いた。
「好きじゃなきゃ二度とその人が作ったゲームなんてやらないと思うけど。君、馬鹿だね」
俺は慌てて、砂橋と真鍋の間に入り、真鍋の手を掴んで砂橋から離した。
「馬鹿?馬鹿ってなによ!私だって、ずっとゲームを作ってきたのに、あの女……!」
「なんで……なんで分からないんですか?」
目を吊り上げた真鍋に対して声を出したのは、先ほどまで顔面蒼白になりふらふらとしていた来島だった。
「毎回、新作を出す度にやってくれるファンだったんですよ。あら捜しってなんですか。ストーリーのもっと深いところが知りたいってことはもっとゲームをやりたいってことじゃないですか。自分のゲームを出したところで全然ダウンロードもされないゲーム制作者のゲームを毎回実況して……」
来島の目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。
「俺が彼女に、USBを渡した時に、お菓子よりもゲームをもらってすごく嬉しそうにしていたのに……!どうして、あなたはそんなにひどいことを言うんだ!」
来島はそこまで言うと耐えきれなくなったのか、自分の袖に顔を押し付けて泣き始めた。
「いるよねぇ。こういう劣等感で現実を歪めて見てしまって、自分が不幸だって思い込むようなバ」
俺は慌てて砂橋の口を両手で塞いだ。砂橋が鬱陶しそうに俺の顔を見る。俺はただただ首を横に振った。
「とりあえず、全員ここを出てくれ。真鍋さん、詳しい話は署で聞かせてもらいます」
真鍋は熊岸警部に連れられ、現場を後にした。
泣いている来島を心配そうに眺めた蒼梧は「一成が大丈夫になったら、また後で探偵事務所に伺いますっ」と俺に言うと、涙が止まらない来島を支えてゆっくりとマンションの階段を降りていった。




