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配信殺人と呪われたゲーム【33】


 真鍋は砂橋からひったくったUSBをポケットの中にいれるとため息をついた。


「ゲームは返してもらいましたし、用は済んだでしょう。私は帰りますよ」


「ねぇねぇ、真鍋さん。郵便受けに手って入るよね?」


「……は?」


 砂橋は、扉に備え付けてある郵便受けを指さした。


「女性の手少し中に入れることができるでしょう?細くて長い針とかがあったら玄関の外から玄関前に来た人の足を刺せたりするでしょう?ほら、配信中に立ち上がった成瀬唯香さんが玄関に近づいた時にぐさっと」


「……なんの話をしてるんですか」


 突拍子もないことを言い出した砂橋を真鍋は睨みつける。


 俺も砂橋がいきなり言い出したことが理解できない。


「それは、成瀬唯香の足にあった傷のことを言ってるのか、砂橋?」


 熊岸警部の言葉に砂橋はこくりと頷いた。それを聞いて真鍋はため息をついた首を横に振る。


「針の傷だかなんだか知らないですけど、死ぬ直前についた傷とは限らないと思いますけど」


 真鍋の言い分ももっともだ。その傷がいつついたものかは分からない。


 確か、配信中の成瀬唯香は短いパンツに長いソックスを履いていた。足を引き締めると言われている商品だった気がする。


「配信中、立ち上がった時に見えたじゃん。唯香さんの太もも。怪我なんてなかったよ。だから、太ももの傷は玄関に行った後に出来たものだ」


 そういえば、そうだった。成瀬唯香が配信中に立ち上がった時に彼女の太ももが見えた。コメントでもそれを指摘するものがあったような気がする。


「そもそも誰かが玄関の外にいたとして、どうしてその成瀬さんが玄関先に来るなんて分かるの?」


「三回も四回も鍵のかけ忘れて死んだら、そりゃ玄関の鍵をかけたか気になるでしょ」


「……まさか、それだけで?私が呪われたゲームで何度か鍵をかけ忘れたことでゲームオーバーにしたから?冗談じゃないわ。それで殺人犯にされるんだったらもっと多くのゲーム制作者が殺人犯になってるわよ」


「コメントする時の名前、変えた方がよかったんじゃない?」


 砂橋の言葉に真鍋は目を見開いた。


 コメントする人間のことなんてまったく気にしていなかった。真鍋が成瀬唯香のコメント欄にいたというのか。


「動画配信のコメントってコメントに登録してる名前が見えるんだよね。ねぇ、MANABEさん?最初のコメントで「ゲームをプレイしてくれてありがとうございます」って言ってるから、コメントをしてるのは君で間違いないんでしょう?」


 コメントなんて一切気にしていなかったが、そんなコメントがあったのか。砂橋は笹川の席に座った俺を押しのけてパソコンに近づいていたから細かいところまで見ていたんだろうか。


「何度も何度も、指摘されれば不安になったりするよね?」


 生配信中にあった「鍵をかけているか」というコメントのことだろうか。彼女はコメントでいくつか同じようなことを言われ、心配になり、玄関に向かった。


 あのコメントのうちいくつかを真鍋が書いていたのだろうか。


「……だから?コメントをしたからなに?私がゲームで鍵をかけ忘れてただけゲームオーバーするように作ったからなに?それで犯人だって言うの?」


 確かにそれじゃあ、証拠が不十分すぎる。


「な、なんで……俺にお菓子を作って渡せばいいって言ったんですか?」


 今まで砂橋と真鍋のみが話していた中に、来島が震えた声を出した。その言葉に真鍋は目を丸くする。


「真鍋先輩、言いましたよね。俺にお菓子を渡した方がいいって。なんでそんなことを言ったんですか?」


「知ってるでしょ?私も来島が作るお菓子好きだったし、来島が得意なお菓子を渡せばいいって言っただけじゃない。私はナユユンがそばアレルギーなんて知らなかったんだから、他意はなかったのよ」


 その瞬間、目に見えて分かる程、砂橋が楽しそうな笑みを口元に浮かべた。


「どうして、成瀬さんがそばアレルギーだって知ってるんですか?誰もそんなことは言ってないですよね?」


 真鍋も自分の失言に気づいたようで砂橋から目を逸らす。


「私は配信で知ったのよ。ナユユンがそばアレルギーだって」


「それならどうしてナユユンのファンである来島くんがそのことを知らなかったのか説明がつかないでしょ?」


 砂橋は水を得た魚のように真鍋の揚げ足取りをする。とても楽しそうで、入り込む隙がない。


 俺は熊岸警部と目を合わせて、二人して息を吐いた。


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