配信殺人と呪われたゲーム【29】
「砂橋さん、どうぞ。録画です。二倍速でナユユンが倒れるところまで見ますか?」
「大丈夫」
四日目が終わったところで、俺と砂橋はソファーから立ち上がって、笹川のデスクへと向かった。砂橋は自分のデスクから椅子を引っ張ってきた。俺は立ったまま、笹川のパソコンのモニターを見た。
「……座っていいですよ」
笹川がわざとらしく肩を竦めて、席から立ち上がった。
「砂橋さん。セーブデータ分けるんで、俺もゲームやっていいですか?」
「うん、いいよ。好きにして」
「ありがとうございます」
笹川はデスクの上で空になっている湯のみを手に取って、給湯室へと向かった。
『こんにちばんわ~。ナユユンだよ~』
パソコンから女性の高い声が聞こえてくる。画面の大部分に呪われたゲームの開始画面で、右下にナユユンらしき女性の顔が映っていた。
彼女が成瀬唯香だ。
今回、呪われたゲームをもらって、配信をすることになったという説明とゲームについて喋っていく。何度も配信をしているから慣れているのだろう。
『実はですね、今回、このゲームのデータをもらった時に手作りのお菓子ももらったんですよ!たまごボーロ好きなんですよね。ずっと食べていられるあのサクサク感がたまらないですよね』
彼女はたまごボーロとそばボーロが入っている袋を見せてきた。袋の口を開けて、画面の中にお菓子が現れる。彼女は袋を口を閉じて、テーブルの上に置いた。
俺たちがやった時と同じく、彼女も何度もゲームオーバーの画面にたどり着いていた。
一度、砂橋が動画を倍速にする。二倍速は最初聞き取りづらかったが、少しすると耳が慣れた。
「一時間半。僕らと同じくらいの進み具合だね」
画面の大部分はゲーム画面で、右下にナユユンが映っている。そして、その上にはいくつか文章が並んでいる。きっと生配信中のコメントだ。
『鍵閉めなさすぎでしょw』
『これ、鍵閉めるだけで終わりそうなゲーム』
『ナユユン、鍵ちゃんとかけてる?』
『ナユユンも鍵かけるの忘れてそうw』
確かに鍵のかけ忘れに関しては俺達もそう思った。
ナユユンも主人公が鍵のかけ忘れをしていることを笑っていたが、少ししてちらちらと後ろを振り返るようになった。
『鍵、ちゃんと閉めたかな……』
ナユユンが心配そうにそう言う。
『えー、ちょっと怖くなってきたので鍵の確認してきますね!』
砂橋は倍速にするのをやめた。
ナユユンが席を立ち上がって、玄関へと向かう。
低いテーブルにパソコンが置いてあるため、彼女が立ち上がるともこもことしたショートパンツと長い黒いソックスが目に入った。
しばらくして小さな悲鳴が聞こえ、ふらふらとした足取りでナユユンが画面内に戻ってきた。息が荒い。いや、呼吸困難になっている。右手にはスマホが握られており、彼女は配信画面の前に倒れ込むとテーブルにもたれかかるようにして、こちらに手を伸ばす。
彼女は死ぬまで、そのままの姿勢だった。
砂橋は、二倍速に戻した。
コメント欄がゲームをしていた時と比べて、ものすごいスピードで追加されていった。
「一つ分かったことがあるんだけどさ」
砂橋は画面をぼんやり眺めながら椅子に深く背を預けた。
「成瀬唯香さんはそばボーロを食べてない」




