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潮騒館殺人事件【15】


 先に女性陣を食堂へと送り出し、他の人間も食堂へ全員向かっているのを見て、俺は玄関に近づいた。玄関を開けてみると、窓に叩きつけるほどの強さだった雨も少しだけ弱くなっていた。玄関の鍵は開いている。


 俺は玄関の鍵を閉めた。


「小説家って思慮深いと思ってたが」


 ふと、後ろから声がしたので振り返る。まだ貴鮫は食堂に行っていなかったらしい。


「案外、弾正先生はそうでもなかったらしいな」


 貴鮫の口元は少しだけ笑っていた。どうやら、からかいにきたらしい。そんな余裕があるのなら、女性たちのフォローでもしてもらいたいものだ。


「俺だって人間だ。こんな状況に置かれたら、気性が荒くなったりもするだろう」


 思わず片手で頭を押さえる。一晩経ってもこの事態が収拾しなければ頭痛もしくは腹痛に悩まされることになるだろう。貴鮫はその様子を見て、俺の肩を叩いた。


「それもそうだな。確かに、恋人のことは残念だったが」


 俺は、自分の肩に置かれた貴鮫の手首を掴み、自分の前へと引っ張った。体勢を崩して、前のめりになった貴鮫の背をそのまま蹴りつけ、床に押さえつけたまま、腕をひねりあげた。


「いてててててっ!なにするんだ!離せ!」

「ようやく、分かりやすいボロを出してくれて助かった。これで頭痛に悩まされることもなくなる」

「なっ、なんの話だ!」


 俺は深い深いため息をついた。


 思ってみれば、なんともまぁ、怪しいことが多い。ここまで黒に近い灰色だったのだ。もっと早くたどり着いてもよかったものだろう。


「いいか?お前は何故か、俺と砂橋が同室であることに引っかかっていたようだが、他の人間はそこまで気にしていない」


「それは、死体と同じ部屋なんておかしいててててっ」


「思えば、他の連中が気にしないのも当たり前のことだろうな。なぜなら、他の連中は砂橋のことを男だと信じて疑いすらしてなかったのだから。だが、お前は気にしたな。しかも挙句の果てに恋人だと?最近は同性同士ということもあるだろうが、お前がそこまで他人に気遣うことができる人間だと、俺は思ってない」


 何か余計なことを言うとさらに腕を捻られるということに気づいたのか、貴鮫は俺を睨みつけるだけに留まった。


「砂橋はあれでも自分の性別を隠すことに関してはプロだ。この館で知っている人間がいるとすれば、俺と……砂橋が風呂に入っている時に扉を開けて、漂白剤を投げ込んだ犯人だけなんだよ」


 肩の向きなどはまったく考えずに、俺は貴鮫の腕を持ったまま、食堂へと引きずった。


「ま、待ってくれ!これには、事情がっ、事情があるんだよ!」

「知るか」


 泣き喚くような声に俺は苛立ちを隠さず、食堂の扉へと進んでいった。もとより、俺がこの事件の犯人を見つけようとしていたのはこのためだったのだ。


「お前を晒し上げてやる」


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