配信殺人と呪われたゲーム【8】
「えっと……蒼梧、本当に探偵を呼んでくるなんて思わなかったんだけど」
「だって、お前、本当に大変そうだったんだからな!」
蒼梧は来島の両肩を掴むと前後へと揺らした。
酒を飲んだのがいつかは分からないが、もしかしたら二日酔いかもしれない人間を揺らすのはやめておいた方がいいと思う。
砂橋はきょろきょろと来島の部屋を見回すと、テーブルの前に腰を下ろして、酒の缶に埋もれたあるものを取り出した。
「これ、お菓子?」
十ミリか十五ミリ程の白くて丸いものと茶色の丸いものが三寸程の深皿に積まれていた。
「あ、はい……」
「一成はお菓子作りとゲームが趣味なんですよ」
砂橋は持ち上げていたお菓子をテーブルの上に置いた。
「ふーん。でも、だいぶ放置してそうだからしけってそう」
人の家に上がり込んでまでお菓子を食べようとするなと言いたかったが、俺は言葉を飲み込んだ。
自然と砂橋の足として使われて、依頼人と共に来島の家まで来てしまったが、俺は探偵ではない。探偵事務所の一員ではなく、しがない小説家だ。
仕方ない。今更帰ることもできないのであれば、いつも通り砂橋と一緒に行動するに限る。
「とりあえず、話を聞きたいんだけど。依頼が曖昧だから来島くんも交えて話そうと思ってさ」
テーブルの周りに俺たちは全員座ることにした。砂橋の向かいに来島、右側に蒼梧、左側に俺だ。
「来島くんは今ネットで話題の、生放送中の実況者死亡の事件について、自分が犯人かもしれないと思ってるんだよね?」
砂橋の直球な質問に来島の顔が蒼白になったが、彼はゆっくりと頷いた。砂橋はそれを見て頷く。
俺はポケットからペンと手帳を取り出して、二人の話のメモをとることにした。
「それで、来島くんのことが心配になった蒼梧くんが僕のところに来た。取り急ぎ、来島くんが自責の念にかられて行動を起こしてしまう前にここに来たわけだけど……君たちの依頼はなに?」
確かに、事情が事情のため、慌ててここまで来たが、依頼内容ははっきりしない。
犯人かもしれない。
だから、どうしてほしいのだ。
もし、本当に犯人なら自首すればいい話だ。
蒼梧は来島を見てから砂橋を見た。
「真犯人を見つけることってできますか?」
蒼梧の言葉に砂橋は目を細めた。
「それは、仮に来島くんが犯人だった場合は犯人だという証拠を集めろってことでいいのかな?」
「え……」
来島は俯くばかりで砂橋の言葉には答えない。蒼梧は来島と砂橋を交互に見て、困惑する。
「だって、一成が犯人なわけ……」
「それを本人も確信が持てないから悩んでるんでしょう?ああ、でも依頼なら別に来島くんが犯人だった場合はもう調べないってこともできるよ」
意地が悪い。
来島が犯人の場合、何も言わないということは、砂橋が何も言わず事件から手を引けば来島が犯人だということになる。
選択肢は二つだが、分かる結果は一つなのだ。
「……お願いします」
俯いたままの来島がか細い声でそう言った。
「本当に……俺が犯人なら自首します……。何も、分からないなんて嫌なんです」
自分が犯人か分からない。もしかしたら犯人かもしれない。
そんな状況に自分が置かれたとしたら自分だったらどうするだろう。少なくともけろりと気分を切り替えて何もなかったことにはできない。
「分かったよ。蒼梧くんもそれでいい?」
「一成がいいなら……」
蒼梧は頷いた。
「それじゃあ、詳しい話を教えてもらおうか」