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三つのチョコ【4】


「紙袋を置いた犯人はまだ近くにいるんじゃない?」


 いつの間に紙袋を置いた人間を犯人にしているのか。


「近くって具体的にどこなんだ?」


 砂橋のいたコンビニにはいないということになったが、もし、紙袋を置いた人間が紙袋を置いた後にコンビニのトイレに行っていたとしたらどうだろう。


 砂橋と出会うこともなく、コンビニに入ってトイレにいた。だから、砂橋がコンビニに入った時には人がいなかったとは考えられないだろうか。


「コンビニっていう線もあるけど……このチョコを置いていった人が一人だとは限らなくない?」


 砂橋の言葉に「そうですね」と同意しながら笹川はチョコの箱を持ち上げた。


「この包装は三つとも違うものです。別々の店で買ったんでしょう。わざわざ一人の人間が別の三つの店に行ってチョコを用意したとは考えにくいです」


 だったら、三つのチョコはそれぞれ別の人間が紙袋にいれたとでも言うのだろうか。


 俺はもう一度紙袋に貼り付けられた紙を見る。


 Sへのバレンタインデーのチョコはこちらへ。


 その言葉の通り、ここにチョコを入れたのだとしたら?


「確かに紙袋にこの張り紙があれば、チョコを入れるかもしれないが……いや、チョコを渡す相手の名前がSでも、知らない紙袋にわざわざいれるか?」


 俺と笹川と砂橋は首を捻った。

 チョコを渡したいのなら手渡しで渡せばいいのではないか。


「あ、もしかして、高校生が好きな人の下駄箱にチョコレートを入れるのと一緒なんですかね?」

「匿名で渡したいってこと?」

「そんな感じじゃないんですか?」


 実際、食品であるチョコレートを下駄箱にいれるのは衛生的にどうなんだ。俺だったら、下駄箱に入っているチョコレートを食べたりしない。チョコをくれた人物には申し訳ないが、差出人も分からない下駄箱に入っていたものを食べる勇気はない。


 さすがに砂橋も食べないだろう。

 食べないはずだ。


「あ」


 訝し気な視線を砂橋に向けていると、それに気づいていない砂橋が声をあげた。唐突なことで心臓が驚いてしまう。


「どうした?」

「近くにいると言えば、いそうなところあるじゃん」


 砂橋はそう言うと、人差し指を立てて、床へと向けた。

 床。

 ここはビルの二階だ。


「……喫茶店か」


 喫茶店「硝子匣」がこの下にある。


 紙袋を置いた人間が、そのまま近くにある喫茶店に入った可能性は大きい。


「ということで、喫茶店に行ってみない?ほら、季節限定のパフェとかまた変わってるかもしれないし」

「お前の目的はパフェだろう」


 俺はため息をついた。


 砂橋と話をする時はよく喫茶店「硝子匣」のお世話になっている。

 マスターとももう顔見知りだ。同じビルに勤め先があるということで砂橋とマスターは仲がいい。


「俺は行きませんよ」

「笹川くん、硝子匣に行ったことないよね?」


 笹川はもうすでに紙袋への興味がなくなったのか、自分の席に座り直した。


 笹川には誰が置いたか分からない紙袋よりも、探偵事務所に届いたメールの方が気になるのだろう。俺からすれば、メールも紙袋も気になる存在には変わりないが。


「甘いものがそこまで好きではないので、行くなら二人でどうぞ」


 砂橋は笹川のデスクを覗き込んだ。


 先ほどから画面を変えておらず、砂橋はメールの本文を見て「なにこれ」と言った。探偵事務所に来たメールだから依頼だとでも思ったのだろう。


 ただでさえ、メールアドレスを開示していない探偵事務所だ。依頼ではなく、悪戯メールが来ることは少ない。


「あ、すみません。言うのを忘れてました。これ、俺宛てみたいです」

「ああ、探偵事務所のメルアド宛てじゃなかったの」


 探偵事務所宛てではなく、笹川個人へのメールと聞いて興味が失せたのか、砂橋はチョコの箱が入った紙袋を手に取ると俺に押し付けた。


「ほら、弾正。硝子匣に行くよ」

「ああ」


 少しだけ笹川に届いたメールへに後ろ髪を引かれながらも俺は砂橋の後を追い、探偵事務所から出た。



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