三つのチョコ【2】
「二人ともなにしてるの?」
その声に振り返ると、探偵事務所の入り口に砂橋が立っていた。たった今入ってきたのだろうが、メールが気になりすぎて、開閉音に気づかなった。
「砂橋さん、おはようございます」
「おはよう、笹川くん」
ふと、俺は砂橋の右手にデパートでよく見かける手提げの紙袋を発見した。
俺の視線に気づいた砂橋はその紙袋を軽く持ち上げた。
もしかして、今日がバレンタインデーだから俺と笹川にチョコをプレゼントするために買ってきたのだろうか。俺を呼んだのもバレンタインデーのチョコを渡すためだろうか。
そんな俺の考えは次の砂橋の言葉であっさり打ち砕かれることとなった。
「このチョコ、誰のか知らない?」
そう言って砂橋が紙袋を裏返すと、紙袋にはでかでかとコピー用紙が貼られており、そこには「Sへのバレンタインデーのチョコはこちらへ」と書かれていた。
「……それチョコなんですか?」
笹川が眉間に皺を寄せると砂橋は「たぶん」と答えて、こちらに近づいてきた。砂橋の両手によって開かれた紙袋の中を笹川と一緒に覗き込んでみると、そこにはラッピングされた四角い箱が三つほど入っていた。
「……チョコでしょうね」
「チョコでなくともバレンタインデーのプレゼントだろうな」
「でしょ?」
砂橋はその紙袋をソファーの前の背の低いテーブルの上へと置いた。
「砂橋さん、そのチョコ、どこで手に入れたんですか?」
「このビルの前。ここに来ようとしたら置いてあるんだもん。びっくりしちゃった」
砂橋の言葉に引っかかりを感じて、俺は思わず声を出す。
「待て。置いてあったものを勝手に持ってきたのか?」
「うん」
そう簡単に頷かれても困る。もしかして、砂橋の前で食べ物の入った袋を落としたら自分の手元には戻ってこないのではないかとさえ思えてくる。
「数分前にビルの向かい側のコンビニに入ってカフェラテ飲んでたんだけどさ。誰も通りを通らないし、取りに来る様子もなかったから持ってきたんだよ」
ビルの前に置いてあったと紙袋を見てから、俺と笹川はお互いを見た。メールなどよりも今は砂橋の持ち込んだ訳の分からない紙袋のことが気になったのだ。




