四楓院苺事件【4】
試しにブログの方を眺めていると、大半が自身の恋愛についての質問だった。小説家のブログなのか、と首を傾げた。恋愛の質問については答えるのに、自身の恋愛についてはあやふやにしているままか。
試しに、質問フォームにカーソルを合わせて、キーボードを叩く。
『恋とは、好きとは、どういうことでしょうか?』
我ながらチープな言葉だな、とは思う。肩をすくめて、ホームページを閉じて、執筆作業に取り込むことにした。
三時間ほど作業をして、コーヒーを淹れにキッチンへと向かう。コーヒーは朝と執筆する際に毎日飲んでいるので「コーヒーメイカーぐらいいいの買いなよ!」と買わされたコーヒーメイカーがある。コーヒーメイカーだけでよかったのに、なぜか、カフェラテやキャラメルマキアートなどもできてしまう。飲むのはもっぱら砂橋だが。
コーヒーを飲みながら、今日の夕飯は何にしようかと首を捻りながら冷蔵庫の中を開く。知り合いから届いたハムの残りとフルーツゼリーに買ってきた卵。炒飯でも作るか。冷蔵庫を閉じて、米を研ぐ。炊飯器のスイッチを押したら、少し仮眠でも取ろうと、ソファーに横になった。
三十分ほど経って起きると、日が傾き始めていた。
「……そういえば、先刻、四楓院苺に質問したな」
ふと、思い出して仕事部屋へと向かう。パソコンを起動して、四楓院苺のブログを開く。先ほど更新したらしく、驚くことにブログの内容は俺の質問への返信だった。
『どこかで聞いたことがあるかもしれないけれど、
人を好きになるっていうのはね、
空がすごく綺麗だとか、
時計の文字がちょうどそろったとか、
そういう素敵なことを思わず話したいってなった時に
すぐ思い浮かぶ人がいることだと思うの。
その思い浮かんだ人のことを貴方は好きだと思うわ。』
なるほど、それが四楓院苺の恋愛感か。
あいにく、そういうことを人に伝えたいと思うことはあまりないので俺にはよく分からない。遠出して素晴らしいと思った情景があったとしても、ぶつける先は小説の中に書き留める文章だ。別段、誰かのために小説を書いているわけでもない。
しかし、自分とは違う価値観に触れるのは面白いかもしれない。大学で出会ったことがあるかもしれないと考えると、余計に気になってきた。




