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探偵のオペラ【30】


 観客席に劇団員がそれぞれ着席すると砂橋は舞台の真ん中に立った。


「では、皆さま。注目!こちら、控え室にて見つけた代物でございます!」


 声を張り、まるで演技でもしているかの口調に思わず目を見張る。確かに砂橋が舞台にあげられたのは大学の学園祭のあの一度きりの出来事だったが、砂橋は人前で声を出すことには慣れているのだろう。


 砂橋の手には、先ほど控え室で見つけた五センチほどの長さのロープの切れ端が載せられていた。


「このロープの切れ端、たぶんなんだけどぴったり重なると思うんだよね」


 そういって、首吊り用の輪っかを掴み上げると、その結び目の終着点に五センチのロープの切れ端をあてがった。切れ端と終着点はぴったりとあわさった。それが元は一つのものであったことは明白だ。


「一度、この首吊りの輪っかをほどいて、先っぽを切って短くした状態で結び直した。そうすると、支えの輪っかの位置は変わらないのに、首吊りの輪っかの位置は前より高いところになってしまう。その結果何が起こるかというと」


 砂橋は首吊り用の輪っかを掴むと切られた輪っかを掴んで、それを自分の首の周りに持っていく。


「支えのロープに体支えられるよりも、先に首に体の重さがかかる」


 支えのロープはただのお飾りとなり、ロープはただの首吊りの道具と化す。


 しかし分からない。なぜ、わざわざ五センチだけ短くしたのか。目的が殺すことだったら五センチ切ったところで首が絞まるかなど分からなかっただろう。


「たまたま今回五センチ切ったら首が絞まったということですか?」


 猫谷刑事の質問に砂橋は楽しそうに目を細めた。


「じゃあ、首の痣はどう説明するつもりなの?」

「……最初から縄がきつくて首が絞まってたのでは?」


「だったら祈さんが心配したのはおかしいよね?それでなくともみんなは彼の首の痣を気にしていた。あのロープは最初から匠さんに合わせて作られたものだ。首が絞まってないかどうかの確認ぐらいちゃんとしてただろうさ」


 俺は自分の中で、とある恐ろしい考えがよぎったのが分かった。


「リハーサル毎にくっきりと浮かび上がる痣。最初はなかった。そして、たった五センチの切れ端を今回は捨てられなかった」


 砂橋は手元にある五センチの切れ端を見つめて、さぞ嬉しそうに笑った。


「犯人はリハーサルしてたんだよ。少しずつ、少しずつロープの端を切って、首吊り用のロープを短くして、殺しのリハーサルを」


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