クリスマスローズの花びら
小さな国の山のふもとに、小さな村がありました。
もう十二月になり、村は雪ですっかりとまっ白になり、
まるで粉砂糖をまぶしたお菓子が並んでいるみたいです。
山でも雪がつもり、雲のすき間からもれて出る、
お昼の太陽の光でキラキラと、とてもきれいに輝いています。
その景色を村にある学校の教室のまどから、じっとながめながら
机にに頬杖をついて座っている少年がいました。
休み時間に周りでは、友達同士が賑やかに騒いで、
明日の待ちに待ったクリスマスの話題で持ちきりでした。
「ルイ、元気ないな、どうした?」
自分の席に座って、ずっと景色を見ていた、
ルイと呼ばれた少年の様子を見て、クラスの友達が心配そうに聞きました。
「だいじょうぶだよ。それよりライト、今年はサンタクロースに会えるかな?」
ルイの言葉にライトは目を丸くして、驚きました。
今年でルイ達は十才。
サンタクロースがいると信じる者も少ないというのに、
ルイはサンタクロースに会おうとしているのだから、
驚くのも無理ではありません。
暫く黙っていた後、ライトは笑いながらルイを馬鹿にしました。
「まだサンタなんて信じてるのかよ?」
「うん! 信じてるよ!」
何の迷いもなくまっすぐとした答えで返されて、
ライトはポカンとなりました。
「大体、サンタにどうやって会うんだよ?
絶対に会えるはずないじゃないか」
サンタクロースは眠っている子供の所にしかプレゼントを渡しにこない。
昔からお父さんとお母さんにそう教えてもらっていました。
ルイは笑顔で、今年こそ会えるさ、とつぶやいて、
また窓の外を眺め始めました。
余りの真剣なルイを見たライトは、
何やら悪戯を思いつき、ルイをからかってやろうと考えました。
学校の授業が終わるチャイムがなり、
子供達は明日のクリスマスパーティーの準備をしようと
急いで家へと帰って行きました。
お昼は少し日差しもありましたが、夕方になると雪雲が空をおおい、
一面まっ白な村に、白い雪がさらにフリツモッテいきました。
村の人達も毛糸のマフラーや手袋や帽子、毛皮のコートなんかを着こんで、
クリスマスの買い物を楽しみ、お店ではクリスマスツリーを飾ったり、
サンタクロースの格好をする人達もいました。
賑わう村も夕方を過ぎると家の中では、
暖炉のゆらゆらと燃える暖かな明かりと
パチパチという暖炉の音が漏れて、
それがゆかいにダンスをしているように思えました。
そんな家の中では、家族の楽しそうな会話が聞こえてきます。
『今年のクリスマスプレゼントは何が良い?』
『明日はどんなご馳走なの?』
『明日はクリスマスパーティーだから、いっぱいお料理作らなきゃね』
口々にに待ち遠しいクリスマスを楽しむ中、
ルイの家でも今年はサンタクロースに会うんだ、
と嬉しいそうに言って、お父さんとお母さんも、
どうやったら会えるかな?
良い子で待ってれば会えるんじゃないか?
とサンタクロースに会うために一緒になって夜遅くまで考えていました。
村の窓から漏れる明かりが消えて、人々が温かい布団へと眠りにつき、
静かな夜になりました。
暗く誰もいない外に、
ルイの家へとコソコソと近付こうとしている人影がありました。
その影は外からルイの寝ている部屋の窓を覗いて、
ルイが眠りについている事を確認すると
窓のすき間に何かを差し込んで、姿を消しました。
まだ雪が降り続く朝、
ルイが目を覚ますと窓には一通の手紙がありました。
まだ開ききらないまぶたを擦りながら、
温かい布団から勇気を出して飛びだして、
窓から手紙を取って見てみると
表にはサンタクロースという名前が書かれていました。
ルイは心が踊りました。
一気に目が覚めて、ワクワクしながら手紙を開けて読んでみました。
『ルイへ。
今日の夜、山にある一番大きな木の下で待っててくれたら
プレゼントを渡しに行くよ。
ただし、誰にも内緒にしてほしい。』
ルイはまだ夢か、覚めてないのかと
ほっぺをつねって確かめましたが、
本当に夢じゃないのだと分かるとはじゃぎまわりました。
すぐにでもお父さんとお母さんに言おうとしたが、
誰にも内緒にしてほしい、と書いてあったのを思い出して、
まだ心では誰かに言いたくて言いたくて堪らなかったけど、
サンタクロースに会うために我慢しました。
先生の話のように長いパーティーも夕方になり、
焼きたてのチキンやクリスマスケーキ、アップルパイと
ご馳走が並び、子供達は目を輝かせて、喜びはしゃいだのです。
ルイをのぞいて。
ルイはご馳走にも余り手をつけず、
もう待ちきれずにパーティーを抜け出して、
待ち合わせの大きな木のある山へと向かいました。
ルイは春や夏には山に登り、
よく大きな木の下で友達と遊んでいたので、
雪が積もっていても場所はしっかりと覚えていました。
それでもだんだん雪は激しくなり、
大きな木を見つけるのが難しくなっていました。
パーティーは終わりに近づき、
ご馳走に夢中になっていたライトは辺りを見回して、
ルイがいない事に気付きました。
きっと山へと向かったのだと楽しみに思いました。
そう、ルイの家の窓へ手紙を入れたのは、ライトでした。
嬉しいそうに窓の外を見ると、外は吹雪になっていました。
ライトは慌てて外に出ると歩くだけでも大変な吹雪でした。
ライトは怖くなりましま。
もし本当に手紙を信じて、山に行っていたら……
いや、ルイは絶対に現れもしないサンタクロースに会いに行っているはず。
胸がチクチクしたり、ぎゅーっと締め付けられるような痛みを感じました。
「行かないと……」
もう吹雪で辺りをが全然見えない中、
暖かい季節にずっと遊びに行っていた記憶だけを頼りに
ライトは大きな木に向かって走り出しました。
走っている中、ライトはずっと後悔しました。
なんであんな手紙をかいたのか、
なんであんな嘘をついたのか、
何度も涙が目から溢れましたが、
今、泣いてしまったら、ただでさえ見えない景色が分からなくなる。
絶対ルイは木の下でサンタクロースを待っている。
この寒く凍えそうな吹雪の中、
自分が書いたサンタクロースの手紙を疑いもせずに……
だから絶対に見付けなきゃ、
絶対に見付けて謝らなきゃ。
何度も何度も後悔して、
何度も何度も決意した。
もう数えきれないほどの後悔と決意をした時、
ようやく大きな木が目に映った。
木に近づくにつれて、
木に寄り添って力なく座り込んでいる小さな何かが見えた。
「ルイだ!」
ライトは走り続けて、疲れているはずの足を
精一杯前に出しました。
「ルイ! おれ……おれ……」
「ライト……?なんで、ここに?」
ルイの身体を抱き起こして、すっかり元気をなくし、
青白くなった顔を見て、ライトの不安は大きくなっていった。
「ごめん……」
「なんで、謝るの?」
「おれなんだ……あの、サンタクロースの手紙書いたの」
ライトはルイの顔を見る事も出来ずに、ただ謝りました。
本当は顔をしっかりと見て謝るつもりでした。
でも、できなかった。
「ありがとう……」
「え……」
「ライトがサンタさんだったんだね。
サンタクロースの手紙が
クリスマスプレゼントなんて、
とっても嬉しかったよ」
ずっと、ずっと、我慢していた涙が一気に目からこぼれてきました。
もっともっと謝ろうとしてたけど、涙が溢れて止まりません。
「ありがとう……ありがとう……」
ライトは泣きながら、ありがとうの言葉が勝手に出てきました。
「うん、ありがとう。メリークリスマス」
青白くなった顔で、満面の笑みを浮かべて
ルイもお礼を言いました。
とうとう二人は疲れ果てて、
吹雪の中で眠ってしまいました。
最後のフワフワとした意識の中、
二人の周りに光がさして、
シャンシャンシャンシャン
シャンシャンシャンシャン
と鈴の音が鳴り響くのが聞こえました。
朝になるとすっかり吹雪は止み、
眩しい朝日が顔を出していました。
朝の日差しの眩しさで、ライトは目を覚ましました。
暫くは布団の温かさを感じていましたが、
夜の出来事を思い出して飛び起きました。
なんで自分が生きているのか、
それよりどうやって帰ってきたのか
ひょっとしたら夢だったのか……
気付くと手にはクリスマスローズの花を握っていました。
ライトはルイに会いに行きました。
お父さんとお母さんの話を聞くと、
昨日の夜、二人は行方不明になり、村中で捜していたのだけど、
知らない内に部屋の布団で寝ていたとか。
ルイもライトに会いに行こうとしていた様子で、
外でバッタリと会いました。
手にはクリスマスローズの花を持って。
「一体どうやって帰って来たんだろう?」
「サンタクロースだよ! サンタクロースが来たんだよ!」
確かに気を失う前に鈴の音を聞いた覚えがありました。
サンタクロースが助けてくれた……
「本当にサンタクロースが……?」
ライトはどうしても信じ切れずにいました。
ルイはニコニコと笑いながら言いました。
「クリスマスローズの花言葉には
『私を忘れないで』ってあるんだ。
きっとサンタさんも忘れて欲しくないんだよ。
だからぼくはずっとサンタさんを信じてるよ」
最初に見せていた時と同じ笑顔を見せた。
ライトも満面の笑顔を見せてルイに答えました。
「うん、おれも信じる!」
「ライト、サンタクロースに合わせてくれてありがとう」
小さな国の小さな村に
サンタクロースの小さなプレゼント。
大切な友達と気持ちを忘れないように……