第7話 チート能力が可愛くないけど優秀すぎました。
ブックマークありがとうございます。
いつも読んでくださる方には本当に感謝しても仕切れません。
私は運動神経が良かったり瞬発力があるわけじゃない。
なのにフォル君を助けようとしたときにとっさに動いた体は、私の想像よりも早かった。
火事場の馬鹿力かな、と思っていたけど違うようだ。
王宮にある騎士の訓練場に行ってみたいとメイドさんに伝えると返事が返ってこなくなった。
「それじゃあ、力試しがしたいからそのために必要なちょっとしたスペースって用意できる?」
って聞いたら渋々OKが出た。
私は今ちょっとしたスペース改、多目的ホールサイズの広い部屋に案内された。
今の服装は、くまのジャージだ。
私は試しに軽くジャンプをしてみる。
まあ、普通のジャンプだ。だが、体がいつもより軽いのである。
普通にジャンプすると広い部屋の天井にピッタリ体がくっついてしまった。
メイドさんは驚き、ゴルゴリ様は慌てた、着地はもう本当に恐ろしかった。
部屋全体に音が響き渡ったのである。
足がビリビリと震え着地のポーズからしばらく動けなくなった。
強くジャンプしなくて良かった。
強くジャンプしてたらきっと、天井に首が刺さってプラーンっていう漫画あるあるだったかも知れない。
その日私はジャンプと移動の練習を始めた。
最初は軽くジャンプして少しずつその高さをあげて行く。
最終的に天井の高さまでなら音もなく無音で着地できるようになった。
楽しすぎて空中にいるときに何回か決めポーズも取れるようになった。
異世界召喚とかされたらチート能力がもらえるっていうのはよく聞くけど、これは凄すぎじゃない?
護身用に剣術を教えてもらった。
ゴルゴリ様は最初は手加減して教えてくれたけど、最終的にはガチバトルが始まってどうしようか迷った。
取り敢えず漫画知識の『死んでいない。峰打ちだ。』をやったらゴルゴリ様が危うく死にかけているところだった。
ちょっと力を入れすぎて床にめり込んですぐに回復魔法を使ったけど意識は戻らなかった。
・・・・・・
次の日、騎士団にお見舞いに行くと泣き出された。
普通に私が怖かったらしい。
か弱い女子の前で泣く屈強な男というカオスがその場に広まったのである。
騒ぎを聞きつけた騎士が調子に乗り、あれよあれよと言う間に対戦場へ連れていかれた。
「私、昨日剣を習ったばかりの初心者ですから!手加減してください!」
後ろでメイドさんが号泣している、多分だけど私が怪我したらもっとすごいことになりそう。
手合わせの相手は若くてイケメンの騎士だったのですごく驚いた。
イケメン率が高いのはきっと乙女ゲームの世界だからだな。
私は、正体がバレたら騎士団長が処罰されるらしいので動きやすい服にお洒落な仮面、マントをつけている。
力試しをしてみたかったので丁度いい。
練習用の刃を潰した剣を手に取る。
周りにはいつの間にか人だかりができていて、賭けが始まっていたがそんなのは関係ない。
私はイケメン騎士の方を見る。
沈黙と見つめ合いが続き、先に動いたのはイケメン騎士だった。
私の首筋に向かって剣を振るうのでそれを私の剣で止める。
切れないと判断したイケメン騎士は二、三歩後ろへ遠ざかり、もう一度剣を構える。
こっわ!心臓止まるわ!刃を潰しているとはいえあの勢いだったら首は間違いなく飛んでいた。
今度は私の番だ。
息を吸い一歩前に踏み出しイケメン騎士の前に出る。
一歩で届くと思っていなかったのか焦るイケメン騎士、私も少しだけ驚いた。
そのまま低く構えイケメン騎士の足元に回し蹴りを入れ転かす、そして首筋に剣を当てた。
「こ、降参だ。」
剣を手放し両腕をあげるイケメン騎士。
「ふうー。疲れた。」
吸っていた息を吐き出しメイドさんのところへ戻ろうとする。
と、野次の中にフォル君を見つけた。
私は見つけた嬉しさで彼の元へジャンプで飛んだ。
「また会ったね。獣人君。」
彼の手を握り微笑む、が仮面が邪魔だ!
しかし外すなと言われているので外せない。
この後何を言えばいいのかわからず沈黙が続く。
「元気にしてた?あれから怪我はない?」
私はそう続けた。
会話下手かよ!
「怪我はない、です。あ、あの時はありがとう…、ございました。」
フォル君の笑顔に思わず腰が砕けるかと思った。
笑顔の破壊力で死ぬ!
敬語を必死に使おうとしてるの可愛い!
尻尾が揺れてるのも可愛いし、はぁー幸せ。
「どういたしまして。ああ、最後に君の名前を聞いてもいいかな?」
「フォルです。平民なので名字はありません。」
「フォル君だね。次会った時は敬語入らないから、気軽に話しかけてね。」
私はそう言ってメイドさんとその場を後にした。
・・・・・・
「勝ったー!私勝ったよー!」
メイドさんに抱きつき頬ずりをする。
もうお洒落な仮面は外したし、お風呂にも入って体もスッキリしていた。
今日はすごい収入があった、その名も!『フォル君呼びOK』だ!
私は夕食をとり眠ることにした。
布団に入り落ち着く、ここに来てから色々あったけど、慣れてきたな。
「あ!」
まだ部屋の中にいたメイドさんが驚く。
「どうしよう。今日の手合わせの相手、そのまま放置してきちゃった。」
「大丈夫ですよ。私から話を通しておきますので、」
メイドさんの言葉を信じて私は眠ることにした。
その時の私は知らなかった。
対戦相手がまさかの騎士団長ご本人だったという事に。