第4話 フォル君に初めて会えました。
目が覚めると肌触りの良いスベスベの服を着ていた。
これ見たことある、ネグリジェだ!
布団から出ると昨日と同じメイドさんが朝食の準備をしていた。
私に気付くとメイドさんは私を席まで案内する。
机の上には豪華な食事が並べられていて、私は流されるまま朝食にてをつけた。
「いただきます。」
美味しい!異世界あるある、ご飯が美味しくない、もしくは味がしないという心配は要らなかった。
すごく美味しいのである。
パンはフワフワで、すごく美味しい。
朝食を真面目に摂ったのはいつぶりだろう、体重が気になる年頃だから仕方ない。
私が朝食を食べ終わるとメイドさんが話しかけてくる。
「今日の予定は城下町の見学です。いくらかお金を頂きましたので私と一緒に行きましょう。私と、護衛を一人用意しましたのでその三人で行きます。服はこの街に合わせたものを用意しましたのでそちらにお着替えください。キヨミ様が前まで着ていたものはそちらに置いてあります。」
手際の良いメイドさんの言葉に私は頷く。
その後の私はされるがままだった、服を脱がされ、メイドさんの着せ替え人形にされ、最後にはメイクもバッチリしてもらった。
そして暇な私は、私の着ていた服
クマジャージ
をちょっとした出来心で鑑定してみた。
するとすごい結果が出てきた。
以下の通りだ。
『聖美のジャージ
効果:ポケットの中から無限に飴が出てくる。
好感度:90/100』
おうふ、まじか。
取り敢えずメイドさんにいらない袋を用意してもらい、ポケットの中の飴をそちらへ移す。
飴をメイドさんに一個渡して準備は整った。
「お出かけだ!」
私はテンションが高いなか部屋の扉を開けると壁にぶつかった。
正しくは壁みたいな人にぶつかった。
これがメイドさんの言っていた護衛か、もう壁だな。
すごく大きい。
「ごめんなさい。」
取り敢えず私は謝る。
「だ、大丈夫です!今日の護衛をさせて頂くカルベルト・ゴルゴリです!」
テンション高いし、声もデカイ。
でも確か文官の話では『名字がある=貴族』だったよね?
敬語は大事だ!
「今日はよろしくお願いします。ゴルゴリ様。ねえ、外への出方が分からないの案内してほしいんだけど。」
私がメイドさんに声をかけると案内してくれる。
広いし、豪華だな、なんて考えながら王宮の道を歩いているといつの間にか外に出ていた。
街の景色は中世のヨーロッパのようで、すごく綺麗だ。
私は辺りをキョロキョロと見渡しながら買い物をする。
すごくすごく楽しい!何回かはぐれかけたけど、迷子になってないからセーフ!
取り敢えず目的のものは買えた。
変装用の地味なマント、おしゃれな仮面、ウィッグ、買ったものを自分の袋の中へ入れていく、メイドさんには自分が持つから貴方は持たなくていいと言われたけどこういうのは自分で持ちたい派だ。
「ふんふふーん。」
私が上機嫌で鼻歌を歌っていると遠くから悲鳴が聞こえた。
「ど、ドラゴン、ドラゴンよ!ドラゴンが出たわ!」
女の人の声がする。
メイドさんとゴルゴリ様は逃げようとしている人の波に揉まれてしまった。
やるなら今がチャンスだ!人の少ないところへ行きウィッグとマントをつける。
最後に私はおしゃれな仮面をつけ路地裏から飛び出した。
思っていた以上にドラゴンがやってくるのが早かったが、私としては好都合。
・・・・・・
人の波を越えると本当にドラゴンがいた。
ゲームでみるよりもずっと恐ろしいそれに私は足踏みしてしまう。
よく見るとフォル君がドラゴンの治療をしていた。
ドラゴンの後ろ足から流れ出る血を必死に布で抑え止血しようとしている。
ということはフォル君はもう怪我をしたのか?間に合わなかった?と思ったが違う。
フォル君はきちんと両目が付いていた。
まだ、怪我をしていない、きっと助けられる。
私は期待を抱きつつフォル君に近寄る。
「『ヒール』」
私が魔法を唱えるとドラゴンの傷は塞がり血が止まった。
フォル君が私の方を見る。
きゃー、仮面越しだけど目があった!
これが現実、ゲーム画面越しとは違ってるけどこっちのがかっこいい!
フォル君は私に向かって頭を下げた。
「ありがとう。俺じゃこいつのことを助けてやれなかった。本当にありがとう。」
私は反射的に答える。
「ドラゴンが痛がっていたから。君のためじゃない。」
って何言ってんだ私!いや馬鹿だろ!言うセリフあれだけどさ!今気付いたけど仮面つけて変装したら好感度上がっても気づいてもらえないじゃん!
ガヤガヤと声がしてきた。
すると兵隊みたいな人たちがやってきてこの和んだ空気をぶち壊すように叫んだ。
「総員!怯まず戦うのだ!ドラゴンがなんだ!我々には聖女様の加護がついている!行け!」
リーダーと思われる男の言葉に呼応するように周りの人たちが雄叫びをあげる。
その声に驚いたドラゴンは足を振り上げた、足が振り下ろされる近くにフォル君と私がいるがそれに兵隊みたいな人は気付いていない。
私はとっさに手を伸ばしフォル君を掴み間一髪のところで腕を引き避けさせる。
振り下ろされた足による衝撃でフォル君は頰にかすり傷を負い、私のマントが少し破れてしまった。
ああ、お気に入りのマントが!
フォル君の助けたかったドラゴンは逃げた、よかった。
兵隊達はフォル君がドラゴンを助けていたのを見ていなかったのか?
私はフォル君を抱き寄せ声を張り上げる。
「おい!お前ら!何を考えている!ドラゴンは落ち着きを取り戻していたにもかかわらず!お前らのせいでまた!一般市民を巻き込み怪我をさせるところだったのだぞ!周りをよく見て行動しろ!」
私の声が聞こえたのか兵隊たちは顔を青ざめさせた。
守るべき市民を自らの選択で傷つけようとしたのだからな。
私はフォル君を抱きしめる力を弱めその場に座らせる。
「『ヒール』」
頰の傷を治す。
私は野次馬がやってきたのでその人混みに紛れるようにしてその場を去った。
人がいないところまで来ると変装用のマントと仮面を外し、カバンの中にしまう。
「キヨミ様ー!何処ですかー!キヨミ様ー!」
そして私は何事もなかったかのようにメイドさんの声がする方へと歩を進める。
私に気付いたメイドさんの顔は涙でグチャグチャだった。
「よかった、よかったよー。キヨミ様が、もしも怪我でもして帰ってきた日には、私はきっと立ち直れません。」
昨日は全然表情が動いていなかったメイドさんなのかと不安になる。