第3話 今日の私は力尽きて倒れました。
飴を舐めながら幸せそうな顔をしているメイドさんを横に私は文字を書き始める。
人間、時間が経つと記憶がおぼろげになって行くからね。
乙女ゲームの内容を思い出しながら日本語で紙に書いていく、
『ルートはそれぞれの攻略対象に一つずつ、友情エンドが一つ、バッドエンドが三つだ。
攻略対象は全部で六人。
一人目、赤の髪の毛の人。
俺様王子様で、自分に甘えてくれる優しい女の子が好き、好感度が最初から高いのは多分こうして主人公も出会っていたからだと思う。
この人のストーリーに行くと最終的にでろでろに甘やかされる。
それはもう、クリアするのがしんどいくらいに、俺様な王子様に甘やかされる。
ストーリーは、出会う、くっつく、甘やかされる、魔王を倒す、結婚、だ!
二人目、青の髪の毛の人。
冷血文官で、自分の事よりも仕事を優先する、好感度は赤の人と同じ。
この人のストーリーも最終的にでろでろに甘やかされる。
それはもう、仕事よりも主人公のことを優先して冷血文官の照れ顔は世の女子たちを虜にさせた。
ストーリーは、出会う、くっつく、甘やかされる、魔王を倒す、結婚、だ!
三人目、茶髪の人。
ワンコ騎士で、獣人、見た目も中身もワンコ、フォル君に会う唯一の存在で、好感度は
以下同文。
四人目、緑の髪の毛の人。
癒し系おっとりキャラで、舞台である学園の庭園の管理は彼がほとんどやっている。
以下同文。
五人目、金の髪の毛の人。
腹黒王子様で、よく主人公をいじめている、赤の人とは腹違いの兄弟でこっちは第一王子だ。
以下同文。
六人目、黒の髪の毛の人。
魔王だ、そしてこのキャラは全ルート達成後にのみ見られる。
しかしこれが激ムズで、選択肢1つで世界が滅ぶ、間違えなければ超絶デレデレルートだ。
それはもう、これまでの五人の比ではないくらいにはデレられる。
それぞれの人にそれぞれ得意な魔法がある。
上から火、水、土、風、光、闇だ。
基本となる魔法が、火、水、土、風の四つで、光と闇は別の何かだ。
私も詳しくは分からん、それぞれには派生が存在する。
氷、雷、が良い例だ。
悪役令嬢、キャロライナちゃん。
公爵令嬢で主人公と攻略対象の恋をことごとく邪魔してくる。
見た目が最高に可愛い、魔王ルート以外の全てにおいて最終的に魔王に肩入れし、くっつく、そして結婚とはいかず主人公に倒される。
当て馬のキヨミ。
ゲームのキヨミは赤茶色の髪の毛で地味な女の子だった。
きっと今の私と同じなんだと思う。
多分これが私で、全てのルートにおいて主人公のカスミに力を貸し、力尽きて死ぬ。
なぜ当て馬と言っているのかと言うと主人公の恋愛が停滞期になると急に現れて、当て馬になるのだ。
どう言うあれでそうなるのかは謎だが、当て馬になるのだ。
全ての行動が当て馬なのだ。
そして愛しのフォル君は学校の演習場によくいる。
ワンコ騎士と訓練をしているのだ。
灰色の髪でエメラルドグリーンの美しい瞳、狼の獣人でカッコいい!
ワンコ騎士の会話内の情報によると、入学式前に事件に巻き込まれ片目を失ったことにより眼帯をつけている。』
ん?もしかしてだけど助けられるかも知れない?
事件の内容を思い出す、確か……、ドラゴンの襲撃だ。
フォル君はそのドラゴンが傷ついていることに気付き手当をしようとし、その時に片目を失ったのだ。
優しいフォル君かっこいい!
よし、そうと決まれば回復魔法を覚えよう!
颯爽と助けに入った私を見て多分フォル君の好感度は上昇する。はず、
「よし、魔法の使い方を教えてください。」
飴を舐め終わり物悲しそうにしているメイドさんに話しかける。
するとこちらを見たメイドさんは少し嬉しそうな顔をする。
きっとまた飴がもらえると思ったのだろうな。
「詳しいことは知りませんが簡単なものでよければ私がお教え致しましょう。まず魔力があるもの全てが使える鑑定からお教えします。『鑑定』と言うと鑑定した対象の情報を知ることができます。知れることの内容は人それぞれです。ただし、人間や魔物相手の場合、相手よりも強い。もしくは相手が鑑定されることを許していないと使用できません。試しに許可するので鑑定をしてみてください。」
私が知りたいことではないが折角なので使ってみる。
「『鑑定』」
私がそう言うと目の前に小さな板みたいなのが現れ、ゲームでよく見る好感度メーターのようなものが見える。
『キャサリン・ウォレス
説明:孤児院出身、甘い物好きで小さい頃によく院のお菓子をつまみ食いし怒られた
好感度:100/100』
まじか、このメイドさんの私への好感度がもう上限達成してるんだけど、もしかして、この飴のせい?
「見れましたか?それが鑑定です。それ以外に聞きたいことはありますか?」
「じゃあ、回復魔法について。」
私が回復魔法というとメイドさんは嬉しそうな顔をする。
きっと得意分野なのだろう。
「はい、回復を使うには光魔法の適性が必要です。そして相手の傷を治すという優しさも必要です。『ヒール』これが初級呪文です。」
適性については問題ないと思う、主人公も攻略するキャラによって使う魔法が変わっていたから同じ異世界人として、全部の魔法が使えてもおかしくない。
「『ヒール』」
私がそう唱えると周りが光に包まれた。
体がポカポカして、先程までの凝った体が元気になった気がする。
「さすがです。キヨミ様は光魔法の適性をお持ちなんですね。ああ、最後に一つ、魔法を使いすぎると魔力切れになってしまいますのでご注意ください。回復魔法の上級呪文は使えるものがもうほとんど残っておらず、かつては当たり前のように使われていた魔法らしいですが今では伝説の魔法になっています。」
なるほど、魔法を使いすぎると目立つかもしれないな、たぶん。
フォル君と会う時にこの世界で黒髪黒目の人は珍しいからね、すぐに私だってバレるかもしれないからどうせなら派手な髪色にしよう!
そうと決まれば、眠たい!寝る!
私はメイドさんに飴を渡した。
「これもここで舐めて行ってね。あと、明日あたりでもいいから街が見てみたいな。」
私はそう言いながら布団にたどり着く前に力尽き、その場で寝た。