第2話 眠たい私は、乙女ゲームの世界に召喚されました。
誤字脱字等報告いただけるとありがたいです。
応接室に通されてすぐ文官のような人がやって来た。
この部屋の雰囲気や先程王子様に見覚えがある私はだんだん嫌な予感がしてきた。
文官が口を開く、
「貴方が本当に聖女か?」
その質問に首を横に振る。
だって、
「聖女が一体何なのか分かりませんし、きっと先程の人が私は聖女様だと思います。ですのできっと私は聖女ではございません。どうか我が家にお返しください、お願い致します。」
怖い怖い。普通に考えておかしいでしょ、あるあるな(二次元)異世界召喚だと思ったらまさかの乙女ゲームの世界とかありえないから!
私のさっきまでの振り切れんばかりのテンションメーターを返してくれ!
頭を深々と目の前の男に向かって下げる。
だってだって、もしもここが乙女ゲームの世界だったとしたら……、
私はあの乙女ゲームに出てきた当て馬のキヨミじゃん!
本当に私がキヨミだったら?どうしよう!
このままあるある展開が続いたらきっと元の世界に戻る方法は、ない!
嫌だ!
頭を下げた体制で頭の中でぐるぐると考え続ける。
ソロリと顔をあげ男の方を見るとガッツポーズをとっていた。
「あの、どうしたんですか?」
焦りながら文官のような人が弁明する。
「申し訳ございません。我々はこうして異界より聖女様を呼ぶのは初めてではございません、がそれは遠い昔の事でして元に戻せるかどうかというと少し……。」
やはりな!泣きそう、ちょっと涙が出てきた。
「あ、そういえば名乗っていませんでしたね。私は、藍野聖美です。藍野が苗字で、聖美が名前です。」
よし、自己紹介も終わったし、そろそろ寝たい!
なんか急に眠くなってきたし、頭がグワグワする。
フラつく頭を支えながら男を見ると嬉しそうな顔で手元を見ていた。
何か良いことがあったんだろうか?
もしもこの世界が乙女ゲームの世界なら、もしかしてだよ、もしかしてだけど、フォル君に会えるかな?
そう思うと私の顔がにやけそうになってくる。
本来なら主人公は攻略対象をクリアするべきだが、私は多分脇役、要するに、何が何でもフォル君と仲良くなる!
「1つ、キヨミ様にはこの世界の知識がないようですので、学園に通うのはどうでしょうか。ちょうど二週間後に入学式がございます。それまでに準備はこちらで整えさせて頂きます。如何なさいますか?」
文官に聞かれ私は首を縦に振る。
確かに、フォル君も同級生だったから近付くには丁度いい。
「学園に行きます。行かせてください。」
私がそう言うと文官の男は
「決まりですね。手続きはこちらでしておきます。面倒ごとに巻き込まれるのはあまりよくありません。苗字やその黒髪などのことは隠して平民として入学していただいても構いませんか?もちろん、生活費や学費など必要経費を定期的にお渡しいたします。」
「はい、平民としてですね。大丈夫です。」
他にも細かい話し合いをし、私が部屋を出るとメイドさんが一時的に住む場所の前まで案内をしてくれた。
その部屋の中は豪華すぎて私には目が痛かったが、言い方を変えれば豪華で驚いた、だ。
宝石バシバシで明かりがギラギラ輝いている。
私は私をここへ連れてきたメイドさんへ話しかけた。
「あの、本当にここが私の部屋なんですか?こんなに豪華な部屋、私には使えません。」
メイドさんは表情筋をピクリとも動かさずに返答する。
「私のような侍女では勝手にあなた様のお部屋を変更することはできません。しかし、過ごしにくいと言う場合は主人へとご報告させて頂き、その上でお部屋の変更となります。」
メイドさんの言葉に私は唸る。
まじかよこんなところで過ごせる自信がないし、寝れないよ!
うーん、うーん、まぁいっか。
「その、何か書くものと、紙って用意できますか?」
メイドさんは頷き部屋を出て行く、そして数十秒で戻ってきた。
早!早すぎる!
メイドさんが部屋にある机の上に紙の束と羽ペンを置いた。
羽ペンやばい!書けるかな?
椅子に座り紙に筆を走らせる。
『あいうえお』
書いて行く文字が次から次へと見たことのない言葉に変わっていく、見たことがないはずの言葉はなぜか読める。
やはりここも異世界アルアルの御都合主義というやつだ。
今度は日本語で書きたいと思いながら文字を書く。
『あいうえお』
今度はちゃんと日本語で書けた。
「ちょっとこっち来て、」
そう言った私はメイドさんを呼ぶ。
メイドさんは私の横へ立つ。
「何か御用でしょうか。聖女様。」
あ、こっちには私が聖女だって思われてるのか、うーん?
「いや、私が聖女と決まったわけではないからね。聖女様って呼ぶのはやめてよ。あと、聖女様はもう一人の女性だと思うし、私の名前は聖美ね。きよみって気軽に呼んで。ああ、聞きたいのはこの事なんだけど、これなんて書いてあるか分かる?」
私は、多分こっちの世界の言葉で書かれている文字と、日本語で書かれている文字を見せる。
メイドさんはすぐに答えた。
「上に書いてあるのは『あいうえお』ですが、下に書かれている文字は何と呼ぶのかわかりません。」
よし、日本語はこの世界では何て書いてあるのか分からない。
これから書くことを考えるとそっちの方が都合がいい、私はジャージのポケットに手を入れ中に入っていた日本の飴をメイドさんに渡す。
「ありがとう、これは少ないけどお礼です。袋の中には飴が入っているのでどうぞ、周りにバレるといけないので今ここで食べていってくださいね。口の中に入れたら噛んじゃいけませんよ。舐めてください。」
メイドさんに説明をしたらその通りにメイドさんは行動する。
袋を開け、口の中に飴を入れた。
美味しいのか今まで見せなかったような綻んだ顔をした。
なるほどメイドさんは甘いものが好きなのか、覚えておこう。