月から来た少女、勉強をさせられる
「ああ、そうか。
この少女は、そもそも地球人じゃないから・・・そうだ、しゃべる猫かなんかかと思えば、多少は気が楽かも。
いつ出ていってもいいし、いつ帰ってきてもいい。
そんな気まぐれな愛玩生物なんだと思えば、少しは面白いのかも。」
僕は、そう思った。
「なるほど、なるほどね。
そうか、月から来た彼女は、そういう気まぐれな猫のような愛玩生物ってことね。」
姉ちゃんが、ポンとが天が言ったように手を打つ。
「そういうの、好きよ。わたし。
いやあむしろ、このカフェにおあつらえ向きなんじゃないかしら。」
しかし、どこからとなく、声が響いた。
「つきみちゃん、いいですか。
地球は、お勉強する場所です!」
「えーーーやだ!パパぁ」
「パパ?
つきみちゃんのパパって・・・?」
「ああ、いろいろ全部作った人・・・初めに言わなかった?」
「いろいろ全部作った人って・・・」
しばらく、僕は言葉が出なかったし、もうこれ以上余計な詮索をするのも野暮だと思ったので、
話に合わせることにした。
「勉強・・・しろって、言ってますけれど、お父様。」
「やれやれ、仕方がないな。
やってやるか。
その勉強とやらを。
これ、ひなた。
つきみに勉強を教えなさい。」
「勉強を・・・教えなさいって・・・
つまり、何?
君の先生になれということ?」
「先生というか、そうだな。
勉強を教えてくれる彼氏という設定でおねがいする。」
「は?」
僕は、顔が赤くなった。
「ひゅーひゅー!」
姉ちゃんが冷やかす。
たまったもんじゃない。
「いいじゃん。まあ、ホストになったつもりで、いっぱいサービスしてあげたらどう?」
「ホスト!?」
「ほら、姉ちゃん、ネコ語やりながらカフェやってるけれどさ・・・
ネコ相手の人間も猫たちにたくさんサービスをして猫に惚れられて、お気に入りのスタッフの座を獲得し、一人前のスタッフになれるのよ。」
なるほど。
さすがネコ語検定上級者の言うことは一味違う。
「大切なことは、まず、自分から相手の猫を好きになることよ。
向こうがツンデレでも、そのツンデレをまるごと受け入れたまま、その子の喜びそうなことをじっくり観察し、くすぐる。
言うじゃないの。
仕えられるものではなく、仕えるものになれ、と。」
なるほど。
「でも、勉強を教えるって、一体何を、どうすればいいの?」
「そこも、SとMを使い分けることね。
優しいだけじゃ駄目。
厳しいだけでも駄目。
甘いだけでも駄目。
引っ張っていくだけでも駄目。」
「ううむ。」
つきみは、じーっとこっちを見ている。
「てなことで、よろしく頼むぞ。ひなた。
ビシバシ行くからな。
でも、お前はつきみにビシバシしないこと。」
僕は、プルプル震えるのを感じた。
「ビシバシ・・・行きます!!」
「ビシバシ行ってください。
地球の人、うちの子をよろしくお願いします。」
そう、虚空から「いろいろ全部作った人」の声が聞こえた。
まあ、すべてが全く訳の分からない状態のなかで、僕のつきみに対する学習指導が始まった。