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月から来た彼女。  作者: あだちゆう
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満月の空から

満月を見ていたんだ。


大きな河の河川敷で。



眠れない夜だった。


大きな明るい満月に気が付いた僕は、外に出て、家の近くの河川敷まで歩いて行った。



土手の階段を上ると、二つの大きな橋に挟まれた対岸には街並みの明かりがぼんやりときらめいている。

静かな暗闇が心地よい。



少し上を見上げると、真正面には、鏡のように光っている満月が。




美しい。

月は美しい。




僕は、よく月を見上げる。


科学万能の現代において、もはや月は不思議ではない。

月は、チタンやアルミニウムといった鉱石から成り立つ衛星であることは明らかにされ、

ウサギがいないということも常識だ。


それでも、月には想像力を掻き立てられ、神秘を感じずにはいられない。


月の光がテーマになった名曲や作品も多い。


それだけ、月は人間に何か心の奥に語り掛けるのだろう。



それに・・・


それに、僕は、月に何か忘れ物をしてきたような気がするのだ。


そんなことを言えば、笑われるかもしれないけれども。


不思議な郷愁を感じて仕方がない。




土手を降りて、ランニングコースになっているアスファルトの道路を超えて、小さな球場ほどもあろう広さの草むらに入る。


月がまるで、僕を読んで、磁石のように引き付けている、

そんな気がしたのだ。


月の光は、小さく分解していくと、

まるで蜘蛛の糸よりも細い無数のまっすぐな糸が、透明の上に、何百色もの無限の輝きをまとってこの世界をやんわりと包んでいるようだ。



僕は、目を疑った。


月の表面に小さな黒い点のような影が映ったかと思うと、

それは少しづつ大きくなっていく。


いや、大きくなっていくというより、

それが近づいてきている、と言ったほうが正確か。


まるで、月光のまっすぐな光の糸を伝って降りてくるエレベーターみたいに、

「それ」は僕に近づいてきた。


雲一つない黒く輝く空に映るそれは、まちがいなく「人」だった。

それも、女の子だ。


いかにも「月から来ました」みたいな薄い黄色のワンピースをはためかせながら、下向きの大の字になって降りてくる。


しかし、このままいくと、河に落ちる可能性が・・・高い!


僕は、河に向かって駆け出していた。


野球で外野を務めた時、一度もフライをキャッチできたことがなく、

サッカーでゴールキーパーを無理矢理やらされた時も、一度もボールを受け止めたことのない僕が、

いま、空からゆっくりと落ちてくる人を受け止めに・・・走る!


女の子はまるで安心しきったみたいに目をつぶって寝ている。

どこかから落っこちてショックで気を失って、という顔ではない。

まるで寝息まで聞こえてきそうだ。

雲の上をベッドにしていたら、あまりにも熟睡しているあまり体が沈みこんでここまでおちてきちゃったみたいな、そんな感じだ。


と、悠長にそんな解説をしているうちに少女の身体は地上数メートル。

岸辺ギリギリのところ。河に落ちるかセーフかどっちかっていうところでふわふわしている。


僕は、少女の落下地点、岸辺ギリギリに構えて、キャッチしようとする。


・・・しかし、

スポーツでボール一つまともにキャッチしたことがないのに、いくらふわふわしているとはいえこんな大きな飛行物体をまともに受け止めることができるのだろうか・・・

いや、その前に、女性にすらまともに触れたことのない僕が・・・

赤面しつつパニックを起こす。


と心の中で言っている間に、少女は僕の腕の中にはまり、

そして、フワフワとしていた身体は僕に触れたとたん、シャボン玉がはじけるように突如として重力を持った。


「うわぁーーーっととと!!」


バランスを崩した僕はそのまま、河のほうにダイブしてしまった。


ボアッチシャアアアアン


と、気持ちいいほどに二人分の身体全体をたたきつける音が響き渡る。




幸い、河はいい具合に浅瀬であり、どこか打ち付けることもなかったようだ。


少女を抱え上げたまま、水から顔を出す。


げほっげほっげほっ!


少女も目を覚ましたようだ。



すぐさま、二人して岸に這い上がり、息を整える。


挨拶とか、言葉を交わすとか、そんなことは後だ。



少し息が整って、空を見上げると、

いつもと様子が違う。


普通の満月の夜空じゃない。



どういえばいいだろうか・・・どういっても分かってくれないと思うけれども、

あまりにも明るすぎたんだ。



そう、こんな町では見えないような・・・アルプスとかどこかの無人島ででしかないと見えないような宝石をちりばめたような満天の星空・・・

いや、今回はそれどころではなかった。


銀河系の星団の海に、僕たちは囲まれていたんだ!


そして、この星の一つ一つが意志をもって、僕たちに語り掛けていたんだ。

本当だよ!


「何語で」とかじゃなくて、人間の言葉を超えた、「星の言葉」とでもいえばいいのか。




そんな星の光の海の中で、女の子はこっちを見て僕の目をまっすぐ見ながら、いきなりまっすぐ言い放ったんだ。



「おい、ヒナタ、ツキミとつきあえ。」




「はい。」




即答。


やばい、いきなりはいとか答えちゃったよ。

ちがう、、、これは、気が動転していて、、、

その、あの、いつものイエスマンの悪い癖というか、

だから、頼まれたら断れない性格?っていうか・・・



いやーーー


おいおいおいおい



意味が全く分からない。


てか、なんでいきなり空から降ってきて僕の名前を知っているんだ。

で、名前、ツキミっていうんだ。


そうじゃない。

いきなり水の中に飛び込んで這い上がってきて…ほかに言うことあるだろ。

いや、まて、この星々は一体何なんだ。


頭の中は高速でパニクり、言葉が出せない中、

黄色いワンピースを着た少女は、濡れた髪をたくし上げることもせず、


「うちは月からきた。

地球の危機を救うために。」


と抑揚なくあっけらかんと言い放った。






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