素敵な明日に
今日の練習の反省会が終わり、一息ついた時。
「わかなちゃんってしっかりしてるわよねえ」
「普通ですよ。というか、急にどうしたんですか?」
菫先輩が突然そんなことを言い出した。
「前から思ってたのよ。受け答えがしっかりしてて、面倒見が良くて、落ち着いているなぁって」
「私もそう思います! 若菜ちゃんには何回も助けられてて、その度に、凄いなぁって思ってたの」
「それは単に和音さんが抜けているだけじゃないですか?」
「それはそうかも……」
「まあ、しっかりしているかはわからないですけど、私の家は、私が小さい頃から父が単身赴任で家に居ないことが殆どなので、母の手伝いや弟たちの世話をしている内に、ある程度料理ができるようになって、和音みたいなのが放っておけなくなったって感じですね」
今まであまり話したことがなかったせいか、みんなは真剣な表情をしていた。
「別に暗い話じゃないんですから、そんな顔しないでくださいよー」
そう言って私は笑い飛ばそうとしたのだけれど、私の言葉が届いた様子は見受けられなかった。
「若菜ちゃん、大変だったんだね……」
和音は手を重ねながら、
「少しだけ見直したです」
心春は少し不本意そうな表情をしながら、
「今度から思う存分私に甘えていいのよ!」
菫先輩は相変わらず、
「……そうだったのね」
紗耶香先輩は驚いた表情でそう言った。
「私よりも紗耶香先輩の方がしっかりしてるじゃないですか。紗耶香先輩も弟か妹がいるんですか?」
四人の視線を浴びていたたまれなくなったため、話の対象を紗耶香先輩に移す。
「……二歳下の妹がいるわ。でも、私はそんなに世話焼いたりしないわよ」
「むしろ世話焼かれてる方じゃない? 『あんまりゴロゴロしないで』とか言われてるのよねー」
「……ちょっと、菫!」
「いいじゃない。減るものじゃないんだから」
「……それはそうだけど、恥ずかしいのよ……」
紗耶香先輩は伏し目がちにそう言った。
「意外……」
和音の呟きは私も同感で、目を丸くしていた。
「でも、ゆかちゃんはさやかのことが大好きなのよ。さやかに憧れのお姉ちゃんでいて欲しいけど、素直になれないからちょっと嫌味っぽくなっちゃうのよ」
「面倒な性格ですね」
オブラートに包むことなくそう言った心春に、菫先輩が微笑みながら声をかけた。
「こはるちゃんも本当は私のことが大好きだけど、素直になれないだけなのよね?」
「違うです」
「そんなぁ……」
「それにしても、紗耶香先輩って家ではあんまりしっかりしてないんですね。意外です」
「……そうね。学校だとどうしても気を張っちゃうから、その反動みたいな感じで、ちょっとだらしなくなってるのかしら」
「紗耶香先輩がゴロゴロしてる姿なんて、想像つかないです」
またしても和音と同意見だったため、頷きながら紗耶香先輩を見た。
「うふふ、凄く可愛いわよ」
「……菫、うるさい」
紗耶香先輩は頬を薄く染めながら菫先輩を睨んでいた。あまり迫力はなく、そんな姿も新鮮だなと感じた。
「いつまで話してるですか。そろそろ最終下校時間ですよ」
心春に言われて時計を見ると、反省会が終わってから結構な時間が経過していた。
「えっ、もうこんな時間!?」
「……話し過ぎたわね」
「また今度たくさん話しましょ」
「そうですね!」
今日は、ひょんなことから紗耶香先輩の意外な話を聞くことができた。紗耶香先輩だけでなく、他のメンバーのことももっと知っていきたいな。
明日はどんな日になるのだろうか。