あい あぼーらんす ゆー
「君が嫌いだ」
口の中で何度も噛み砕く。
「嫌い、嫌い、嫌い」
咽喉も舌も乾ききったようなざらつきを覚える。
そのまま歯と一緒に擦り切れてしまいそうな、体中が脆い粒子を固めたもののような錯覚。
「どうして」
生臭い匂いが鼻の奥から咽喉に出戻っていく。
かつり、かつりと乾いた耳障りな音だけが外へ響いている。
柔らかく暖かい感触なんてもう無かった、ただひんやりとした空気が時折風で揺れるだけ。
緩く握った手では愛しいぬくもりを掴むことができなくて、打ち付けた体だけが痛みを抱きしめていた。
涙は出なかった。あまりの事に脳がついていくことができなかったのかもしれない。
そんな僕の状態とは不釣合いなほどに太陽は残酷なほどに濃い陰影と気持ちの悪い熱をもって僕を見下ろしている。
首の裏にじわりと滲む汗が、僕の思考を体温と共に奪っていきそうだ。
いっそそのまま全部奪って欲しい。そんな願いを込めて目を伏せた……
「そんな沈痛な面持ちで体丸めても今日は学校休みじゃないし」
そう言った呆れ気味の彼女の視線は太陽よりも恐ろしかった。さり気にベッドから遠のくように足で転がされている。
「酷い」
「わざわざ起こしに来てやったのに嫌いとまで言うしね……どっちが酷いんだか」
だけれど今の僕には本心なのである。最愛の布団との最高の時間を奪われたのだ、憎しみと絶望は計り知れない。
まるで引き裂かれた半身のように布団も僕を求めているに違いない。今なら肉厚の白い柔肌美女に見える。勿論布団がだ。
魔性の女だ。全ての人は過言かもしれないが概ねの人が抗えない恐るべき女性だ。しかも今は冬だ。耐えられない。
足蹴にされる痛みにも耐えられない。
「痛い、心と体が痛いおふとん返してあと飲み物飲みたい喉痛い」
「何言ってんだかっていうか咽喉はあんたが乾燥対策しないからでしょ」
「もういっそ全部奪って……」
ゲームと課題で削られた睡眠で太陽がとても辛い。首から上だけへんな汗かくしつらい。眠い。嗚呼お布団にくるまりたい。
しかし足が器用に僕を蹴り上げながら寝巻きをめくり上げていくのである。それだけやってもぱんつは見えない。何故だ。
せめてもの情けに見せてはもらえないだろうかという念が届いた(むしろバレた)のかかばんで殴られた。理不尽である。
「はいはいはい早くお着替えしましょーねー」
「やだああああああその奪うのはやだあああああ」
そうしてぱんつは見ることが出来ないままぱんつを見られることとなりぱんつ処女を失った散々な僕の一日が始まったのであった。