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腰痛が辛いっ!

作者: 東屋 志季

思いつきで書いたので色々ゆるっとしてます。


 



 この日の王宮で行われる舞踏会はいつもと様子が違っていた。


 まず、ご令嬢の気合いの入れ方が尋常ではない。色とりどりのこの日のために作らせたであろうドレスを見に纏い、ピンヒールの靴を履き、美しく着飾っている。フルメイクと言う名の完全武装である。彼女たちの目はまるで狩人のそれだ。彼女達の両親も右に同じである。

 ここはもはや戦場である。

 そんな彼らの獲物は、このアルハント王国第一王子リツェールノ殿下だ。御歳20、ウェーブした柔らかな金髪に冬の青空のような澄んだ瞳のそれはそれは美しい方らしい。

 そして頭もキレるらしく国内最高峰の大学でも常に首席らしい。さらにさらに、武術にも秀でており我が国が誇る騎士達にも負けなしらしい。

 王子どんだけハイスペックなんだ!天は彼に二物も三物もそれ以上も与えている。

 まぁ、私自身は王子には7年前に一度会ったことがあるだけなので、これらのことはすべて友人達から聞いたことだ。会った当時はまだ13歳だった王子だが、すでにめちゃくちゃ美少年でキラキラしたオーラが溢れていた気がする。7年も前のことだから正直あんまり覚えていない。



 そして今日は王子の結婚相手を決める大切な舞踏会が行われるのだ。なんでも、王子と結婚したいと言うご令嬢が多すぎたため「一々お見合いしていてはキリがない。この際、一気にご令嬢を集めて決めよう!」ということになったそうだ。

 アルハント王国はとても豊かな国で他国との関係もすこぶる良好なため、政略結婚する必要もなく、殿下に婚約者はいない。

 こんな超優良物件はどこにもいないだろう。狙われないわけがない。ハイスペック王子も大変だ。



 そんな訳で、王宮には年頃の令嬢が国中から集まって今日の舞踏会が開催されることとなったのだ。

 そして私、サクリファス侯爵家令嬢ルネア・サクリファス17歳も参加することと相成った。



 にしても、舞踏会とかすごく緊張する。いつぶりに参加するだろうか?そもそも貴族の集まりとか苦手で、社交界デビューした15歳の時に1回だけ参加したけど後は病弱設定にして、ほとんどパスしてたため慣れていない。むしろ初心者なのだ。

 侯爵家はお兄様が継ぐし、社交界にはお姉様が行ってくれるので私は行かなくても許されていたのだ。

 しかし、今回はそうはいかない。お姉様には素敵な婚約者がいるため、今回の王子のお妃の座争奪戦には参加しないのだ。だからと言って由緒ある侯爵家として、1人も候補を出さないのでは外聞がよろしくない。最初は行く気なんてさらさら無かったのだが、人の良いお父様の為にも私が一肌脱ぐしかない!と言う事で、やむおえず参加することとなったのだ。

 参加を決めたのが遅かったせいで準備がとても忙しかった。急遽ドレスを仕立てたりなんたりした。私的には手持ちのドレスで良いかなと思っていたのだが、そう言うわけにも行かないらしい。令嬢たるもの、流行に合わせたドレスを着なければならないそうだ。貴族の考えはよくわからないとつくづく思った。

 だいたい、ブラウンの髪に茶色の目の平凡顔の私が何を来たって大して変わらないのにね。

 出来上がった淡いオレンジの素晴らしいドレスを着こなすことなんてとてもとても無理です。むしろドレスに着られてます。完全なる敗北だ。「流行?なにそれ美味しいの?そんなことよりお金勿体無いな」と考えてしまうあたり私の思考は侯爵令嬢の物ではなく、もはや一般庶民のそれだ。

 まぁ、何事もやってみることに意味があるから!形が大事!




 そして私はまず、国王陛下への挨拶に父と向かった。国王陛下も美形で、しかもとても若く見えた。とても20歳の息子がいるようには見えない。この陛下の遺伝子を受け継ぐ王子殿下が美しいのも納得だ。

 っと、こんなこと考えるのは一旦やめよう。

 この国で一番偉い人に挨拶するのに失礼があってはいけない。まずは丁寧にカーテシーをした。

 腰を落とし、脚を曲げたその瞬間


 グギッ


 嫌な音がした。そして次の瞬間、ものすごい痛みが私の腰を襲った。



 私は病で床に伏せる、なんてことは無いが腰痛持ちではある。17歳にして、重度の腰痛もちとか洒落にならない。病弱設定も全くの嘘と言う訳ではない。ハイヒールを履きながら優雅にダンスを踊るなんて自殺行為以外の何者でも無い。コルセットをきつく締められるのもきつい。

 腰痛軽減をする為に腹筋と背筋を鍛えてはいるのだが、やはりちょっとしたきっかけで痛んでしまう。


 そもそも、王宮まで乗って来た馬車の振動のせいでかなりのダメージを受けていた。クッションを置いたぐらいでは馬車の揺れには堪えられなかったらしい。

 その上、淑女の礼を取る為に腰を落としたことがこの激痛に繋がったのだ。

 馬車からのカーテシーのダブルコンボが見事に決まった。



 あまりの痛さに思わず動きが止まってしまったが、国王陛下の前でずっと固まっているわけにはいかないので、なんとか痛みを堪えて腰を上げた。おそらくかなり引きつっている笑顔を浮かべてなんとか挨拶をする事が出来た。

 陛下になにか話しかけられたような気がするが腰が痛すぎてよく聞いていなかった。とりあえず適当に相槌を打っておいた。それが今の私に出来る精一杯だったのだ。





 何はともあれ、頑張った。私は頑張った。義務は果たしたぞ!

 挨拶を終えた後、父に「少し向こうで休んでまいります」と伝えると壁際に向かった。不自然にならない程度に痛む腰に細心の注意を払いながらゆっくりと移動した。壁際に置いてある椅子に座る事ができて、ようやく息をつくことが出来た。

 取り敢えずこれで一安心だ。


 あーこの椅子、最高に座りごごちが良い。腰に優しい!我が家にも一脚ぜひ欲しい!

 このじわじわと癒されていく感じがたまりませんな!


 ふかふかの素晴らしい椅子に座って大人しくしていると、何やらカラフルな集団が近づいて来た。


 そして、口論しだした。

 ふむふむ、どうやら気の強そうな令嬢2人のドレスの色が被ってしまったらしい。

 そんなことで喧嘩するの?別に良いじゃない。そんなに気にすることか?

 なんでも良いけど私の前でやらないで欲しい。とっても居心地が悪いのだが…

 まだ腰痛いから動きたく無かったけど、移動するかな。このままだと、とばっちりが来そう。なんせ2人の着ているのはオレンジのドレスだし。巻き込まれたらそれこそ本当に面倒くさい。


 と思った矢先



「ちょっと!椅子に座っているそこのあなたよ!あなたもオレンジ色じゃない!!私と同じ色を着るなんて良い度胸ね!」


「本当だわ!?なんてこと…着替えて来なさいよ!」



 と巻き込まれた。ついてないな。



「あら、ですが私のドレスは淡いオレンジ、あなたは赤に近いオレンジ、もう1人のあなたはパステルオレンジですよね?これはオレンジはオレンジでも最早違う色としてカウントしてもよろしいのではないでしょうか?

 それにお二人はとても素敵に着こなしておいでですし、何も気にする必要はないのではないでしょうか?」



 と宥めてみた。

 すると



「確かに…そうよね!ドレスの色が似てようがなんだろうが私の美しさは変わらないもよね!」


「ふふ、なんだかドレスの色なんて小さなことに思えてきましたわ」



 納得してくれたらしい。

 それは良かった。人類皆兄弟というからね!これからも仲良くしてね!

 じゃ、私はそろそろ失礼しようかな。2人の口論のせいで周りの注目が集まってしまった。こうなったら退散するのが一番だ。

 痛みも少し落ち着いたので庭園に向かいましょう。






 王宮の庭園とっても綺麗だ。庭師の血と涙の結晶だ。満開に咲き誇る真紅の薔薇や他にも様々な種類の花が植えてあり、見ているだけで心が踊ること間違い無しだ______ただし昼間であれば、だ。残念ながら今はすっかり日が暮れてしまって、辺り一面真っ暗だ。私はあまり目が良くないため、余計に視界が悪くなってしまっている。

 足元に注意しながら何とかベンチまでたどり着いた。このあたりなら人も来ないだろうし、腰を休めるには最適な場所だ。



 暫くすると



「こんばんは。今日は月が綺麗だね」



 綺麗なバリトンボイスの持ち主に声をかけられた。せっかく人気がないところに来たのに、出来れば話し掛けられたく無かった。

 私が黙っていると、



「それにしてもこんなところで会うなんて運命だな」



 さらに言葉を続けてきた。

 しかも何!?運命!?この人いきなり何を言ってるの!?変質者かしら?

 あら?でもこの声、聞き覚えがある。



「その声、もしかしてリッツ?」


「そうだよ。もしかして今気がついたの?」


「ええ。だって辺り一面真っ暗であなたの顔が見えないの。」


「なるほど。それにルネアはあまり目が良くないしな。それならしょうがないな。ルネアは侯爵令嬢だから今日は来てるだろうと思って探していたんだよ」


「そうだったのね。こんなところまで来てくれるなんて、ご迷惑おかけしました。それにしても、いきなり話しかけてきて、運命がどうとか言ってくる怪しい人かと思っちゃった」



 話しかけてきたのは配達員仲間のリッツだった。残念ながら今は暗くて顔は見えないが、リッツはハニーブラウンの髪に青灰色の瞳の美青年だ。彼の仕草には品があるなと思っていたが、舞踏会に招待されていると言うことはどっかの貴族のご子息なのだろう。納得納得。

 実は私、城下町で配達員として働いている。

 腰を鍛えるためにまずはウォーキングでもしようと思って街を歩いていると、たまたま配達員の募集要項の紙を見つけたのだ。それを見て、どうせ歩くなら配達員としてお客さんや配達員仲間と合流しながらの方が良いなと思ったのだ。腰も鍛えられる、交流もできる、おまけにお金も貰えるという素晴らしい考えだ。

 家に帰ると早速渋る両親とお兄様を説得した。やはり侯爵令嬢という身分で街をふらふら歩き回ったり、働くのは良くないことなのだ。しかし、私としても引くことは出来ない。1度決めたことはなかなか譲らない性格なのだ。幸いなことに、お姉様も一緒に説得してくれたので3時間に渡る激論の末に見事働くことを認めて貰えた。



「リッツって貴族だったのね。通りで気品あふれているはずよね。でもよくご家族の方が配達員として働くことを許してくださったわね」


「ふふ。驚いた?どうしても働きたかったからね、ちゃんと話したら許してくれたよ」


「驚いたと言うより納得したわ。リッツに比べて私には気品なんて皆無だわ。むしろ一般庶民に紛れてもなんの違和感もないもの」


「いや、そんなことないと思うけど…」



 そんなことある。大いにある。その証拠に今まで誰にも私が貴族だと言い当てられたことはない。自分でも庶民にめちゃくちゃ馴染めてると自負している。

 ちなみに配達事務所の仲間は私が侯爵令嬢だと知っている。



「でもなんで庭園に来たんだい?」


「実は腰が痛くなってしまって、ゆっくり出来そうな庭園に来たの」


「腰が?大丈夫かい?

 それにしてもやっぱり私と君は運命によって結ばれているよ!」


「まだ痛くて…暫く歩けそうに無いわ。

 リッツったらさっきから運命だなんて、あなたこそ今日はどうかしちゃったの?」


「いや、ほら。私とルネアが初めてあった日のこと覚えてる?」


「あぁ!確かにあの時、私が腰痛で動けなくて道にうずくまっていたところに声をかけてくれたのよね」



 お恥ずかしい話だが配達の途中で手紙を道にばら撒いてしまい、それを拾おうとしてしゃがんだ瞬間に腰がやられてしまったのだ。______あの頃はまだ配達員になったばかりで腰も全然鍛えられていなかったので、そういうこともしょっちゅうあった。_______なんとか手紙を拾い集めたまでは良かったのだが、さらに痛みが酷くなり道にしゃがんだまま動けなくなってしまったのだ。

 そんな時、声をかけてくれたのがリッツだった。

「大丈夫ですか!?」と言われて顔を上げると、そこには美青年がいて今度は腰が抜けるかと思った。

 その後、リッツに肩を支えてもらってなんとか配達事務所までたどり着いたのだ。

 初対面の腰痛持ちの私にこんなに良くしてくれるなんて、どんだけいい奴なんだ!

 翌日、出勤すると彼も今日から配達員になると聞いてとても驚いた。

 それから今日に至るまでリッツには度々助けてもらっている。本当に、どんだけいい奴なんだ!!



「あの時はびっくりしたよ。でも声をかけて良かった。ルネアと知り合うことができてラッキーだったよ」


「本当に、毎度毎度リッツには助けてもらってばかりで…申し訳ないです」


「全然気にすることないよ、私が好きでやっているのだから。

 私はこれからも君のことをずっとそばで支えていきたいんだ。だめだろうか?」



 急にリッツの声が真剣なものになり、漂う雰囲気が緊張したのを疑問に思いながらも



「だめだなんて、そんなことあるわけ無いじゃない。いつも助けてくれてとても感謝してるの」



 素直な気持ちを伝えた。

 リッツにはいつも窮地を救ってもらっているのだ。



「本当に?」


「本当よ!リッツにいなくなられたら私、こまっちゃう」



 そう伝えると、さっきまでの緊張が嘘のように無くなった。そして嬉しそうに



「そう。それなら早速行こうか」



 と言った。


 …行く?どこに?その前に私、まだ腰が痛くて歩くのは難しいのだけど…



「リッツ、どこかに行くの?私、まだ歩けそうに無いの。だからもう少しここにいるわね」


「何を言ってるんだい。ルネア、君も一緒に行くんだよ。

 大丈夫、私が運んであげるからね」



 そう言うとリッツが近づいてきて、そして私を持ち上げ、そのまま横抱きにした。

 そう、俗に言うお姫様抱っこだ。



「どう?腰、痛く無い?」



 すぐ上から聞こえてくるバリトンボイスの囁きの破壊力はすごかった。私の心臓は急速に動きを早め、顔に熱が集まるのが感じられた。



「だ、だいじょうぶでひゅっ!」



 思わず噛んでしまった私は悪く無い。いきなりお姫様抱っこなんかして、その上囁いたりしてきたリッツのせいだ!



「ふふ。でひゅって、噛んじゃって可愛い」


「か、可愛い?」



 あーもう!なんなんだ!!なんかリッツがめちゃくちゃ甘いのだが…

 恥ずかしすぎてとても上を向けない。



「よし。じゃあ挨拶に行こうか」



 そう言ってリッツは歩き出した。

 …挨拶?……誰に?

 そんな考えはリッツとの距離が近すぎることの緊張によって一瞬で消し去ってしまった。





 リッツはそのままどんどん歩いていき、舞踏会が開かれている広間に入っていった。そう、私を抱えたままだ。

 当然、注目の的になってしまった。皆ひそひそ声で何やら囁きあっている。そりゃそうだろう、みんなダンスを踊っている中にお姫様抱っこした美青年が入ってきたのだ。驚かないわけが無い。

 と言うかリッツは力持ちだなぁ、私そんなに軽い方じゃないぞ?そんなに軽々しくお姫様抱っこ出来るような体じゃないぞ?

 それにこのままだと精神的ダメージでやられる。穴があったら入りたい。

 周りを見たくなくて下ばかり見ていたが、その間にもずんずん歩いて行くリッツを止めなくてはならないと思い、



「リッツ!周りの人からすごく注目されてるんだけど!!一回おろして!」



 そう訴えて顔を上げると___________________そこにいたのはリッツではなかった。

 いや、正確にはいつものリッツではなかった。

 今日も変わらず美しい顔立ちはしているが、そこじゃない。髪と目の色が違うのだ。

 ハニーブラウンのはずの髪は輝く金に、青灰色のはずの目は済んだ青になっているのだ。

 人違いか?実は双子だったとか?

 いや、でも今までの会話からしてリッツ本人で間違いない。

 え?じゃあなんでいつもと違うの?わけがわからない。このリッツもどきは一体何者なの??


 私が混乱していると、目の前にいるリッツもどきがようやく足を止めた。

 そして、私を抱えたまま



「父上、ご機嫌麗しゅうございます」



 確かに挨拶した。しかもとんでもない相手に、だ。なんとリッツもどきが父上と呼んだのは、国王陛下だったのだ。もう、驚きすぎて白目になりそうだった。いや、多分なってた。淑女にあるまじき顔面だったに違いない。しかし大声を出さなかっただけ偉いと思う。まぁ、驚きで声も出なかっただけだが。



 そして頭が真っ白になり、逆に冷静になった。

 一旦整理しよう。まず、国王陛下を父と呼ぶことが出来るのは国王の子供である王子、または王女だけである。そして現アルハント王国国王には子供は息子1人だけしかいない。

 そしてその息子、つまりリツェールノ王子の容姿はたしか金髪青眼だった。リッツもどきの外見と一致する。

 このことから導き出されたのはリッツがリツェールノ殿下と同一人物であるという結論だ。



 しかし、なんで王子様が配達員なんてやってるのだろう?普通に考えて、この国で何番目かに偉い人が城下町で配達員やってるなんて想像できるだろうか?いや、できない。


 なんだか頭が痛くなってきた。現時点で殿下に私の重い体を持ち上げさせているだけでもアウトなのに、今まで彼にかけてきた数々の迷惑が頭の中を駆け巡った。

 うわぁ、やっちゃったよ。今まで散々やらかしちゃってるよ。この前なんか、調子に乗って私が勝手にリッツを女装大会に勝手にエントリーして参加させちゃったりしたよ。お菓子半年分の賞品につられちゃったんだよなぁ。結果、すごく似合っててちゃっかり優勝してたけど!お菓子半年分ゲット出来たけど!!

 まずい、このままだと不敬罪で罰せられるんじゃないか!?

 最悪死刑とか!?いやだ!



「申し訳ございませんでしたっ!罰を受ける覚悟は出来ております!しかし、出来れば国外追放くらいでご勘弁ください!」



 全力でジャンピング土下座した。いや、しようとした。だが、未だ殿下に抱えられているためそれは出来なかった。例え抱えられていなくとも腰が痛くてジャンプできず結果、中途半端に腰が曲がったままの状態で固まっていたことだろうと思う。

 心の中では華麗な土下座が決まった。



「罰?ルネア落ち着いて。なんのことを言ってるんだい?

 よく分からないが国外追放なんかになるわけ無いじゃないか!」


「いえ、今まで殿下だとはつゆ知らずとも数々な無礼な行動、決して許されるものではございません。」


「まぁ、ルネア嬢落ち着いて。そんなことを気にする必要は無いぞ。リツェールノアはどう思う?」


「私も何も気にしてなどいません。ルネア嬢と共にいるといつも楽しいのです」



 …!!陛下も殿下も心が広い!!でもね、女装させられたことについては文句言ってもいいんですよ!!!楽しい、では済まされませんよ!!!!



「父上、私は彼女、ルネア・サクリファス侯爵令嬢と婚約いたします」



 ………!!!?

 はいっ!?今なんと言ったのかね!?

 婚約とかいう言葉が聞こえてきたのだが!?!?

 あぁ、聞き間違いか。きっとそうだな。腰が弱い上に耳までおかしくなったのか。そろそろ老化が始まってしまったのかな?まだ17歳のはずなのになぁ、おかしいなぁ。



「良かろう。

 サクリファス侯爵もよろしいかな?」


「もちろんです。娘が望むのであれば、ですが」



 ちょ、王様も婚約とか言いましたか?しかも認めるとか、あっさりと決めちゃって良いんですか!?

 そしてお父様、いつの間にここに居たんですか!?びっくりしたのですが…

 でも私が望むならと言ってくれるあたり、父は本当に良い人だと思う。



「ルネア、どうしたい?殿下と婚約するか?」



 ……。うーん。リッツのことは好きだ。むしろ大好きだ。密かにリッツが旦那様になってくれれば良いのに、とか思っていましたの。そもそも、こんなに面倒見が良くて優しい人はなかなか居ないし。

 顔もどストライクだし。

 でも、王子様だからなぁ。それに正直この状況をまだ飲み込めて無い。



「あっ。…うー」



 とかなんとか唸っていると、



「ねぇ、ルネアさっきこれからもそばで支えさせてって言ったら良いって言ったよね?」


「はい」


 あぁ、確かにそんなこと言ったな。



「ルネアはおっちょこちょいだし、目が離せないんだよ」


「はい」



 確かに。よく腰痛で突然動けなくなったり、色々やらかしちゃうな。

 今も抱えられたままだし。良い加減降ろしてくれないかな?真剣に恥ずかしさでここから消えて無くなれそうなんだけど。



「それに、側にいるためには結婚するのが一番だと思うんだ。だから私と婚約しよう」


「はい。……はい!?」



 はっ!?うっかり頷いてしまった。

 待って!ちょっと待って!!今の無しで!!



「あの、今の無しにs「良かった!これでようやく婚約出来る!!」


「よし、2人の婚約を認めよう。

 これはめでたい!!早速お義父様と呼んでおくれ!」


「うぅっ…ルネアが、あんなに小さかったルネアが婚約だなんて…うぅっ…」



 ちょ、お父様泣かないで!

 無しにできない雰囲気になっちゃったのですが!?






 こんな感じで断るタイミングを失い、あれよあれよという間に婚約してしまった。

 うん。でもリッツ、もといリツェールノ殿下の事は大好きなのでなんの問題もない。

 うん。無いはず…

 結構強引に婚約してしまったが、そんな行動力あるところも素敵!とか思ってしまうあたり私とかなり重症なのだろう。


 そしてようやく床に降ろしてもらい自分で立つことができたが、やはり腰が痛くてリツェールノ殿下に支えてもらう羽目になってしまった。かたじけない。




 と言うわけで、あれよこれよと言う間に婚約が決まっていた。

 そして、気が付いた時には数ヶ月後には結婚式をあげる事になっていたのであった。



 あぁもう、あれもこれも全部腰痛のせいだ!!!


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