清也の日常(家)
「初めて自分以外の化物を見た。貴方を初めて見たあの時、私は救われたと、心の中で思ったわ」
「…そうか」
「これで私が貴方に語るべきことは以上よ」
俺は、この女を助けなければならない。
この呪われた人生から。
先程俺を殺そうとしたのも殺さなければ俺が殺されるから という理由だそうだ。
無茶苦茶な理由だが、これ以上、雪女に周りの人を殺させたくないのだそうだ。
だから自分の手を汚そうとした、と。
有り得ない。
ここまで報われない人生など、あっていいものか。
俺が必ず救ってみせる…!
「こんな話をした後で悪いのだけれど、血痕の掃除をしてくれるかしら?私、これから会議があるの」
「あっ、はい…」
△▲△
一通り掃除を済ませたので俺は生徒会室を後にした。
△▲△
さて、俺はこの雪女をどうやって「救えば」いいのだろうか。
「あんなに威勢のいいこと言っちゃって、本当は何も考えてなんていなかったのであろう?」
突如、声が聞こえる。
いつの間にか、俺の隣に見た目推定11歳と言ったところの美しい金髪を持つ、可愛らしい女の子が俺の隣を歩いている。
「あぁ…そうだよ。なんも考えてなんかいなかった。気持ちだけが先行してあんな大層なこと言っちまったけどな…」
「まぁ、お前らしいの」
「そっかな。自分らしさとかよくわからないから」
「ふむ」
そう言って彼女は腕を組んで難しい顔をする。
さながら11歳の少女が学校で出題された難しい問題を前にした時のように。
しかし、彼女は人間ではない。
「吸血鬼」である。
それも、伝説の初代吸血鬼。俺の人生を変えることとなったきっかけの吸血鬼。
「自分らしさ…か。妾も長く生きておるからな、そんなものとうに忘れたわ」
彼女の実年齢は100歳を超えている。つまり…
「ロリババ」
アだもんな
と言いかけたらみぞおちに拳を一発喰らった。痛い。
「ご、っごめんなさい…っ!」
「うむ。わかればいいのである」
△▲△
電車に乗り、我が家の最寄り駅に到着した。俺と妹は2人でマンションを借りて暮らしている。とあるルートで住むことになったのだが、その事は後々語っていくとしよう。
家への道を歩む間にもロリババア及び吸血鬼女(11)とくだらなくて何気無い会話をしていた。
楽しい時間はあっという間にすぎると言うが、本当にいつも1人で帰るよりも早く家に着いた気がした。
俺はこいつと話すことを楽しいと感じているのだろうか。
△▲△
「ただいま〜」
とだらしない声で帰宅を告げると
「お兄ちゃんおかえりー!」
と元気な声が聞こえる。妹の美蕾だ。彼女は仕事柄家でも巫女服を着ていることが多い。
吸血鬼女は家の前に着くと同時に消えていた。家族水入らずの時間(?)を過ごさそうとしてくれたのだろう。
だからか、彼女はいつも妹と過ごしている間には出てこないし、学校にいる間も出てきたことは無い。礼儀の正しいというか、場を弁えている奴なのだ。
「お兄ちゃん、お帰りのちゅ〜…」
と言って美蕾は唇を差し出してくるがそれを手で制止し、
「ハイハイ、後でな」
と軽くあしらう。
「え〜!お兄ちゃんの為にと思ってやってるのにぃ〜」
「まぁ、そうだけどさ…」
確かに、これは俺のために美蕾が始めてくれたことなのだ。
ちなみに俺はシスコンではない。
妹は好きだけど。
△▲△
自分の部屋に入り、息を一つ吐くと、一気に風船から空気が抜けたように気が抜ける。
今日は色々なことがあったなー、と思い返す。
まさか、自分以外の化物に出会うなんてことがあるなんて――
そうだ、彼女の、出利葉氷夢のことを考えなければ―――――
そんなことを考えているうちに眠りに落ちていた。
投稿遅くなりました…(誰も待ってない)
これからもゆっくりですが一応続けていけたらなーと思っています