出利葉氷夢は語る
△▲△
私が雪女になったのは小学校2年生のの冬…かしら。
私は冬が大好きだった。雪で遊ぶのが大好きだった。
私は生まれてから幼稚園を卒園するまでは何一つ不自由なく幸せな家庭に暮らしていた。
幼稚園の頃は友達に恵まれていたし、欲しいものはなんでも両親が買ってくれた。
ある日、幼い頃の私は雪の妖精さんとお話した。何?妖精さんとかイメージじゃないって?…否定はしないわ。
今考えればその妖精さんというのが、雪女だったのね。白装束だったし。
雪女は微笑み、言った。
「貴方、雪が好きなのね」
「うん!大好き!」
幼い頃の氷夢は答えた。
「…ずっと、雪が降ってくれればいいのにね」
「私もそう思うよ!だって、雪って楽しいもん!でも、お父さんとお母さんはいつも雪は邪魔だっていうの」
「そう…悲しいことね…」
そう言うと雪女は私の前から姿を消していた。
家に帰るといつもの幸せな家庭がそこにはあった。
いつも通りお母さんの作った美味しい料理をみんなで食べて…みんなで温かい布団に入り、寝た。
しかし、次の朝はもう来なかった。
朝起きると両親は冷たくなっていた。
死んでいたのだ。
私は怖くなった。そして何より悲しくなった。
家族が…最愛の家族が死んでいたのだ。
何故?
私が何をしたの?
そんなことを考える前に、氷夢の頭は真っ白になっていた。
突然にして消えた日常。
氷夢は叔母に引き取られた。
両親の死は謎の怪事件として未だに解決していない。
でも、わかるのだ。
これは、私が殺したのだと。
『でも、お父さんとお母さんはいつも雪は邪魔だっていうの』
そう言ったあの時、雪女の顔に冷たい笑が浮かんでいたことを今でも思い出す。
私が…あんなこと言うから…お父さんとお母さんは…
幼いながらも私は自分の行動を悔やんだ。悔やみに悔やんだ。でも、もう何も戻ってこないのだ。
あの幸せだった時間は。
それからは私は人と関わることを最大限避けてきた。
私と関わった人は不幸になるからだ。
もう、誰も、お父さんとお母さんのように死なせるわけにはいかない。
私は決意した。
しかし、雪女の呪いは解けることは無かった。
クラスで育てていた学級菜園のトマトが全て凍った。
冬でもない日に、だ。
それは私が水やりの当番の日だった。
私が触れただけで、トマトが凍ったのだ。
この時、自分の能力に気づいた。
最早、これは呪いではない。私自身が雪女になったのだと。
クラスのみんなから私は疑われ、自ら関わらずとも、あちらから関係を断ち切ってくれた。
中学は遠くに行こうと思い、同じ小学校からは誰も受験しないという今通っている学校――私立 早御坂学園の中等部に入学した。
誰も私のことを知らない世界。私も誰のことも知らない世界。
これが1番だった。けれど、ここでも友達は作ってはいけない、と不幸にさせてはいけないと思った。
何も出来なかった自分への戒めとして何かを人のためにする生徒会に入った。
成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗の氷夢にとって生徒会とは正に自分の居場所だった。
年が経つにつれ、次第に能力と呪いは薄れてきた。
しかし、高圧的な態度を取ることで自分の周りから人間を減らしていった氷夢には、もう友達など出来ない。家族ももういない。
それが最終的に私に課された呪いだった。
もう、冬は嫌いだ。雪は嫌いだ。自分が嫌いだ。
△▲△