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吸血鬼の日常(仮)  作者: 甘夏
第一章 吸血鬼と日常と恋と化物
4/7

清也の日常(放課後)

俺は氷の女王こと出利葉(いでりは)氷夢(つらら)に言われた通り、放課後、生徒会室に直行した。

俺の秘密、というと、やはり俺が吸血鬼であるということだろうか。

しかし、俺は奴に吸血鬼である証拠を見られたことは無い。

証拠と言っても、俺の吸血鬼の能力(ちから)は年々弱体化してきている。

治癒能力は、完全治癒までの時間が延びた。

身体能力も吸血鬼になりたての頃のように、力を制御出来ないということは無い。


生徒会室のドアをノックし、開ける。

生徒会室に入るのは初めてだ。謎の緊張感がある。

「失礼します」

一応の礼儀である。

「どうぞ」

と短い返事が返ってくる。

とても美しい声。

性格とは裏腹に、だが。

出利葉氷夢は生徒会室の一番奥にある生徒会長専用であろう席にに鎮座していた。大きな机があり、座り心地の良さそうな教室のものとは違った椅子に腰掛けていた。

前会長も退任していないのにそんなことをしていいのだろうか…


△▲△


「まさか、本当に来てくれるとはね。何よりも面倒事が嫌いな貴方のことだから約束をすっぽかすと思っていたわ」

「…あんたが脅迫したから来たんだろうが…。秘密ってどんな秘密だよ」

「私…知っているの」

「は?何を…」

「貴方が、人間ではないということを」

「ッ!?」

何故だ!?何故バレた!?

こいつと話したのはさっきの教室が初めてだ。

何でこいつにわかるんだ!?


「その反応は図星のようね。私、見たのよ」

「何をだ…?」

「何ヶ月か前に貴方が、人ならざるものと対峙している姿を、とでも言おうかしら」

「それって…」

そうだ。あの事件だ。

この女はあの事件を目撃していたというのか。

「…どうやら、全てお見通しらしいな。氷の女王」

「…その寒い呼び方はやめてくれるかしら。特に貴方のような人に言われると寒気が増すわ」

なんか酷いな…

「貴方も正体は分からずとも人ならざるもの」

そう言うと出利葉氷夢は机にあったプリントを1枚手に取り俺の方に突き出してくる。

すると…

「…でも、やっと会えたのね…」

先程とは打って変わった語調で話し始める。

機械が人間味を得たかのように。とても感動したように。

一呼吸置き、出利葉氷夢は言う。

「私と同じ…化物に」


ピキピキと音が鳴る。

出利葉氷夢が手に持っているプリントが一瞬にして凍った。

俺はドキリとした。

この女…雪女か何かか…?


自分も彼女と同じ化物だということを忘れて。


「どう?驚いたかしら?こんなのはまだ序の口なのだけれど」


同じ学校にもこんな化物がいたなんて。

俺は(まさ)に開いた口が塞がらないという状態におかれた。


「ちょっと、聞いてるの?もしかして、びっくりさせすぎたかしら?」

「いや…大丈夫だ」


「そう。で…貴方に1つ、お願いがあるの」

「なんだ?」

出利葉氷夢は顔を赤面させつつ言う。

「私の…」

「?」

「私の…と、と、と…」

「と?」

「と…友達…に…いや、友達を作る手伝いをして欲しいの」


「断 る」

即答した。

面倒くさいことだと悟った。

くるりとターンして俺は生徒会室を出ようとした。


「…待ちなさい」

先程の赤面の氷夢さんは何処に行ったのやら。いつものクールな氷夢さんのお帰りですか。

いつの間にか彼女は俺の背後に付き、俺の首筋に氷で作られた洋刀を突き立てようとしていた。

「待て待て待て!No!No War!!戦争、ダメ、ゼッタイ!」

「私は貴方の弱味を握っているのよ。それでもいいの?私の言う事を聞かなければ…」

「…俺だってあんたの秘密を知ってしまったんだぜ?あーあー、学校イチの美少女と名高い氷の女王サマの正体がこんなんだと知ったらみんなはどう思うかね〜?」

最大限に挑発したつもりだ。

「…別に世間体なんてどうでもいいわ。氷の女王?何よそれ。誰が言い始めたのかしら。探し出して殺してやりたいわ、そう」


「今から貴方にするように」


洋刀を1度引き、そして再び突き出す。俺の背中目掛けて。

グサッ、と。音を立てて俺の背中から胸に氷でできた洋刀が貫通した。

大量の血が出る。

自分のものだと認識出来ないほどの大量の赤い血液が。

「あぁぁああぁあぁあいいいぃぁぁぃああああああああぉぁあぁああああああああ!?」

俺は思わず叫んだ。

叫ばずにはいられないほど痛かった。

今尚、俺の胸は(幸い心臓のない方だったが)氷の剣で貫かれている。

出利葉氷夢が手に持つ血塗られた氷の剣は彼女の能力(ちから)で出したに違いない。

冷たくて、鋭く尖った…まるで彼女そのもののような剣だった。



「…折角、私、見つけられたと…思ったのに…」

出利葉氷夢は…泣いていた。

俺が痛さで泣きたいくらいだったというのに。

でも、その涙には…放っておけないものがあった。

俺は胸を貫く氷の剣を両手で掴む。

「貴方…手で…私の剣を…!?」

彼女は泣きながら言った。抵抗する力は無いようだ。

手の皮が張り付きそうなほど冷たい。

氷の剣はシュウという音を立てている。

それでも、俺はそれを掴み、自分の身体(からだ)から抜き出す。

簡単に剣は引き抜けた。

手の皮は剥けて肉が剥き出しになってしまったが、そんなことは関係無い。

「こんなん痛くも痒くもないさ。あんたの痛みに比べりゃな」

「…ッ!?」

「俺に全部話してくれよ。できる限りの事はするぜ」


「まぁ、面倒ごとは御免だけど」

そう一言付け足した。


△▲△

「俺は吸血鬼なんだ」

「吸血鬼…と言うと小説やゲームで出てくるあの吸血鬼?」

「そう、それ。正確に言うと俺はあんたが見てた半年前のあの時に吸血鬼になったというか…」

「通りで生きていられる筈だわ。私、本気で貴方を殺そうとしていた。ここまで全てをさらけ出した相手は貴方が初めてよ。壱石君。」

先ほどの罪悪感からか出利葉氷夢の俺へ対する呼び名が変わってる。

「あぁ、俺もだよ。ここまでさらけ出した相手はあんたが初めてだ、えーと…」

彼女の事をなんと呼ぶか迷った。

氷の女王と言うのはなんだかとても気が引けてしまった。

「氷夢でいいわ」

「お、おっす…氷夢さん」

「何よ。それ。『さん』付なんてしなくてもいいのよ?同学年なのだし」

何だよそれ。童貞キラーか。

「つ、つら、ら…つらら…たん…つらたん?」

「人を女子高生に流行りそうな感じの名前で呼ばないでくれるかしら?」

「いきなり呼び捨てとか俺みたいな童貞にとってはまさにつらたんなんだよ!!」


「…話を戻すが、俺は吸血鬼で、半年前のその…氷夢も見てたあの時、俺は吸血鬼になった。生まれつきの吸血鬼ではないってことだ」

「…やっぱ気持ち悪いから名前で呼ばないでくれる?」

「あ、うぃっす…」

何なのこの女…


「話を戻すわ。…奇遇ね。私も生まれつきの雪女ではないのよ。この能力(ちから)が発現したのは―――」






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