清也の日常(朝)
「ふあーぁ…」
と俺は大きな欠伸をした。
朝は苦手だ。
もうすぐで夏休みに入ろうという七月の序盤のこの刺すような日差しも苦手だ。
最寄駅まで歩き、学校へむかう電車に乗る。この時間帯の電車は通勤ラッシュで満員電車である。いつものことだが、今日のような夏日には特に応える。
「おっ、清也殿!おはようございますっ!」
と朝からあつっ苦しい声を掛けてくれたのは隣のクラスの女子生徒、中島翅だった。
「おはよ」
と俺は適当に挨拶を返す。
「部活の件ですが…」
「入らないよ」
「なっ!?何故ですか!?清也殿程の身体能力の持ち主ならば我が陸上部で入部早々エース級の活躍が出来るというのに!」
「俺の身体能力なんて仮染のものに過ぎないさ。こんなのがエース張ってちゃ陸上部も胸を張って歩けないぜ。その自慢のおっぱいをな!」
「んなっ…!セクハラです!セクハラ!」
冗談めかして言ったつもりが顔を真っ赤にして結構本気にしてしまったらしい。こいつ結構可愛いとこあるな。
「冗談だよ、冗談。ハハ…」
「冗談で済むなら警察は要らないですよっ!」
満員電車でなけりゃここで跳び蹴りの一つでも喰らっていただろう…危ない危ない。たまには満員電車も役に立つものだ。
彼女は前々から俺の身体能力を買ってか、彼女の所属する陸上部への勧誘をしてくる。しかし、先程も言った通り、俺の身体能力は仮染のものに過ぎない。自分でここまで鍛えることなど到底俺の意識力では無理がある。
駅に着いた。がるるるると唸る翅を宥めて、電車を降り、学校までまた、歩く。
先ほどと同じような内容のことを何回か繰り返し、学校の昇降口につく。
「いつか必ず入部してもらいますからねー!」
そう言って翅は元気良く彼女の所属するクラスの教室へと向かう。
うちの学校は私立で中等部もあるというところ意外は至って普通の高校である、と思う。と思うと思うのは(おかしな言い方だが)他の高校に行ったことがないからなのだが。俺は高校受験は適当に済ませてしまい、たまたま電車ですぐ着くことが出来るこの学校を選んだに過ぎない。レベルも高い訳ではなく、入試は簡単にパスできた。だがまぁ、適当に選んだからか、中身のない高校生活を送っていると言ってもいい。先ほどの翅のような友人なら何人かいる。でも、本当に、心から高校生活を楽しんでいるか、と聞かれればnoと答える。何故なら心の底から楽しいことなどないからだ。言われたことをこなすだけ。思えばあの日から俺はこんな風に考えるようになってしまったのかもな…と思想に耽っていると、何やら熱い視線を感じる。俺のファンか何かかな?
「清也氏!裏切りおったなぁぁぁ!」
と何事か、またもあつっ苦しい声を掛けられた。
今度はなんなんだ、と視線の方に目を向けると、身長は俺より低く、小太り、眼鏡が本体ですと言わんばかりの地味なキモオタ野郎…小崎裕一郎だった。
「だーれが眼鏡が本体です、だぁぁぁぁ!」
「聞こえてる!?まさかお前エスパータイプ!?」
「聞かなくても俺にはわかるよ顔に書いてあるんだよ清也くんん…」
名前の呼び方を統一して欲しいところだが、要件を聞こうではないか。
「で、なんだ?朝っぱらからあつっ苦しいじゃねぇか」
「なんだ?ではない!貴様おっ、おおおおお女と登校しておったなぁ!?この拙者を差し置いて!」
キャラの統一もして欲しいところだが、弁解しておこう。
「あれは、陸上部の中島翅さん。俺のこと陸上部に勧誘してくるんだけどさ、入る気は無いからいつも断ってんの」
「い つ も … ?」
「まぁ、毎日ではないけど」
「いつもってそんなに話してるのか貴様ああああああ!」
あーあーめんどくせーしうるせぇ…これだからキモオタは…
まぁ、そんなこんなで俺の空っぽだけど、賑やかな学校生活の1日は幕を開ける。