弱虫ラプソディー
プレーヤーのカロン。その名前を知らない人はどこにもない。なかったはずだった。
最初に限界レベル100に到達した彼は誰とも並べないと知られているほどに、「この世界」で象徴的な存在だった。
剣を一回振るうと山が消えて、拳でドラゴンを潰したと言えば言い尽くせない。勿論、噂という噂の半ばはやらかして、あまりの半ばは仲間たちがやらかしたというはずだが。
そんなふうに賑な日々は続いた。彼を中心に話題は絶えなく、事件は続いて歩き回れて、仲間たちは一人一人性格は違いながらもしかも中が良かった。
この世界の象徴的なカロン。同じことに各人の全てが折り紙付の仲間たち。迷う人たちの道標になるためのギルドはそこで生まれた。
そしてそこで没落した。
永遠の絆を押したが、近いとはとても儚いもの。
皆の憧れと羨望が求められる対象というのは実に存在できないもの。
笑いがつきないというのは、いつも幸せだというのは誰一人が後ろで自分の心を隠して差していたというもの。あるいは皆が僞善をしていたというもの。
誰も知らなかった。
誰も知らなかったし知りたくなかった。
そうして英雄は倒れた。一人で悩んで、一人で迷った彼は仲間たちの心に傷を付けて離れた。
『ただのゲーム。』
残された仲間たちはその言葉を否定もできなかった。残されたものには彼を恨んで憎んで、ともに自分を恨んで憎んでするしかなかった。そして辛い傷を思いたくなかって互いを知らないふりに生きるように始めた。
やがて彼らの評判がカロンの位相を越しながら、カロンという存在はこの世で徐に消えた。限界レベルが150になると新しいプレーヤーが出て有名になった。クエストもアイテムも次々と現れたプレーヤーたちが解決しながら時代の主役は何度でも変わった。
もうこれ以上カロンを憧れの対象にする人はどこにもない。
思いではただそんなふうに過ぎて、退色するだけだ。
やがて2年が流れて─
またもや世界は波乱に染まる。