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■ 後 編

 

 

 

靴箱の前でふたり。

一瞬顔を見合わせて立ち止まった。


実は、結構似た者同士のふたり。

言葉に出してはいないけれど、頭に浮かんだその言葉は、

 

 

 

  (靴、履き替えんのめんどくさいなぁ・・・)

 

 

 

ふたり、ぷっと吹き出して、まるで外履きに替えたような涼しい顔をして

昇降口に進んだ。

 

 

すると、タケルが言う。

 

 

 

 『自販機までダッシュして、負けたらおごりー!』

 

 

 

『いいよ!』 ナナがスタートの体勢をとる。

 

 

 

 『よーい・・・ドンっ!』 

 

 

 

掛け声と同時に、ふたり、真剣に校庭脇の通学路を全力で走る。


校庭では野球部員が声をあげながら白球を追う姿。

夕焼けに照らされたフェンスが、必死に駆けるふたりの顔に菱形の影を

落とし流れる。

 

 

校庭の角にある生徒たち御用達の自動販売機、先に手を付けたのはナナだった。

どうだと言わんばかりに腰に手をあて、アゴを少し上げて仁王立ち。

その顔はニヤリと片頬を上げ、得意気で。

 

 

体を屈め、息が上がって苦しそうに顔を歪めるタケル。

 

 

 

 『・・・早えぇーよ・・・。』

 

 

 

ゼェゼェと肩を上下させて、ひとこと絞り出すと、

『中学で陸上やってたからね~!』 と、ご機嫌顔でナナが笑った。


自販機のラインナップを、上段左から隅々まで指でなぞりながらどれに

するか考え、その中のひとつを指差す。

 

 

 

 『コレにする! アクエリ、アクエリー!!』

 


ナナの声に、

 

 

 

 『陸上やってたのは、先に言わんきゃダメなやつだろー・・・』

 

 

 

タケルがちょっと笑いながら文句を言いつつ、尻ポケットの中に突っ込んだ

財布を取り出す。

ふたつ折りのそれを開き、チャックを開けて小銭入れを確認すると。

 

 

 

 『やべ・・・ 164円しか、無い・・・ 1本しか買えない。』

 

 

『私の分だけ買えればいーでしょ!』 わざと涼しい顔を向けるナナ。

 

 

『ひどい仕打ちだ・・・』 ブツブツ呟きながら、タケルは自販機のコイン

投入口に100円硬貨と10円硬貨を5枚入れた。

”アクエリアス ”の見本ボトル下のランプが点灯すると、親指で乱暴に押す。

 

 

 

  ガゴン・・・

 

 

 

自販機前にしゃがんだナナが、ボトル落下音を確認すると取り出し口に

手を入れた。

しっとり水滴をまとった500mlのそれは、すぐさまナナの手で青い

キャップが捻り開けられ、その飲み口は形いい薄い唇にあてがわれ、

斜めに傾ぐ。

ナナのうっすら日焼けしたノドが、小気味よく通過する清涼飲料水に

微かに上下する。


タケルが物欲しそうにそれを眺めた。

ジタバタと足を踏み鳴らし、子供のように駄々をこねる。

 

 

 

 『飲みたいよー・・・ ノド乾いたよー・・・ 


  言いだしっぺ、俺なのにー・・・』

 

 

 

その呟きに、ナナが笑ってしまってドリンクを吹き出しそうになる。


すると、無言でグーにした拳を軽く上下して ”じゃんけんする? ”の合図を

送るとタケルが『負けねぇぞー!!』 と声を張り上げた。

 

 

 


 『じゃーんけんっ・・・』


 

 

 

 

 

 

 『あはははははは・・・』


 『うはははははは・・・』

 

 

 

 

 

ふたりの笑い声が夕陽沈む校庭に響き渡る。

ナナは笑い過ぎて、自販機に手を付き寄りかかっている。

 

 

 

 『なんでー? ねぇ、なんでこんなに ”あいこ ”が続くの??』

 

 

 

またもや3連続したじゃんけんの ”あいこ ”。

タケルも笑い疲れ、自販機に背中をもたれてしゃがみ込んだ。

 

 

笑いすぎて、更にノドは乾いてしまった。

ナナがわざとノドを鳴らし、ゴクン ゴクン と美味しそうに飲んでゆく。


それを羨ましそうに、ほんの少し口を開けて見ているタケルをチラ見すると

ナナはまだ半分は残っているそれを、情けない顔に向けて押し付けた。

 

 

 

 『はい。 ひとくち、ね?』

 

 

 

咄嗟に目を見張るタケル。

一口飲める事も嬉しいが、それよりなにより・・・

 

 

 

 『かかかか間接キッ・・・


 『言うなっ!!!』

 

 

 

タケルが言い掛けた、多感な高校生にとっては結構レベルが高い、

その ”ワード ”をナナがピシャリ、遮る。

 

 

 

 『イチイチ深く考えなきゃ、どーってことないでしょ。』

 

 

 

男勝りなナナの横顔。

それを横目で見つつ、タケルが乙女のように両手でボトルを掴みしずしずと

飲み口に唇をあて。

 

 

 

 

 

 

 グビグビグビグビグビグビグビグビ・・・

 

 

 『あああああああ!!!』

 

 

 

ナナが慌ててタケルの口からペットボトルを取り上げる。

 

 

『ほとんど無くなったじゃーん!!!』 もう笑いが堪えられず、

ナナはタケルへ向けてパンチを繰り出す。

両手をグーにして、闇雲に連続パンチを突き出す。

タケルがそれを、広げた両の手の平で受け止める。


ふたり、笑って笑ってもう立っているのもしんどくて。

 

 

最後の一撃、ナナがタケルのお尻に軽く足を伸ばしキックをした。

 

 

 

 『ぁ。パンツ見えたっ!』

 

 

 

タケルのその言葉に、再びナナのパンチ連打が繰り広げられた。

もう、ふたり笑いすぎてクタクタだった。

 

 

 

ほんのり冷たく澄んだ秋の夕光がそそぐ。

タケルが眩しそうに目を細めて、言う。

 

 

 

 『もっかい。 ・・・じゃんけんしない?』

 

 

 

『ん??』 ナナが小首を傾げ、『いいけど?』 とまた ”連続あいこ ”を

想像しつつ『ぽん』の掛け声で手を出した。

 

 

 

 『・・・俺の、勝ち。』

 

 

 

あっさり一回でついた勝負。

タケルが、ほんの少し目線を逸らした。

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 『俺、勝ったからさ・・・


  今度の日曜。 ・・・どっか行かね?』

 

 

 

 

 

 

校庭の野球部員は、グラウンドにトンボ掛けをし本日の部活終了を示している。

その脇道には、淡いピンク色のコスモスが夕風にやさしく揺れていた。


ふたり、教室への戻り道はゆっくり、並んで歩いて。

秋の高い夕空に、笑い声はいつまでも、愉しげに響いて。

 

 

 

 

 

 

その頃の、2-Aの教室。


開きっぱなしのノートの ”ハヤト・コンノさんデート大作戦 ”の見出しに、

ハヤトとミノリが目を見開いて赤面していた。

 

 

 

 『ハヤトマン・・・。』

 

 

そのワードに、ミノリが体をよじらせて笑った。

止まらないミノリの笑い声に、ハヤトも少しつられ口許を緩めながら。

 

 

 

 『アイツら、仕事もしないでドコ行ったんだよ・・・。』

 

 

 

まだ笑っているミノリの顔を、チラリ、横目で見たハヤトマン。

その顔もまた、小さく微笑んでいた。

 

 

 

                            【おわり】

 

 


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