■ 前 編
『あのふたり、さー・・・
示し合わせたみたいに、じゃんけん弱いよなー・・・』
学校祭実行委員が放課後に残って作業する、2-Aの教室。
今日のじゃんけんは廊下や各教室にポスターを貼りに行くという名目で行われ。
またしても、ハヤトとミノリが仲良く揃って負けたわけで。
『どっちか、遅出ししてんじゃないかー?』
タケルが可笑しそうに肩をすくめ笑う。
机に片肘をついて半身に傾げ、夕暮れの教室でナナとふたり。
勝者のふたりは、やる事もなく退屈そうにしていた。
ナナがノートを広げ、暇つぶしに落書きをしはじめた。
それを見て、タケルがナナのペンケースから勝手にシャープペンを取り出し
一緒に落書きする。
『なんか、面白いことないかなぁ~・・・』
ナナが呟いたとき、
『あ! イイコト思い付いたっ!!』 タケルがニヒヒ。と白い歯を見せた。
半身に傾ぐ体勢からまっすぐ背筋を正して座ると、ノートを自分の前に
引っ張り寄せなにやら書きだした。
『なに書いてんの・・・?』 ナナが覗き込むと、
『じゃーん! ”ハヤト・コンノさんデート大作戦 ”~!!』
そう言って、太字で題目を書いたノートをナナの顔に近付け見せつけた。
ククク。と笑うナナ。
どうせ暇だから、タケルのアホらしい大作戦に付き合ってみる。
『季節は、いつがいいかな・・・?』
『冬は、寒いからさ。 物理的に距離も近くなるんじゃない?』
ニヤニヤ笑いながら、タケルとナナ。
ふたりでお節介甚だしいプランを考えあぐねる。
『冬ってーと・・・ スキー? ちょっと大変かー。』
『ねぇ。スケートは? ほら、自然に手とか。 つなげるんじゃない?』
うんうん、いいねいいね。と、ふたり満足気に。
『きっと、コンノさん。・・・コレ勝手な想像だけど、どん臭そうだから
スケートもきっと、全然ダメだろー?
・・・そこでハヤトマンの出番だよっ!』
『うんうん。
きっとハヤトマンなら、フィギュア選手ばりのスケーティングを
見せちゃうわね!』
いつの間にか ”ハヤトマン ”という呼称が付いている。
『カッコイーだろーなぁ、ハヤトマン。
コンノさん、まーた惚れ直しちゃうじゃーん。』
『いつも顔赤いのに、更に真っ赤になっちゃってさ・・・
転んでリンクに顔付けたら、氷溶けちゃうんじゃない?』
ふたりの暇つぶし妄想は止まらない。
『氷が溶けてピンチな時こそ、ハヤトマンが颯爽と滑り寄って来てーぇ、
”ダイジョーブ? ”ってクールに言って、
お姫様抱っこしちゃうかーぁ?!』
『うわ~・・・ お姫様抱っこされるんなら、その日はアレだね。
スカート履いてっちゃうと、抱っこされた時パンツ見えちゃうから
パンツで行かなきゃダメだね?』
タケルが一瞬キョトン顔を向ける。
『え? パンツが見えるからパンツ??』
『イントネーションが違うでしょー。 ”パ・ンツ ”と ”パン・ツ ”・・・
・・・まぁ、いいや。 スカート厳禁って釘刺しとかなきゃ。』
ふたり、ゲラゲラ笑いながら箇条書きしていったノートは、
気が付くと勝手な妄想だけで見開いた2ページが埋め尽くされていた。
散々笑って、笑い疲れ。
しかしまだ戻って来ないハヤトとミノリに、ふたりは待ちくたびれた面持ち。
『ノド乾いたなぁー・・・』
またしても呟いたタケルに、
『じゃーんけんっ』 ナナがいつもの掛け声を掛けた。
『ぽんっ』 両者、パーを出して引き分け。
『ぽんっ』 両者、チョキを出して引き分け。
『ぽんっ』 両者、再びパーを出して引き分け。
『ぽんっ』 両者、グーを出して引き分け・・・
『もー・・・ なんなのよー・・・』 笑いが止まらない。
全く決着がつかない、この勝負。
『一緒に買いに行かね?』
タケルが頬を緩ませて立ち上がった。
『そうだね。』 ナナも笑ってそれに続いた。