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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
1章 ルーキフェア帝国編
8/85

7話 奴隷狩り

 

 白い太陽の日差しを浴びて目を覚ますと、ヨモギが焚き火の前でなにやら作業をしている。

 起きぬけのシバシバした眼を擦りつつ近寄ると、ヨモギが俺の方に振り返り、穏やかな笑顔で「おはようございます、タイサ」と、挨拶をしてきた。


 その手には、昨日洗っていた内臓らしきものが串に刺さって焚き火に炙られている、嫌な予感がする。

 ちなみに俺は昨日から何も口にしていない、空腹という最高のスパイスをふんだんに使っても乗り越えられない壁がここにある。


「タイサ、どうぞ」

 笑顔で差し出されるパンチの効いた串焼きのブツ。

 網膜に飛び込んでくる映像は、テレビならモザイクで全てを隠す必要があるレベルだ、十八禁の映像だ。


  だが表情は変えない、俺は彼女の笑顔を守らなければならない。

 川の水を毒味させたことに対する負い目などでは断じてない。

 これは崇高なミッションだ。


「じゃあ、頂くぞ」

 日々の生活で自然に口にできる「いただきます」とは覚悟がちがう、特攻隊の「いってきます」に該当する戦士の決意表明だ。


 俺は顔色一つを変えず、鈍色に輝く未確認物体を口に含み、歯を立てて齧りついた。

 鉄くさい血液と肉汁が口一杯に広がる、嬉しくない。


 素材そのものを生かした、調味料を一切使用しない純正臓器の炙り焼き、肉汁からみなぎる生命の痕跡が鼻腔を刺激し、不快感が乗数効果を伴って胸に込み上げる。

 そして硬い、これはホルモンだと自らに言い聞かせる、大脳からの返答は『受け取り拒否』食道が胃液の報復を受ける。

 しかし、脳みそ、脊髄、満場一致の否決を意志の力で捻じ伏せる。


 俺は口と喉にある全ての物を気合で全て流し込み、俺は少女に向かって涼しい微笑を向け「悪くない」と、答えた。

 報酬は少女の心の平穏、そして笑顔、一銭の価値もない。




 朝食というストレステストに疲弊した俺は、例のブツに噛り付くヨモギに、兎をまた狩ってくるから内蔵は捨てようと提案し、そのまま日常会話に移行しヨモギが持っている知識を探った。


 朧げに得た知識として、でっかい兎を含めて魔獣は白の太陽が登っている間にしか活動しないということ。

 赤の太陽は、マナを大地に降り注ぐ神聖なもので魔獣は活動できないらしい、そして滞在しているこの川は帝都から流れている聖流なので魔獣は近寄れないということなどだ。


 昨日、ヨモギは白い太陽のうちに兎を解体し、赤い太陽になると河原から出ていって雑木林に入り薪拾いをし、夜に焚き火をして肉を炙り始めた。

 つまり全てを把握し的確に行動していたわけだ。

 たとするとだ、白い太陽の時、馬車を土手に放置しておく事の危険性を最初から認識していたわけだ……馬が襲われて馬車が使えなくなったのってコイツのせいじゃね?


 一瞬殴ってやろうかと思ったが、思い返してみれば俺はヨモギに今まで何一つ尋ねていなかった、聞かれなかったから答えなかったということなのか?


 手が出せない、せめてもの抵抗としてヨモギの頬っぺたをつねってやった、ん? すっげぇヌルっとした、気持ち悪い、こいつすっげぇ汚れてやがる。


 キョトンとした顔のヨモギを尻目に、俺はヨモギの頭を両手で掴みクンクンと臭いを嗅いだ。


「うあぁぁ! ものっすっごいくっせぇ!」

 これはいかん。


 俺は燃え続けている焚き火まで走り、干してある肉の脂身を切り取り、それに木の燃えカスを混ぜて一心不乱に捏ねることにした。


「タイサ?」

 ヨモギは俺の背後まで恐る恐る近づくと「大丈夫ですか?」などと聞いてくる、お前の臭いが大丈夫じゃないわい! 


 少しずつ燃えカスを足していきながらなんとか使用出来そうな硬さになった、その灰色の物体をヨモギに手渡し――

「これを泡立てて頭と体を洗え、臭いが酷すぎる」と吐き捨てた。

「こいつを使いきるまで全力で洗え」念押しも忘れない。


 作り方を覚えていて良かった、使う時が来るとは思ってもいなかった、究極の簡易石鹸。


 ヨモギは黒ずんだ簡易石鹸を手に取ると、服を脱いで川に駆けだしていった、俺は子供の体に興味はない、俺はついでに予備の簡易石鹸でも作るかな。


 しかしヨモギの体は本当に細いな。

 栄養が不足しているのか、元からそんな体系なのかわからんが、背中から尻、太股にかけてのラインに凹凸が何もない――――正面もペッタンコだ、本当に何もない。

 おっぱいは小さかろうが大きかろうが良さはそれぞれだと思っているが、全くの無には存在価値を見出せない。

 貧乳と無乳は全く別のものだ、そうだろ?


(貧乳か……あゆむはどこで何をしているんだろう)


 ふむ、ヨモギの肩と胸の間にも紋章のような印がある、肩にあるのと合わせると合計で二つ、柄は違うようだ、見た感じ焼印かな、その意味はわからない。


 ヨモギの体から汚れが落ちてきて気づいたのだが、素肌は色白らしい、浅黒い肌だと思っていたが汚れだったのか、衛生観念の欠片もねぇなぁ。

 髪は透き通るような緑、ちっともヨモギ色じゃねぇじゃん、本来の髪質は良さそうだが石鹸洗いだからな……乾いたら髪がギシギシだろう。

 顔の腫れも引いていて素顔は結構整っている、眉が下がって頼りない顔だが不細工ではないな。


 汚れの落ちてきたヨモギを総括すると、あれだ、女性でも男性でもなく子供だな、それ以上でもそれ以下でもない。

 まぁ俺は石鹸作りに夢中で何も見てないがな。




 ヨモギは体を洗った後、白い太陽が沈むまで服を例の石鹸で洗い、赤い太陽が登ってからは、それが沈むまでずっと薪拾いをしていた。

 昨日みたいにボロボロになるまで働かれると困るので「少し休め」と、こまめに声をかけておいた、アリバイ作りも完璧だな、俺はちゃんと止めたからな。


 内臓は交渉の末に全て破棄し、炙った兎の肉に噛り付いていると、いつしか赤の太陽は沈み星一つの無い夜になった。

 明かりは揺れる焚き火の炎のみ、俺とヨモギをユラルラと照らしている。

 ある程度腹が膨れたところでヨモギに話しかけた。


「こんなこと今更言うのはルール違反なんだろうけどよ」

「はい」

「これからどうしようかな」

「……」

「いや、出発初日から馬車も無くなって、この場所にとどまるようになってから、もう二日だろ」


「そうですね」

「いろいろあったじゃん、七人のならず者と救世主である俺との壮絶バトルとか」

「……」

「壁、というか城壁と言うべきかわからんが、あの集落から全然進んでないだろ」


「ヤグディヌ様の領地からはまだ目と鼻の先ですね」

「そうそう、あのヘタレの……領地? あのヘタレってお偉いさんだったのかよ」


 あの口だけの雑魚って権力もってたのかよ、なるほど、脇にいた二人の方はかなりの使い手っぽかったけど、そいつらに守られていた理由は、あの木偶の坊が権力者だったからってわけだ。

 まぁ手勢があの人数ではせいぜい村長って程度のものだろうけどな


「私もヤグディヌ様に買われてから日が浅いので……すみません、よくわからないです」


「そのヤグディヌ様ってのがあの大柄ヘタレの事なら様付けはやめろ」

「はい、ご、ごめんなさい」

「いちいち謝るなよ、俺はすぐ謝るやつは苦手だ。意味も無く意地悪をしたくなる」


「……」

 ヨモギは俺に気を使いすぎだな、警戒されすぎの間違いかもしれんが。


「まぁそれはいいや、そのヘタレの領地を出てから全然前に進んでない、目的地がないから進むも戻るもないんだけど、ここでいつまでもキャンプ紛いな事をしている場合なのか? 前にも言ったが俺はこの世界の事はまるでわからない、遠慮する必要はないから思った事は口にしていいんだぞ」


「私はタイサについて行きます」

「いや、そうじゃないんだ、う~ん、わっかんねぇかなぁ」


 そうじゃないんだ! 大げさでもなんでもなく俺には右も左もわからないんだよ、川沿いに来たのだって、川の流れに沿って進んで行けば良い人たちだけの集落に行き当たるんじゃないかな? とか、特に理由もないんだ。

 

「うん、そうだな、まずこれからの行動についてお互いに提案し合うのはどうだろう、それがいい、お前は奴隷なんかじゃなく俺の、そう、同行者だ、それならばヨモギにもこうすればいい、ああすればいいとか思うところがあるんじゃないのか?」


「同行者……ですか?」

「そう、同行者だ、同行者としての意見が聞きたい、そして、その行動の理由や、根拠なんかも言ってくれるとありがたいな」


 そう、この世界の常識や価値観を覚えなければならない。


「わたしは――」

「うん」

 俺は身を乗り出し顎を上げて続きを促す、ヨモギは少しの間俯いていたがクッと顔を上げると遠くを眺めるような顔をした。


「あ――」

「ん?どうした、なんでもいいぞ」

「あ……うっ」

「気づいたことを言うだけでいい、難しいことじゃないぞ! さぁどうした」


 どうも様子がおかしい、ヨモギは見当違いの方向を見つめたまま、口を大きく空けたまま固まっている。


「どうした?」

「ど……奴隷狩りです」

 ヨモギは声を絞り出すように吐き出した、奴隷狩り?なんのことだ?


「……」

 ヨモギはもう言葉が出ないといった雰囲気だ、人のことは言えた義理ではないが、コイツも人の話を聞かない奴だなぁ。

 俺はヨモギの見ている方へ視線を移した。


 一つの光を中心に川沿いをこちらに移動している影が見える、影は全部で三つ、騎馬は二人、真ん中の影は一回り、いや二周りは大きい、シルエット的に大きさは四トントラックほどはあるだろうか、その大きな影の上に人影が見える、何の一団だろう?


「あの連中はなんだ?」

「……」

「早く答えろ! お前の雰囲気からあまり良いイベントじゃないことは感じるが、あれらは一体何者なんだよ!」


「奴隷狩りです」

「そうか、奴隷狩りか、よし! その奴隷狩りで知っていることを全て話せ」


「……奴隷狩りは、奴隷に使えそうな人を捕まえて、捕まえて領主様とか大身の旦那様など、奴隷を欲しがっている人に奴隷を捕まえて売る人、人たちです」


「ああ、そうかよ、だがなぜ奴隷狩りだとわかる?」


「行商や、領主様の行列は街道を、街道を使って移動する、んです、魔獣は、手分けして相手をして……そして、そして弱い……私みたいに弱い人は魔獣から逃げて魔獣の近寄らない聖流に集まる、集まっちゃうから聖流沿いには奴隷狩りの人達が――」


「この川沿いは奴隷狩りの狩場ってことか?」

「そうです――」


 クソッタレ! 川沿いが危険ならさっさと教えろよ! 自発的によぉ! 奴らは俺たちの焚き火を目指して進んできている、他に目印は無いからな。


 もう奴隷狩りとのエンカウントは不可避だ、逃げる選択もあるにはあるが馬車の残骸に積んだままの荷物、唯一の食料である肉、だいたい体一つで逃亡したところで未来は無い。


 その前に逃げ切れるとも思えない、奴隷狩りってのがどんな連中か知らないが人間狩りのプロってことだろ? 奴隷狩りって言葉からするとな!

 どうする? どうする? どうする!? 

 クソッタレ、戦うしかない!


「おい! いいか!」

「……」

「聞いているのか! おい!」

「は、はい――」


 ヨモギはガタガタ震えて一歩も動けないといった感じだ。せっかく体中の汚れを落としたってのに汗がすげぇ……内太股から足首にかけての汗が特に凄い、台無しだなこりゃ。

 これでは何も期待できない、まぁ最初から期待はしていないがな。


「いいか、よく聞け!」

「……」

「聞いてんのかガキィ!」

「はいぃ! 」

「お前は何も心配するな、ここでじっとしてろ! そして俺がいいと言うまで目を閉じていろ! 絶対空けるな! 絶対だ! わかったか!」

 

「タイサ――」

 もう時間が無い!


「わかったか!」

「はい」

 俺は腰の短刀を抜くと、ヨモギを置き去りにして、焚き火の明かりが届かぬ肉が垂れ下がっている物干しの影に身を潜め、奴隷狩りの動向を伺う。




 三つの影はパカパカと蹄の音を立て近づいてきた、騎馬はともかく真ん中の影は見かけないシルエットだ。


 焚き火の明かりが近づくにつれて異様は鮮明になってきた、馬車のように乗っているが乗り物の姿はムカデのような形を成している、巨大なムカデだ。


 高さは馬とそう変わらないが長さは二十メートル近くある、小石で構築されたガタガタの河原を、ヌルヌルと滑るように進んでくる……うへ、気持悪い。


 どうやら三人組で間違いないようだ。

 「お前等、あの焚き火の周辺を探って来い」と声が聞こえ、騎馬の二人が馬から下り、ヨモギの方にジャリの音を響かせながら歩いてきた。


 物陰に隠れている俺の体も緊張でこわばる。

 ヨモギは俺が傍にいなくて心細いのだろう、涙をボロボロ流しながら俺の名前を呼んでいる。

 可哀想に。


 男の二人組みは気楽な会話をしながらヨモギの前に立った、その場所は俺から見て二人組の背後、咄嗟に思いついた囮作戦は成功のようだ。


「おい、ガキ一匹だけだぜ」

「こんなガキにレザーラビットが狩れるかよ、他にもいるはずだろ」

「ガキを置いて逃げた、ってことなのか、ヒデエな~、ハハッ」

 本当に酷い話だ、心が痛む。


「ディジー、とりあえず、このガキだけでも先に拾っておくか?」

「おい、よく見ろよ、もうコイツ奴隷紋ついていやがるぜ」

「マジかよ、使えね~……いや、待て!」


 左側の男はヨモギの服を掴むと無造作に引きちぎった。

 やせっぽちで小枝のような裸体が剥き出しになるが、恐怖のためかヨモギは悲鳴すら発しない。


「ギャハハハハッ! こいつ二個も奴隷紋刻んでやがる! こんな小っちぇえガキが逃亡常習犯様だぜ!」


 一瞬だが金色の髪をした男の邪悪そうな笑顔が見えた、炎の光加減でその髪はオレンジ色にも見える、まぁどっちでもいい。


 その正面にしゃがみ込んでいるヨモギは不安なのだろう、狂ったように俺の名前を絶叫し始めた、だが目をつぶったままだ、素直ないい子だ。

 ヨモギの視線で居場所を特定される心配もない。


「こりゃ~どこの旦那も買ってくれねぇわ、不良品だ」

「チッ、ハズレかよ、逃げたもう一匹が当たりの可能性に賭けるか」


 そう吐き捨て左側の男は腰に下げた剣に手をかけた、なるほど、会話の内容からしてヨモギの右肩についている印は奴隷紋というらしい。


 察するに所有者の紋章か何かを刻んでいるのだろう、とりあえず男達の会話で入手できた情報はそれぐらいだ、もういいだろう。


『ザッ』――俺はジャリを蹴る。

 剣の柄に手をかけ左側の男の背後に一足飛び!

 男は俺の足音に気づき反応している。

 こちらに振り向こうとしているがもう遅い。

 もう俺の振り下ろす短刀が肩口に吸い込まれるところだ。


 『ザン!』

 渾身の袈裟斬り――背後から!

 オレンジ髪だか茶髪だかわからない男を、肩口から脇腹にかけて斬り下ろした。


「なんだ!」

 右側のベージュがかった髪の男が剣に手をかけようする。

(もう遅い!)

 俺は左側の男を切った返す刀で右側の男を斬り上げる。

 綺麗な太刀筋で入ったのか音も手応えも無い。

 男が剣の柄を握った右腕を切り落とした。


「がああああああああ!」

 ――右腕を切り落とされた男は五秒前の余裕な表情を全て消し去った表情で絶叫した。


「へへっ、初めまして、そしてさようなら」

 俺は男の喉に短刀と突き立てた。

 鮮血が俺を中心に辺りを赤く染める、当然俺の服も染める。

 さっき服を洗濯したばかりなのに勘弁してほしい。


「タイサ……なの?」

 ヨモギはまだ眼を硬く閉じたままだ。隠すものも無いはずなのに両腕で自らの体を抱えガタガタ震えている。

 だが一歩も動いていない、俺の言い付けを頑なに守っている。

 忠犬ハチ公だな。


「あぁ、だけどまだ終わってねぇぞ」

 そうヨモギに言いうと俺は振り返る。

 巨大なムカデに跨った男はのっそりとムカデから飛び降りると、俺を見て「ガキのようだが随分とできるみたいだな」と大物ぶった態度で吐き捨てた……気に入らない。


「お仲間はもういないのか? 少し慌てても一人だから恥ずかしくないぜ」

 俺は煽ってみた、精神攻撃は基本だ。


「プッ、ガキの分際で知ったような口を聞くじゃないか」

「歳を意識して自分の優位をアピールしなきゃ腰が抜けそうか? ちっちぇえ野郎だなぁ」


「チビにちっちぇえとか言われたら俺も立つ瀬が無いな」


 ちくしょうチビ扱いしやがったなクソ野郎!

 逆に煽られている場合じゃないが……しかしムカツクものはムカツク。


 男は腰の剣を抜いて俺に近づいてくる。

 かなりの長刀だ、一メートル以上はある。

 茶色の髪は肩の下あたりまで伸びていて風に揺れフワフワな髪質と合わさって燃えているように見える。


 服は茶色い皮製でピカピカしていて首元は白いファーみたいなもので覆われている、細かな傷は歴戦の証だろうか、深く切らないと上っ面だけしか切れないかもしれない。


 短刀では不利だ。

 俺は視界の中にある景色から一つのアイテムを見出した。

 死体に化けた金髪の男が握ったままの剣をバックステップで接近し拾い上げると、そのまま両手で握り締めて切っ先を近づいてくる男に向けた。


 西洋風の鍔はついているが刃渡り八十センチほどの剣だ、刃幅は細めで非常に俺好み。

 男は俺の行動を意に介した様子も無く、無造作に自らの茶色く癖のある髪を掻き上げながら俺を品定めするように上から下まで観察している。


「お仲間がみんないなくなっちゃって話し相手が欲しいのか?」

「確かに奴らが斬られたのは予想外だったが……」


 男は目の色を脂ぎったものに変えなら口が裂けるような笑みを浮かべた。


「だが幸運だったようだ、邪魔な奴を間引いてくれたお前に感謝したいぐらいだ」


「あん?」

「はは、もちろん一番に感謝するべきはお前のその黒髪なんだがな」


「俺の髪がなんだ」

「知らないのか? このルーキフェア帝国で黒髪に遭遇できるとは俺は幸運だよ」


「しらねぇよ、俺が幸運じゃないのは話し振りでわかるがな」

 男はヘラヘラしたニヤケ面を浮かべて雄弁に語る。


「その黒髪の首、フフ、貴様が二人とも始末してくれたおかげで懸賞金を一人締めだ、俺はついている……お前の命でしばらく遊んで暮らせるぞ、感謝する」


「意味をわかってやる義理も無いが、俺の黒髪は賞金がかかるほど嫌われているってのはわかった」


 近づいてくる男との距離はもう十メートルもない。

 息を整え構えは中段、様子見だ。


 纏っている空気が茶髪の男が只者ではないと肌でわかる。

 殺しなれしている本物だけが持つ気配。

 グラミー領で戦った鎧の二人組クラスの使い手だ。

 

 今回は足手まといもいない、純粋な力勝負になるだろう。

 両手、両足、体の隅々まで鳥肌が立つ。


 いいだろう、コイツを斬って生き残るだけだ。


 ドクダミアンとの約束もあるしな……




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