表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/85

5話 迷宮攻略終盤戦

 

 結局、そのまま部屋でヨモギの体を(まさぐ)ることをよしとせず、ハミューの部屋に出向くことにした。

 俺の中に流れる正義の血が悪を許さないのだろう。




 ハミューの神殿で剣士から賢者にジョブチェンジをはたした俺は、迷宮攻略の方針を打ち出した。

 簡単に言えば『サットドラゴンを倒せるようになるまでトレーニングを積みましょう』って方針だ。


 迷宮の魔獣は外界の魔獣に比べて格段に強い。

 それは瘴気に浸っているからだ、ロックリザードもサットドラゴンもカルマの量ではなく質が違うのだと結論付けた。

 他に思い当たる節が無い。


 迷宮に入り始めたときはロックリザードも強敵に感じたが、二〇階層を超えて進めるようになった時には雑魚同然だった。

 魔獣が俺たちに合わせて弱くなる必要は無いから、俺たちが強くなった以外に考えられない。

 外界と迷宮の違いは瘴気だ。

 迷宮は下層に行くに従って瘴気が濃くなっていった。

 三〇階層で試行錯誤している間も瘴気を浴び続けていた俺たちは、サットドラゴンにそれなりに対応できるほどになっている。

 そう仮説を立てた。


 


「落ち着かないわね――」


 壁の隙間からはサットドラゴンの姿が見える、そりゃあ落ち着かないだろう。


 そう言いながらハミューは壁に作った的に氷魔術を放つ、攻撃対象だった大岩が凍りつき、細かい粉となり砕け散る。

 とんでもない威力になってきた……てか連発しても魔力不足にならない。


「ユタカ、もっと本気でお願いします」

「あぁ、無理すんなよ」


 カンカンと木刀を鳴らし、ヨモギと模擬戦をしている俺。

 ヨモギの素早さは残像を生むほどになっている、しかしまだまだだ。


「あ~ん」

「うむ」


 壁にもたれ、弁当を広げ肉団子をフォークで差し出すパウリカと、成すがままの赤帝。ホノボノしてんじゃねぇよ、ピクニック気分かよ、お前の力を取り戻すためにこっちはがんばってんだぞ。


 瘴気の濃い、現行では最深部である三〇階層と三十一階層の狭間、そこでキャンプを張ってもう一ヶ月以上も鍛錬に明け暮れている。

 毎日村の様子を確認するために、ヨモギを一っ走りカリスティルの元へ寄越しているが、ほぼ迷宮に引き篭りの生活、そろそろ成果を期待してもいい頃だ。

 

「そろそろ一戦してもいいかもな」

「そうね――」

「ユタカが言うなら大丈夫です」

「うむ、問題ない」

「僕はいつでもいいよ」


 ふむ、自信満々ってわけでもないが、決戦を楽観視できるほどには効果があったようだ。

 まぁここまで瘴気の中での鍛錬に効果があるとは思っていなかった、確かにサットドラゴンは強敵だが、やばくなったら逃げ切れるだけの自信はある。


「なら、段取りを決めて――仕掛けよう」


 そう告げて皆を無渡すと各自頷いて肯定した。さぁリターンマッチだ。




(いくぞ、準備はいいか?

)

 壁の隙間に寄りかかり、気配を殺しながら小声で囁く。

 皆が俺に目線を送り、一様に緊張の面持ちで号令を待っている。

 赤帝がゴクリと喉を鳴らす――いや、お前お留守番だし。


「3.2.1、突入!」


 一斉に俺、ヨモギ、パウリカが走る。


 それを合図に背後からは無数の蛇――いや、もう白く輝く大蛇といって差し支えないだろう、ハミューの氷魔術がこちらを振り向くサットドラゴンに襲い掛かる。

 足を凍らせ自由を奪って斬りかかる作戦だ、俺はサットドラゴンの脚に絡みついた大蛇を確認し成功を確信した。


 鞘から剣を抜き、力を込め、全速力で三人はサットドラゴンに殺到する! が……

 

 あれ――。


 無数の地を這う白い大蛇はサットドラゴンの足から体全体に這い上がり、その巨体を絡めとり、そのまま凍りつかせた。

 大蛇はその勢いを緩めず、龍の巨体を覆いつくし――。


 あれ……動かないぞ。


 まるで宝石のように光り輝く巨像の前で、俺とヨモギは剣を振り上げたまま立ち尽くす。

 ちょっと理解できないけど、これってもう死んでるんじゃね?


『ガン!!』


 空気の読めないパウリカが、凍りついたサットドラゴンに蹴りを放つとガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

 氷の粒が巻き上がり、ダイヤモンドダストのように綺麗だった。

 メルヘンだ――いや、そうじゃない、これは命がけの戦いだ、そのはずだ。

 あまりにもアッサリ終わって拍子抜けした。


 ハミューもポカンと口をあけて目を丸くしている、自分でも予想外だったのだろう。

 そりゃそうだ、これからの死闘を覚悟して突入したのに最初の一手がチェックメイトだったからな。

 だが倒したのは事実だ、それに迷宮の先はわからない、これで終わりではないのだ。

 だから俺たちは……


「坊や――先に進む?」

「いきましょうユタカ」


 俺たちに出来ることをするべきだ。


「少し待て」


 とりあえず氷が溶けて天封石を回収してからにすべきだと思った、見たことないし。

 食料も心許ない、いったん村に帰って準備をしてから最下層を目指すべきだ。

 攻略に向けて視界が開けた気がする、だが、同時に浮ついた気分にもなってしまった。

 この落ち着かない感じはなんだろう……


 いったん仕切りなおしだ。


 


 アルディア村に戻った俺たちは、各自準備をすると共に大量の食料、水、薬草などや新しい毛布なども揃えた。

 明日の夜明けと共に迷宮に潜り、一息に攻略するつもりだ。

 その為にカリスティルに村の様子など問題点を聞いたりする必要もあった。

 迷宮攻略に夢中になっている間に村が消滅しているかもしれないからな、だってカリスティルだもん。


 全てを終えるとそのままハミューの部屋に直行した。

 いろいろ理由を付けたが、もう一か月も迷宮に篭っていたんだ。

 がまんの限界だった、正直に言うとその為に帰ってきたようなものなんだ、わかるだろ。




 これで全ての条件が整った、さぁ迷宮を落とそうか……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ