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1話 ダスラディア迷宮

 

「クソッタレ、何階まであるんだよこれ!」

「三階層下に大きな空間がある、そこが最深部だ」

「本当かよ、前回もそんなこと言ってハズレだったぞ! ちくしょう、物陰に隠れろ! 」

 

 俺はロックリザードを撫で斬りにしながら赤帝に八つ当たりをしつつ、指示を出す、俺に指揮権が移っているってことは当然修羅場だ。


 斬り込んだ先には五匹ほどの魔獣、迷宮内部の魔獣は道端に転がっている魔獣と違い強力だ、ロックリザードは七色に光る体表が特徴のトカゲだ、全長は四メートルほどあり、壁や天井を伝って高速移動しつつ、炎まで噴く面倒くさいやつだ。

 しかもいちいち数が多い。


「ヨモギ! 五秒後に突っ込むぞ!」

「はい、ユタカ」

「ハミュー援護頼む! 三、二、一」


『冬の精霊へ第二を告げる、交わされし盟約の数を糧とし、我を遮る全てを凍て砕かれん』


 当方唯一の魔術師、ハミューの氷魔術が発動し、ざざあっと周囲を凍りの蛇が走り抜け、ロックリザードを氷の塊に衣替えする。

 それにあわせてロックリザードの炎を、壁に身を寄せてやり過ごしていた俺とヨモギは、ハミューの魔術から壁や天井に逃れていた魔獣を切り刻む。

 さらに巨大な白虎と化したパウリカが魔獣を蹴散らす。


 迷宮突入から三時間ほど経過しただろう、最深部までの道程は厳しそうだ。

 俺たちが迷宮攻略なんぞにうつつを抜かしているには訳がある。


 ロックリザードの皮は鎧などにも使用され、爪も高く売れる値打ち物の魔獣だ。

 だがそんな物のために体を張っているわけではない、金は略奪で奪ったものも有るし、俺の隔離小屋に積み重ねてあった荷物の中身は装飾品なども多数有り、一生食うに困らないほどの資産価値があった。


 なぜこんなところで戦闘を行っているかというと、ここが、龍脈の根源、ダスラディア高地って場所だからだ。

 面倒な事にこの高地に修羅が根を張り迷宮化していた、ここの最下層に根を張る要根と呼ばれる迷宮を維持しているボスを始末しないと、龍杭が穿てないからがんばっているってわけだ。

 ちなみにもう五回目のアタックである、現在六階層、ハミューも限界が近い、俺もヨモギも疲労が濃い。

 最初のアタックでは三階層で俺とヨモギが共に深手を負い、失敗。

 二回目は四階層でハミューの魔力切れ三回目以降は、疲れた、とか俺の負傷とかで失敗続きだ。

 今回のアタックは六階層まで進めたが、慣れてきたとかチートに目覚めたとかではなくただ『魔獣の増えるペースより狩るペースが早い』からに過ぎない。


 減った分だけ増えるわけではなく、自然増以上に減らせば相対的に少なくなる、それだけのことだ。

 魔獣は卵から生まれてくるらしく、全て叩き割って進んでいえる。引き上げる時は攻略したエリアに魔獣が出てこないよう通路を土砂などで塞ぎ引き返す。冒険者というより土方に近いかもしれん。

 納期がない分マシかな。


 さて、そうこうしているうちにハミューの魔力が残り僅か、顔色がヤバイ。

 うん、五回目のアタックも失敗した。

 



 迷宮を出るとちょうど夜が明けたばかりだ。

 俺はハミューを荷台あるベッドに横たえさせ、赤帝はゲジ男の手綱を握り麓の集落に移動する、俺はハミュー隣で横になる。

 今回の攻略で俺は負傷していないがハミューの隣に寝そべる、今はゲジ男に乗って移動中だ、だから仕方がないだろう。

 何が仕方がないかって? いや、ゲジ男が移動する振動でお胸様がプルプルしてんだもん、そりゃあ隣に居座るだろう。


「大丈夫か?」


 おっぱいをガン見しつつもハミューの体調は心配だ、辛いって言わないタイプはこっちが気を配っていないと倒れるまでがんばるからな。

「フフ――私は大丈夫よ」


 と、いいながら俺の手を掴んで胸の上に誘導してくれた、なんというか……ありがとう?

 だが体調の悪い人間においたをするほど俺は子供ではない。

 せっかくのご好意なので、そのまま服の中に手を滑りこませはしたものの話を続ける。


「夜にはまたも迷宮に入るから、今は体調の管理を第一に考えろよ」


 紳士な俺は決して先っぽに触れることなく下乳のみ擦りつつ気遣う、それだけで充分幸せな気持ちになれるのさ。

 

「あんた! ハミューになにしてんのよ!」


 一瞬ビクッてなった、何一つ悪いことはしていないが思わずハミューの服から手を引き抜き、声の主を見上げる。

 カリスティルだ、俺の幸せを奪いにやってきたらしい。


「何もしてないだろ……」

「嘘よ! 見てたもの、あんた最低!」

「だから、これは俺のいた世界の病だからしょうがないだろ」

「信じらんないわ! あんたは嘘ばかりつくから!」

「何でだよ、俺、いや、日本人にとっては身近な病なんだよ」

「病って何よ!」

「日本人はな、定期的におっぱいをさわっていないと溶けてなくなっちゃうんだよ!」

「はぁ?」

「お前、俺に死ねって言ってんのか? 最低だな!」

「そんなこと、知らないわよ!」

「知らないなら引っ込んでろ! それとも何か? お前が変わりになるってのかよ!」

「それは……」

「ならあっち行ってろよ、俺の生きる意味を否定してんじゃねぇよ!」


 どうやら勝ったようだ。

 ハミューはそんな俺の頭を撫でてくれた、なぜかはわからない。


「わ、わかった……わよ」


 赤い頭の女は何を思ったのか、俺の目の前にその巨大な胸を突き出してきた。

 目の前で見るそのお胸様の圧迫感はただ事ではない、迷宮から出て装備を外したばかりなせいか、薄手のインナーが汗を吸って張り付いている。視覚効果がやばい、吸い込まれそう。


 一瞬手を伸ばしかけたが、寸でのところで踏みとどまり後ろのハミューを伺う。

 伺うがいつもの優しげな微笑を浮かべている、なんでだろう、少しはムカついたりしにのだろうか?

 俺が坊やだからか?


「もういいよ! バーカ、バーカ」


 俺は素早く立ち上がり、そのまま隔離小屋へ走り去った、泣きそうだ。


「入っていいですよ」


 隣の荷台にいたヨモギが声をかけてきた。

 一部始終を見ていたのだろうか? だが他にいく当てのない俺に選択肢はない。


「あぁ、よろしく」


 返答を無意識に呟きつつ俺はヨモギが手招きしている荷台へ吸い込まれていった。

 神様だってそうするはずだ。そうだろ。

 

 まぁ前衛でがんばっていたヨモギは返り血で真っ赤に染まっており、変なことがおきるはずもない。

 それに、この地域に辿り着いてからヨモギの様子もおかしいしな。




 ダスラディアの迷宮から引き上げた俺たちは麓にある集落まで引き上げた。

 拠点としている集落の名は旧ママニア、町や村でもないのだろう、エルフの里のようなものだ、森の狩人(エルフ)とは名ばかりで場所は山岳地帯で木々は疎らに生えている程度で切り立った岩肌が特徴的な、まぁ不毛地帯だ。


 獣人との生存権争いに敗れたエルフは南部に広がるエレシエル連合、その南部に位置するリリーガ王国にも破れ、この不毛地帯で細々と生き延びていた。南部の国々は突然現れた新興国に吸収されているって噂も聞くが真偽はわからない。


 このママニアと呼ばれていた集落は周囲を高い塀で被われた野球場程度の集落、迷宮から溢れる魔獣から身を寄せ合い細々と生活していたのだろう、俺たちが来てから様子が異なっているがな。


 まぁ有体に言えば、最初、この集落に辿りついた俺たちはエルフから拒絶された。

 攻撃を受けたわけではなく、呼びかける俺たちを無視して門を硬く閉されたのだ。

 だが周囲に他の集落はない、水場すらない、だが竜脈の根源に程近い拠点はここしかなかったのだ。


 赤帝から『竜脈そのものが迷宮に飲まれている、要根を断たなければ龍杭の儀式は行えぬ』とかいわれてな……

 だからまぁ、なんだ……

 非常に言いにくいのだが……


 占領した。

 うん、どうしても拠点が欲しかったんだ、すまない。


 もちろん、略奪、暴行の類は行っていない。

 話をする為に塀を登って、俺、ヨモギ、パウリカの三人で突入した。

 だが話を切り出す前に降伏されてしまったのだ、生存競争に敗れ続けてきたエルフは負け犬根性の塊だった。


 進入した俺たちを確認した瞬間、這い蹲り命乞いを始めたエルフを見るヨモギの表情は、見るに耐えないほど悲しそうだった。

 変な空気になるのが嫌だったので思わずヨモギの尻を撫で回した、俺は子供の胸を触る犯罪者ではないからな。


「私は大丈夫ですよ、ユタカ」


 急ごしらえの微笑を俺に向けながら気丈に答えたが、俺の頭が大丈夫か心配してほしかった。


 てなわけで旧ママニアだ、現ゲジ男隊駐屯地ってわけ。


 最初にホウジョウハーレム王国を建国宣言してみたが、赤頭の手により世界最速で滅亡した。

 それゆえまだ名はない。

 この集落は俺を蹴落としたカリスティルが実効支配していて、今や一個の集団としての体裁が整いつつある。

 元から生活していたエルフは五十名そこそこ、それに先生ハーレムなどと合わせると八十人近い集団になっているのだが、さすが王族というべきなのだろうか、班分けされたエルフと獣人が協力し合いながら発展し始めている。


 まぁ実質の指導者に収まっている先生の力が大きいんだろうけどね、エルフってのは見た目の綺麗な種族だ、子供の可愛さは先生の理性が危険水域に達するほど、手取り足取りの極め細やかな指導を行っている。

 本物のエルフは絵画のように目鼻立ちの通った顔、目は透き通った緑で鋭いが優しさがある、体躯は華奢だがしなやかで手足が長い。

 比べるとハーフエルフのヨモギがパチもんだとわかる。

 頼りないボンヤリした顔だからなぁ。




「赤い太陽が登るまで解散、ヨモギちゃん、ハミューを宿舎まで頼むわ、みんな夜までに迷宮入りの準備をお願いね!」


 カリスティルがゲジ男から飛び降りつつ指示を出し、そのまま中央の建物に足早に入っていった。

 すっかり村長としての地位を固めているご様子だ、これからエルフの代表や移住者の代表である先生と会合し、運営方針でも話し合うのだろう……

 勝手にすればいいさ。

 

「俺が運ぶ」


 ハミューに肩を貸していたヨモギに告げ、俺がハミューを抱え上げる。

 ヨモギは俺にハミューを預けると後ろからついて来た。

 赤帝とパウリカもついてくる……イチャイチャしながらな! なぜそうなった? まぁいい。




 白い太陽の時間は魔獣が集落の周囲を跋扈している、最初の頃は一生懸命狩りをして食料を蓄えていたが、魔獣の肉はエルフに不評で消費が追いつかない事態に陥り、俺たちの居住する宿舎の周りには大量の干し肉がぶら下っている。

 基本的に俺たちだけで食う、エルフは木の実や僅かの野菜で空腹を満たしているが、そんなものばかり食ってるから弱いんだよ、と思う。


 俺たちは一室に篭り、就寝した、赤い太陽の時間までは寝るのが仕事だ、体調を整え迷宮に挑む。

 この部屋にベッドは三つ、一つはハミューが使い、俺とヨモギで一つ、赤帝とパウリカで一つだ。

 自然とそんな配置になった、ハミューはそうでもないがその他のメンバーはボッチ体質だ、他の住人とフレンドリーに付き合うのは抵抗がある。

 結果的に一つの部屋に固まることになってしまった。


 先生も別の部屋で複数名と一塊になっているが、別の事情によるものである。


 初日にハミューと同じベッドに潜りこもうと画策したが、迷宮で魔力を使うハミューは体調がいつも悪い、それにヨモギが一人でいると泣くようになってしまったので、優しい俺が添い寝をする今の配置で固定された。


 下心はない、たまに特定部位を摩り『早く大きくな~れ」の魔法をかけているが日本では日常的なことなので問題はない。


「大丈夫か?」


 小声でヨモギに話しかける。

 肩が小刻みに震えているのが腕の中から伝わって、なんとも言えない気分だ。

 ヨモギのやりきれない気持ちはわかる、この里のエルフはみんな怯えてビクビクし、昔のヨモギと同じだ。


 ヨモギは強くなった、通り越して殺人鬼に近いから良くなったとは言えない部分もあるが、それでも強くあり続ける気概は伝わる。だがエルフ達の種族レベルの弱さを見せつけられて思うところがあるのだろう。


「平気です、でも、少しだけ抱きしめてもらってもいいですか……」


 か細い声が布団の中から聞こえてくる。


「しょうがねぇな……」


 俺はヨモギの華奢な体に右手を回しギュっと抱き寄せる、肌が密着した部分がとても暖かい。

 肌はしっとりとした質感で手と腕に吸い付くようだ、思わず首から尻にかけて手を滑らせ撫でてみると……


 あれ?


 こいつ――いつのまに服を脱いだ?


 ……そうだった。


 こいつは狡猾なやつだった……

 


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