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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
4章 大湿林編
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13話 救われない者たち

 

 検問を張っていたレパス軍は総勢で十名、細い脇道だから大した数ではなかった。

 本隊が砦を落とした後、逃れてきたユーリカの住民を根絶やしにする為に配置していたんだろうな。

 もう直接確認する術はないが……


 俺たちは検問に止められたところで待機、レパス兵が柵の前に勢ぞろいしたところを、話も聞かずハミューの魔術で先制攻撃。

 それの一撃から逃れたやつを俺とヨモギがレパス兵の体勢が整う前に片づけた、ハミュー先生の初動から戦闘終了まで五秒かからなかった。

 完勝だ。


 その検問跡地で今後の話し合いがもたれた。




「自分と致しましては、こんなところで子供たちを置いて去るのは承服できませんね」


 先生の自己主張が凄い、後方に停車している五台のギャタピラポット、その荷台には五十名の年端もゆかぬ子供達が乗っている、その半数は当然犬耳の女の子だ、先生がハッスルするのも無理はない。

 うまくいけば猫耳、犬耳幼女三〇人規模のハーレムが完成するのだ、必死にもなるだろう。


 だが子供たちの乗っているキャラピラポッドは、全て獣族のおばちゃんが手綱を握っている、保護者であろうおばちゃん連中がそんな乙女のピンチを許すとは思えない。先生の思惑通りにはいかないだろうな。

 

「坊やはどう思っているの?」


 ハミューは俺に発言を促す。

 正直な気持ちを発言すると尊敬すべき先生と意見が衝突してしまう、だから――。


「赤頭に蹴り落とされた傷が痛んで考えが纏まらない、パス」


 嫌味を言って逃げた。


「私はユタカに従います」


 意思表示を最初から放棄しているヨモギは俺に丸投げしてきた、いつもどおりの展開だ。


「カリスティルはどうかしら?――」


 進行役になってしまったハミューは苦い顔を浮かべ、赤髪の足手まといに発言を求める。

 ちなみにハミューは意思表示をしていない。

 

「あたしは――」


 口篭ったまま続かない、馬鹿の分際で名案が浮かぶはずないのに必死で考えているようだ、思慮深くなってきて良い傾向だが考えたって無駄だと俺は知っている、馬鹿は病ではなく個性だ、一朝一夕で直るものではない。


「私は――あなたの意見に従うわ――」


 ハミューはカリスティルを見つめたまま宣言する、はっとしてハミューを見返した能無し赤頭は、狼狽した目をして首を左右に振る。本当にこの魔術師は良い性格をしている。


「どうしていいか、わからないわ……」


 カリスティルは両手で顔を覆い隠ししゃがみ込んでしまった、そりゃそうだ。

 今までの行き当たりばったりで考え無しの行動は悉く裏目に出ている、決断するのが怖いんだろう。

 ざまぁみろ。


「あんたはどう思ってんのよ!」


 俺を睨みながらそう問いかける赤頭の姿がある、俺の意見を全て黙殺してきた分際で、今さら尋ねられてもなぁ。

 お前が俺から助けた獣人女、あれを裸に引ん剥いて手足の一~二本切り落として脅せば、後ろの餓鬼どもって荷物無しで、この地域を抜け出せたかも知れないんだぜ。


 その俺を蹴り飛ばして否定したんだろ、今さら頼られても困るってもんだ。

 最善手を言うのは簡単だ『ガキを積んだ後ろのキャタピラポッドは無視してこの地域を離脱すればいい』、話し合う余地は最初から無い。

 だがどうせ受け入れられないんだろ?

 

「どうせ聞き入れられないからパスだ」

「あたしには、どうしていいかわからないの……」

「だろうな、考え無しだもんな」


 吐き捨てる、馬鹿を馬鹿にするのは気分が良い。


「あんたはの考えを聞かせてよ……」

「俺の案に従えるなら答えるけどよ、どうせ却下するに決まっている」

「そんなのわかんないじゃない!」


 わかるよ、お前は単純で直情的な考え無しなんだからよ。


「なら答えてやるよ、こんなところで考えているだけ無駄、さっさとこの地域を離脱する。後方の足手まといにしかならんガキは無視だ、それに反発するなら邪魔だから消えてもらう」

「消えてもらうって……」

「そのままの意味だよ、足手まといはいらない。障害になるなら死んでもらう――お前はどうせ反対すんだろ」

「……そんなの……ダメよ」


 ほらな、どうせ反対すんだから聞くなよ面倒くせぇな。

 

「なら言うことはねぇよ」

「どうすればいいのよ……」

「知らねぇよ、お前はどうしたいんだよ」

「あたしは、あの子達に、幸せになってもらいたいわ……」


 ま~たでた、綺麗事だけで何も考えてないんだぜ。


「例えば?」

「お父さん、お母さんの元で育って欲しいし、故郷を捨てるなんてしてほしくない」

「なるほど……で、どうやって?」

「……」


 能無し赤頭は黙ってしまった。

 その姿をハミューは優しい顔で見つめている、さすが長く付き合っている親友だ、本当に良い性格をしている。


「黙っていちゃわからん、いつまでもここに留まっていたら新手が沸いてくるぞ」

「わかってる……」

「わかってるならさっさと逃げようぜ、ついて来る連中なんか切り捨てればいい」

「……そんなこと、できない」

「それでもいいんだけどよ、具体的にどうすんだよ」

「……」

「なんか他に言う事あんじゃねぇの?」


 夢から覚めて現実を見ろよ、短絡的で浅慮で夢見がち、そんなやつの望みなんか叶うわきゃねぇだろ。


「うっ……う……」


 いい歳した赤頭はプルプル震えて泣き出してしまった、現実が見えたかよ、単細胞め。

 隣に座っているハミューは上下する肩を抱きかかえて頭を撫でてやり始めた。


「で? どうすんだよ」

「……それでも助けてあげたい……」

「お前にできるの? どうやって?」


 退路を塞いで追い込む、性格が曲がっているのは他人に言われるまでもなく自覚している。


「……助けてあげて……お願い…………」


 へっ、できない奴にはできないんだよ。

 まぁ、自分で出来ないくせに勝手に突っ走られて、メチャクチャになってから尻拭いするより。


「わかったよ――」


 無理難題でも最初から頼まれた方がマシだな……



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