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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
4章 大湿林編
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12話 ならず者

 

「ユタカ、わからないことがあるんですが、聞いてもいいですか?」

「なんだ? 下克上の仕方はカリスティルに聞いたほうがいいぞ」


 俺たちは城兵の手引きで何の障害もなく砦から脱出すると、婆様のお願いどおり子供を積んだキャラピラポッド五台と合流し、脇道に入り、ゲジ男の奏でるガラガラという爆音を浴びながら前進している。


「そうではなくて、正体不明の黒髪の女が強かったとしても、ルーキフェア帝国が世界最強の国であることに変わりないはずなのに、なんで他の国まで戦争を始めたりするんですか?」

「簡単なことだよ、支配体制が崩れたんだ」

「よくわかりません」

「だろうなぁ」


 世界は暴力で管理できない、支配者は圧倒的な暴力を有しているが暴力で管理しているわけではないのだ。

 一言で説明できないしヨモギの頭では理解できないだろう。

 だが親父の息子である俺にはわかる。

 ヨモギがくだらないことをほざきやがるから思い出してしまう。


『俺がいた世界でも最強の国が常に世界を支配していた、だが軍事力で支配しているわけではないんだぜ、そう見えるように見せかけているだけで、根っ子は全く違う』

『俺のいた世界を支配していたのは金だ、金で世界を縛っている』

『世界で物を買う場合、全て基軸通貨で決済するようにできている』

『最強国の機嫌を損ねたら全ての資源を買えなくなるってことだ、国家間の流通を通貨という媒体で管理している』

『その支配を維持する為の軍、まぁ暴力装置と言い換えた方がいいな』

『この世界で言えばルーキフェア通貨以外の通貨で国家間の資源売買を行うと、もれなく暴力装置が稼動するようになっている』

『俺がいた世界を支配していたのは暴力ではなく金なんだ』

『暴力で世界を蹂躙することはできても支配する事はできない』


 それでいて、この最下位相世界を維持してきたのは金ではなく認可だ。

 全ての国はルーキフェア帝国の認可によって補償されていた。

 隣国を理不尽な理由で責め滅ぼしても、ルーキフェア帝国の認可が下りれば正当化される。

 血筋や権力があろうともルーキフェアが認可しなければ王家の正当性すら補償されない。

 国境線や交易すらルーキフェア帝国の認可が必要だった。

 そのシステムを維持する為の暴力装置。

 だがルーキフェア帝国の力に疑問が示された、実際の実力がどうとかは問題じゃない。

 だがそれをヨモギに説明する言葉はない、時間がもったいない。


『今度大戦争が始まる時は基軸通貨の価値に疑問が生じた時、挑戦する国が現れた時だ、強弱は関係ない、うまく乗れば儲かるぞ』


 そんな言葉で世界を理解したものだ。

 

「俺たちには関係のない事だ、後ろのガキどもを適当な所まで運んでこの地域を逃げ出せばいいだけ」

「そうですね、ユタカ」


 ゲジ男の後ろには、いつのまにか合流していた先生ハーレム号、その後ろには連なるように五匹のキャラピラポッドが追走している。

 大湿林を南に抜けるコースからは遠回りになるが敵中突破よりはマシだろう。

 土ぼこりを上げてゲジ男は爆走を続ける。





「どうやらこの大湿林を抜ける目処がついたらしいのう、何を血迷ったかユーリカの砦に入った時には(わらわ)も胆を冷やしたわ」

(わらわ)? 僕じゃないのかよ――」

「……」


 ヨモギと雑談を終えて、ヨモギは皆のいる荷台へ、俺は隔離小屋に入り、さぁ寝ようかと思った矢先に、今まで何処に隠れていたのか知らないがパウリカが沸いてきたのでとりあえず嫌味をプレゼントしてやった。

 こいつのせいで俺が傷つくところだった、当然の対応だ。


「そういえば俺に何か言いたそうにしていたな」

「……」

「今なら脱がなくても聞いてやるぞ」

「……くぅ」


 せっかく聞いてやるって言っているのに機嫌が良くないご様子だ、唇を噛みしめ俺に恨みがましい目を向けている。


「とりあえず優しく聞いてあげる気分だ、一人で暇だからな」

「僕はもう脱がないからな!」

「しつこいやつだな、勝手に脱いだんだろ」

「なっ!?」


 話が進まない、自意識過剰な女はこれだから困る。

 

「いいから聞いてやるよ、そこにある荷物を賭けてもいい」


 おれは部屋に無造作に積み上げられている積荷を指差した、ラディアルの商隊の荷物だ、何処にも降ろす機会がないまま残されているのだが、もうそのまま迷惑料と思って頂戴していこうと考えている。ヨモギは荷物の存在を知っているはずだが暗黙の了解ってやつだ。


「これは貴様の物ではないだろ……」


 なぜ知っている。


「言いたいことがあるなら早く話せよ。忙しいんだよ」


 刀を研いだり鎖帷子を掃除したり床を磨いたり壁の埃を払ったりするんだよ、一人で。

 ――なんか悲しくなってきた。


「そうじゃな……」


 そう呟くと遠い目をして話し始めた。


(わらわ)は――」

「僕だろ」

「くっ……僕は! この僕は、神獣の腕輪、獣人族の守り神、聖獣パウリカだ!」

「へー」

「……驚かないの?」

「脱いだり消えたりして普通じゃないとは思っていたからな、最初から怪しさ満点だ」

「脱がせたのは君だよ!」

「むしろ精霊さまがノーブラノーパンな事に驚いたくらいだ」

「ううっ……」

「だが、もう記憶にない、忘れた、忘れてやったんだよ、優しいだろ」


 相手の辛い過去は忘れてやるのが男の甲斐性だ。

 いったん掘り返すけど。


「――もうそれでいいよ! その積荷の財宝の中にある腕輪の精霊だよ」

「聞かなかったことにする」

「……聞け」

「断る、知らなかったことにして、この地域を離脱してからネコババする」

「君は最低だ」

「証拠はない、お前の話が本当なら――」

「本当だよ!」


 つっこみが早すぎて話が進み辛い、面倒くさい奴だな。


「まぁ聞け、本当ならその積荷の中には、他にも金目のものが沢山詰まっているはずだ、気づいちゃったら返さないと罪悪感が残るだろ」

「最悪だよ」

「話を進めろよ、お前ひょっとして俺にかまって欲しいだけなのか?」

「違うよ!」

「その偉い腕輪様が俺になんの話がしたいんだ?」

「……そうだね、部外者の君達には事の発端から説明しなければならないね」


 パウリカはそう雑談を区切って本題らしきものを話し始めた。


 総括するとこうなる。 

 腕輪の管理は各獣人族が当番制で管理していた、理由は、腕輪を長期間一部族で監視することで権力の集中が起こり争いの火種になるから。本来今の時期はブエナビ村の猫族が当番だったのだが大会戦の影響で、ユーリカ村犬族の村長を中心としたグループが独断で腕輪の争奪戦を起した『最強戦力を誇る犬族が腕輪の管理を行い外敵を排除する』ってのがお題目だ。


 その争奪戦でブエナビ村は大損害を受けた挙句、ユーリカ村に腕輪を奪われた。

 しかしその動きはレパス王国に筒抜けで、その機に乗じて遠征軍をブエナビに派遣、疲弊しきった上に腕輪も奪われていたブエナビ村はなすべなく陥落。さらにレパス軍は隠密部隊を使ってユーリカ村から腕輪を奪取。奪った腕輪を輸送中にユーリカの追撃部隊と交戦し、そこに俺たちが介入してきた。まぁそういう流れらしい。


「なるほどね、てことは仲間を救うために獣人へ腕輪を返して欲しいってわけか」

「――そうじゃないよ」

「ん?」

「僕をこの大湿林の外へ連れて行ってほしいんだ」

「お前は獣人族の守り神じゃないのか?」

「今回だけじゃない、いつだって僕の力を巡って争いが起きるんだ、もうウンザリなんだよ」

「とは言っても今回の相手は人間だぞ」

「今回もそうだよ、ユーリカの村長が僕の力を欲しがったからいけないんだ、おかげでブエナビ村の人々は大変な思いをしているよ」

「まぁ、そうだな」

「だから僕は――」


 突然ゲジ男にブレーキがかかって減速し始めた。

 とうやらこいつの話を聞いていると不測の事態が発生するらしいな。


「ユタカ、赤帝さんが複数の気配を捉えました、前方で検問らしいです」


 停車すると同時にヨモギが俺を呼びに来た。

 パウリカはヨモギの気配を察知したのか、消え失せていたのでヨモギに見つかっていない。

 

「今行く」

 

(まぁすんなり逃げれるとは思ってなかったけどな)

 俺は剣を腰に挿して手綱を握る赤帝まで駆けけながら思う。


 また話の途中だったな……

 


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