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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
4章 大湿林編
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6話 いつもの尻拭いへ

 

 荷物が満載で狭い隔離部屋になんとか一人分のスペースを確保して身支度を済ませた、剣は愛用の片刃刀と短刀の二本挿し。

 俺は外に出ようと身を翻し――だが出られない状態になっていた……異質な獣人が出口への通リ道を封じるように立っているからだ。


 年齢は俺と同じ一五~一六歳くらいだろうか、成人しているにしては幼く見える。

 白と黒が入り混じった縞々の髪が腰まで伸びている、耳も同じような模様を確認してピンときた、こいつは虎の獣人だ。

 瞳は銀に光り、肌は陶器のようなツヤがありサイボーグと言われれば信じてしまうかもしれない。

 銀色の服は透けるような光沢で素材に心当たりがない、不自然に輝いている。


 性別は女だ、余裕ぶった笑みを展示品みたいな顔に張り付かせて俺を見据えていた。


 ……こいつは何時からここにいたんだろう? 

 俺の着替えをリアルタイムで眺めていたのか? 俺たちと行動を共にする予定の獣人は皆が犬科の獣人だ、こんな奴はいなかった。

 不可解な侵入者、用心の為――無意識に腰に提げている剣の柄へ手が伸びる。

 

 ――そもそも獣人なのだろうか? 圧迫感を自覚するほど神々しい。

 他の獣人と比べてちっとも毛深くないし、てか産毛すらなさそうな肌、なんかツヤツヤしているし東京モーターショーの展示車両みたいな光り具合だ……とりあえず何でもいいから声をかける。


「夕べは凄かったぜハニー」


 動転している俺は意味のない軽口を叩いてみた。

 虎女と仮称しよう、その虎女は俺の軽妙なトークをスルーしたまま口を開く。


「あたしぃ~パウリカってゆ~んだけど~、ねぇ~あたしも、この森を抜け出したいのぉ~一緒に連れてってくんなぁ~い?」


 山積みされた荷物にしな垂れかかりながら虎女は甘ったるい口調で話し掛けてきた。

 

 ……冷静になれた上にガッカリした、剣の柄から手が滑り落ちる、この頭の弱そうな女から威厳のようなものを感じていた自分が恥ずかしい。

 これから死地に赴くのに気が抜けるようなイベントはいらない、迷惑だ。


「いきなり誰だよ、大湿林から出たいなら自分で勝手に抜け出しゃいいだろ」


 そう言い放ち、俺は虎女を払うように押しのけズカズカと部屋の外に向かう。

 これから憂鬱な襲撃タイムなのに余計なことは抱えたくない。


「俺に物を頼むなら――」


 振り返りざま『俺に物を頼むならもっとエロイ格好でお願いするんだな』と無駄口を叩こうとしたら虎女の姿は既にどこにもなかった。


 ひょっとしたら夢か幻だったのかもしれない。

(夢ならもっとバインバイン&エロエロな感じでよろしく)

 俺は大脳皮質にオーダーし隔離小屋から外に出る。

 

「ユタカ、準備はできていますよ」


 ヨモギが出口で待っていたらしく声をかけてきた。ハミューは赤帝と打ち合わせをしているようだ。

 地図らしくき物を手書きで作成し、指差しながら話し合っている。


 何処からともなく沸いてきた先生はヨモギの手を握ってハミューと赤帝が話し合っている輪の中に歩いていく。

 悪影響の源である俺からヨモギを引き離しておきたいらしいが、先生は俺に話しかけてくれないので意図はわからないままだ。


 ――さぁいつものように足手まといを回収しにいくかね。




 準備を終えた俺たちは間髪入れずにユーリカに向けて移動した。

 夜が明ければ追っ手がかかるだろう、ゲジ男隊の撤退にレパス軍の追撃がかからなかったのは闇夜だからに他ならない。


 ならばカリスティルを救出するチャンスは今晩しかないだろう。

 正規軍相手に獣人は期待できないだろうが人間よりも夜目が効く、森林での戦いになれば強いって本人たちは言っていたしな。


 


 それから二時間ほど身を隠しながら移動しユーリカ村を半包囲する形で所定の配置についた。

 獣人連中には当然秘密だが逃走ルートは二つ考えている。

 一つは元来た道を引き返し脇道から大湿林を抜けるルート。

 もう一つはユーリカ村を突破し最短ルートを南進するルートだ。


 潜んでいる木陰から首を突き出してレパス軍の様子を伺う。

 赤帝が探知した結果、交代で警備にあたっている敵は十五名前後、残りは本営に定めてある建物や簡易テントなどに散っている。


「赤毛女はあそこだ」


 赤帝が指差したのは一際目立つ建物、塀で囲われた大きな敷地、三階建で石造りの要塞じみた建築物、屋上にはレパス王国国旗らしきものが風に煽られている。

 敵地ど真ん中の本営です、本当にありがとうございました。


「これは……きついな」

「中には十五名ほどの兵士が確認できる」


 淡々と赤帝が俺の心を砕くような情報を伝えてくる。

 

「気配の読み違えじゃないのか?」

「ありえん、我も仲……行動を共にしている者の気配は覚えておる」


 ――おい、ほんのり顔を赤らめ照れてる場合じゃねぇぞ……外に十五人、中にも十五人……合計三〇人に飛び込むのか……


 奇襲の後は多数相手に敵中突破……やめようかな……よく考えたらカリスティルはいつも足を引っ張るし、助ける必要ないんじゃねぇか?

 どう考えても割りに合わない。

 元々カリスティルが俺よりも出会ったばかりのラディアルを信用したせいでこのざまだ。

 あの女は雰囲気や情緒に弱すぎる、いったい何度俺に助けられて何回敵に囚われれば気が済むんだ、あいつはよぉ!

 ……思い返してみたら腹が立ってきた。


「厳しいですね、どうします?」


 ヨモギは優しい微笑み――ではないな、ニヤニヤした笑みをこらえながら赤帝と共にしゃがみ込んでいる俺を眺めて問う。


「坊や――どうするの?」


 ハミューは相変わらずの涼しい顔で聞いてくる……


 クソッ……


「……獣人の初手が始まったら計画どおり切り込む、先手は俺――ハミューは俺の後ろで魔術を使った分断――ヨモギは周囲の牽制だ、ハミューを移動砲台として使用する為に高速で動け、敵を討つよりも寄せ付けない心積もりで頼む……ん?」


 ヨモギとハミューが笑いを堪えているようなムズムズした顔で俺を見下ろしている。


「その顔はなんだよ……」

「いえ、別に」

「フフ――」


 なんなんだよ、『ハイハイわかってますよ』みたいな空気をやめろ! ちくしょう。

 ――あの赤頭の大馬鹿野郎め、後で覚えてろよ。




 そんなミーティングをしていると村を覆うように広がる木々の合間から一斉に火矢が放たれた。

 計画通りの先制攻撃、炎は広がり周りの民家を飲み込んでいく――。

 特に食糧倉庫は徹底的に燃やす予定だ、食い物が燃えているのに人員を割かないわけがない。


 さて……役立たずで足を引っ張り、おっぱいも碌に触らせてくれない無価値な赤髪女を回収しに向かうか。


「いくぞ!」


 俺の激に二人は無言で頷き、赤帝は手筈どおりゲジ男を待機させている後方へ走り始めた。


 俺たち三人は山林を走り掻き分けながら一気にユーリカ村内に進出し、同じく進入した獣人に対応しているレパス兵の群れに駆け入る――


「そらよぉ!」


 ――火矢の対応に追われていたレパス兵の首を横殴りに『ボン!』斬り飛ばしさらに突っ走る。

 後方から俺とレバス兵の間を『ザーッ』と白い蛇が走り抜け辺りを凍りつかせた「クソっ魔術師だ! 注意しろ」「うぁああ!足がぁあ!」などと背後から怒声や悲鳴が乱舞。


 振り返って確認できないがハミューが魔術を撃てるってことはヨモギがしっかりと役割を果たしているからだろう。


 さぁ虎口に飛び込むぞ……




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