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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
3章 エスターク王国編
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閑話 一之瀬あゆむ 明鏡止水

 

 空がとっても綺麗――。


 いつものように空の散歩をしながら私の国を見て回ったり、私の町を見て回ったり、私の下僕たちを躾けたりして平均的日常を過ごしていたのだけど突然、空一面に星空が出現したの。

 その時、私はミルールとシャールにオイルマッサージをさせていたのだけど――別に疲れてはいないのだけど妖精を侍らしておくのが神様の仕事なのよ、当然着衣は不可、だって可愛いんだからしかたないでしょ――それはどうでもいいわ。


 日課として下僕にお仕事を与えていたら空に星が出現して、魔方陣とは違い五角形(ペンタゴン)六芒星(ヘキサグラム)などの簡単な図形やもっと複雑な幾何学模様が星空のキャンバスに浮かんでは消えていく。


 何のお祭りなのかしら?


「あれは何かしら?」

 私はマッサージを続けるミルール優しく穏やかに尋ねた、ミルールは顔を上げて、可愛らしい顔を上げて


「あれは聖人様の術式で二〇年に一度ある大会戦のみ使用されるんです」


 聖人様? まったく知らないわ。


「その聖人がこの星空を作っているのかしら?」


「いえ、ルーキフェア帝国におられる天帝様のお力です」

 

 穏やかな口調で返答するミルール、私が訪ねたことを答えるのは当たり前のことなんだけどとても可愛いからお尻を撫でてあげたわ。


 そんなことよりも、もっと近くで見たいわ。


「私は少し外出するわ、準備なさい」

「アルテミス様、それは……」


『パーン』ミルールが口答えしそうな雰囲気を感じたのでとりあえず平手で叩いておいたわ、加減をしておいたから死んでいない、可愛い頬が少し腫れただけ、感謝なさい。


「は、はいただいまお待ちください――」


 シャールは立ち上がるとパタパタと可愛く服の準備を始めたわ、揺れるお尻がウットリするほどかわいい……


「アルテミス様、お引き留めはできませんが、くれぐれもルーキフェアの皆さんとは……」


 ミルールは私の身体に塗られたオイルを拭き取りながら何やら忠言らしき小言を述べている、けど仕事はしているから咎めないわ。心配しなくても私は無闇に諍いをおこしたことは一度もない。


「わかっているわ、ミルール」


 そう言ってミルールの青い髪を優しく撫でてあげた、話は聞いていないけど私がルーキフェア帝国の兵隊と接触するのを危惧しているみたい、だから心の片隅にでも仕舞っておくわ。


「どちらがよろしいでしょうか?」


 数ある服の中で私がチョイスしたのはホルターネックのイブニングドレス、サテンの白よ。

 神様なんだから白しか着れないから辛いわ。

 ピンクのフリヒリした服を着ていて下僕たちも見られでもしたら威厳が消えうせてしまうから。




 しばらく星が煌いている中心付近に飛んでいたら見たこともないほど大きな生き物と白銀の鎧を纏った集団が戦っているのが確認できた。

 白い鎧が掌を空に翳して何事か唱えると星空に図形が浮かび上がり青白い光線が大きな生き物を貫いている。

 小さい固体、まぁ五メートル以上はありそうだけど小型のものは全身顔以外毛むくじゃらで棍棒のようなものを手に持って振り回している、いやもっていない、手と同化しているわ、あれが修羅ね。


 大きいものは高層ビルのようなサイズ、一〇〇メートル以上あるわ。

 下腹部と膝下のみが毛に覆われ頭には角が二本、小さいのは青に対し大きい固体の身体は赤いわ、持っている棍棒も鈍い光を放ち金属みたいよ。

 まぁ私には関係ないけど、星空を間近で鑑賞しに来ただけなんだから。




 しばらく空に浮かんで漂いながら星を眺めていたら鈍い光を放つ棍棒を私に向かって振り回してくる修羅が現れた、驚きはしなかったけど私に対して危害を加える存在は看過できない。


「うっとおしいわ!」


 再び、凝りもせず、無礼にも私に向かって振られた棍棒を平手で弾き飛ばすと衝撃でもんどりうって倒れる修羅の首を払い落とした。

 直径二〇メートルくらいの首はゴロゴロ転がっていって数体の小さい修羅の身体を粉砕し弾き飛ばしていった。


「これで静かになるわね」

 

 だけどしばらくするとまた巨大な修羅が私にチョッカイを出してくるものだから結局大きいサイズを殆ど殺すことになってしまった。

 せっかく気分がいいのだから邪魔しないで欲しいわね、私の知らないところで勝手に遊んでいればいいのよ。




 星の鑑賞もそろそろ飽きて帰ろうと思っていた矢先、ルーキフェアの聖人なのかしら、金髪金眼の男が私の寝ている天空まで飛んできた。

 私以外にも飛べる人間がいるのね、そりゃそうか、こんなの誰にでもできるはずだもの。


「黒い髪の少女、何者か答えよ」


 キラキラした繊維の上下を身に纏った美術品の様に整った男――作り物じみて気持ち悪いわ。


「嫌よ、人の名を尋ねるならまず先に名乗るのが礼儀でしょ、それに少女ではないわ、美少女よ」


 その男に当然の要求をした。

 不愉快な態度は許さないわ。


「私はリーリン・ルーキフェアだ。答えよ美少女、その黒髪は生まれついた時より備わったものか」


 その視線と口調は私を見下しているよう、だけど美少女と言われて怒るに怒れないわ。

 もう、面倒くさいわね。


「その力は神から授かったものか」


 何を必死になっているのかしら、ミルールが変なこといわなきゃ張り倒しているのに。


「誰だってもてるわよ、知らないけど」


 くだらない雑談をしている間に二百メートルサイズの巨大な修羅がこちらに向かい棍棒を振り回してきた。

 棍棒はビカビカに黒光りして金棒と呼んだほうが適切なのかしら。


『ビュオーーッ』と風きり音と暴風を巻上げなら向かってくる棍棒をリーリンは片手で払うように弾くと、右手を空に翳した。


『天の意志を右に宿し邪悪を滅す捌きの剣と成せ』


 空に巨大な幾何学模様――と呼んでいいのかしら、万華鏡みたいな複雑な図形が星星を結ぶように現れた。

 とても綺麗、さっきまで眺めていた多角形の模様が子供だましに見えるわ。


 星空のさらに奥の天空から巨大な修羅を全て包むほどの光柱が出現し辺りを熱を伴った爆風が吹き抜けた。

 

「あらあら――」


 修羅がさっきまでいた下界は、一〇〇メートル四方の風穴が開いて――底は深くてよく見えないわ。その中心から直径一キロ程度が焼け野原になっている。

 巨大サイズの修羅の足元にいた小型の修羅も全滅しているわ。


「親衛隊の見せ場を奪ってしまったかな――」


 眩しいほどの金髪を書き上げそう呟くリーリンは――スカした仕草で髪をかき上げた。


「いいものを見せてもらったわ、とても綺麗だった」


 素直に感心したわ、花火大会で最後の大玉を見た後の気分。ようするに満足したから家に帰るのよ。


「こちらの質問に答えてもらおうか、美少女、その力は神より授かったものか」


 リーリンという男、しつこいわ。だけど美少女って私を呼ぶから許してあげた上で話し相手になってあげる。


「神は私よ、他の神なんか知らないわ」

「でわ、その力はどうやって手に入れた」


 おそらく判らないだろうけど答えてあげるわ――。


「明鏡止水――よ」

「なんだそれは?」


 もう話すことはないかな。

 これでわからないなら説明しても無駄だもの。


 豊は、っていうか殆どの剣士は自らを鏡として相手を映し出すことを明鏡止水だと思っていたけどそれは違うわ。

 それでは相手や物事に対して臨機応変に立ち回る小手先のだけの紛い物にしかならない。

 当意即妙な漫才と変わらないわ。

 

 私という鏡が映しているのは世界よ。

 こっちの世界で手に入れた新しい力を使って、世界に私を映せるようになった、それだけ。

 今の私は世界と自分を映しあっている合わせ鏡みたいなものよ。だから――


「その気になればこんなことも出来るのよ」


 両手を翳す、世界に映すのは私そのものよ。

 どうせ言ってもわからないでしょ、こういうことよ。


 私の内面が世界と混ざり合っているのがわかる。

 世界の歯車に手が届く感覚。

 

「なんだ……これは……」


「見たままよ」


 空を覆っている規則正しく配置された星星、その真ん中を経立てるように無数の光が煌き合っている。

 そう、イメージどおりだわ。

 星空に出現したのは天の川、でも規則正しく配置された光の壁紙を切り裂いたようにも見える、トータルコーディネートがなっていないわ。

 正直自分のセンスにガッカリ。


「く…黒髪の美少女、そなたの名は……」

 

 愕然とした青い顔でリーリンは私に尋ねる。

 横柄な態度は消え失せている、教えない理由はないわね。


「私はアルテミス・ヘラ・アフロディーテ、美を司る女神よ」


 

 そのまま悠々と私の町ポッシビルに引き返したけど誰も追って来ることはなかった。

 帰りの路でふと見上げる。

 視界に飛び込んできた私の天の川を見て思わず溜息が漏れた。

 

 自分が作ったものが世界の一部になるのって気持ちが悪いわ……



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