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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
3章 エスターク王国編
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11話 Evil design

 

 竜平がカリスティルの現状確認、更には本人との接触も果たしてきたらしい。

 俺は今その話を聞いている。

 『らしい』という曖昧な表記になるのは俺の記憶には無いからだ。

 意識があったのはベッドに腰掛けていたところを竜平が背後へ回り込み両肩に手を乗せられた場面までだ、そこからのの記憶が無い、気づいたら終わっていた。


 ヨモギは一部始終を見ていた、その様子を「白かった」とか「飛んでいった」「消えた」とか身振り手振りを交えて説明しようとしてくれたが理解できない。

 まぁ寝ている間に顔に落書きをされたりはしなかったのでよしとする。


「あの女が言うには『仲間が助けに来る』から貴様の助けは不要だという事だ」

 端的にメッセージを伝えてきた、表情は能面そのものの無表情だ。


「そうかい」

俺は飄々とその拒絶を受け取った。


「どうするのだ」


「そうするもクソも代金未回収だ、抵当権は俺の手にあるんだから回収するよ」

 今更何を言っているのか、目的は最初から変わってないだろ。


「物は言いようだのう」

 竜平は口を引きつらせてニタリと笑う、もはや悪い癖になっている。


「あの子を助けるのね――私も手伝うわ」

 手首を縛られたままのハミューが口を挟んできた、だが――。


「駄目だね」

 俺はバッサリと切り捨てる。


「何故?――聞いていいかしら」

 ハミューは苛立っているはずだが、表情には出さず涼やかな口調で聞いてきた。


「『死にたい』とか言ってるままだからだよ、どうせこの作戦を人生最後の晴れ舞台にする気だろ?」


「――」


「そういうのはいらない、変なスタンドプレーは味方全員を窮地に陥れるって相場が決まってんだ」


 俺は少なくともそう思っている、自分勝手をされると困るんだ、こっちは数が少ない、信頼できるメンバーだけで作戦に挑む。


「でも――」

 

 まだ諦めていない様子のハミューは今の状況では面倒くさい。


「おっさん、その女を縛り付けろ」


 俺は面倒な様子を隠しもせず小太りの男に命じた、そんな資格も権限も無いが準メンバーとして勝手に使う。

 だが小太り男は俺の方をチラッと見ただけで動かない。


「先生、お願いします」

 

 ヨモギが小太り男に言う、自然に言った、なんだ先生って? いつそんな場面があった? 俺はそもそもこいつの名前すら知らんぞ。

 小太りの男はヨモギのお願いでスイッチが入ったのか、引き出しから縄を取り出すとハミューに向かって歩き出した。


「なぁ……ヨモギ」

 小太り男との親密さがさすがに気になり問い質そうとヨモギに声をかけた。


「なんですか、ユタカ」


 な……なんだと……色々おかしくなっている、俺の寝ている間に……


「なんでその名前を……」


「赤帝さんが教えてくれたんです、タイサの本当の名前はユタカ・ホウジョウだって」


「それは、まぁそうなんだが……」


 だが呼び捨てだ、おかしい、こんな子供と俺が同列のような扱いだ。

 確かに俺の本名は北条豊だ、だが何で呼び捨てだ、何かしらの……あっ

 そういえば呼び捨てでいいって最初に言ったんだっけ……


 偽名で『タイサ』だからこそ呼び捨てにさせていたのになんてこった――小さな女の子に本名で呼び捨てにされる、か……結構くるものがあるな……俺の意識がない間に何かしらの談合が行われたのだろう。しかも自分の呼び名はチャッカリと赤帝に戻している、なんてズルイ奴なんだ。


 悔しいがそれに拘泥している場合ではない。


「カリスティルの様子はどうだった?」


 俺は話を本題に戻し赤帝に尋ねた、外にも色々戻したいところがあるがまずはそれを確認しないとな。


 赤帝はカリスティルの状態を詳細に説明し始めた。


 麻の服を着ていて裸ではないということだ、気が利かない連中らしい。

 手には鎖が巻きついていたが当日は外されているだろうということ、足には鎖で繋がれた鉄球、これは処刑当日もついているかもしれない、危ないところだった、予期せぬ場面にオロオロするところだ。

 当日は足の鎖を外す段取りも組み込まなくてはな。


 色々赤帝の報告を聞いていると――。


「できましたよ」

 

 と、小太りの男が声をかけてきた、拘束が完了したようだ。

 見るとハミューは荒縄でシンメトリーに細かく縄掛けされている――てか亀甲縛りじゃん。


 俺も先生と呼ぶことにした。

 ちなみにハミューは服を着たままだ、減点要素だが縄目が芸術的過ぎるから許す。




 赤帝から全ての状況報告を聞き終えた俺達は夜も更けてきたことだし寝る事にした、日が登れば忙しくなる。

 部屋にベッドは二つ、一つは赤帝が使いもう一つは俺が使う、なぜか俺のベッドにヨモギが入ってくる、まぁよくあることだ。

 そこまではまぁいいだろう。


 そこからヨモギの隣に先生が入ってくる、おかしい。


 普通サイズのシングルベッドに三人は窮屈だ。

 仕方が無いので俺はベッドから出て窓際のテーブル席に座る。

 しばらく俺が抜けたベッドの様子を観察していたが、先生がヨモギに覆い被さることは無かった。

 ロリコンだが紳士なのだろう、この二つは両立できるものらしい。


 それを確認し、俺はハミューを隣に座らせ縄を解いてやった。


「暴れたり変な動きをしたらまた縛るからな」


 そう冷たく宣告した、それに話したいこともある。


「――」


 ハミューは答えなかった、体には薄っすらと縄目がついていてなんかエロイがまぁいい。


「何でそんなに頑ななんだ?」


「なんのことかしら?」


「俺は人の信念とか誓いとかを信じちゃいない」


「――」


「だから俺にはあんたが無理をしているように見えるんだ」


「そうかしら――」


「人は弱いもんだ、そうじゃなきゃ俺は生き残れていない」


「私にはわからないわ――」


「人間らしいってのは欲や願望に弱い本性を隠して、偽善と世間体を塗り固めて形にした生き方だと思ってる」


「――」


「あんたが自分をどう評価しているか知らないけど俺の目には枠の中に収まった普通の人に見える、可愛そうな自分に酔っているだけにしか思えない」


「――」


「わからないかな、俺はお前とその悲しみの源を侮辱してんだぜ、それでも俺に殺意も向けない、そんなのを俺が殺すわけがない」


「――」


「死にたい――なんか勘違いだろ、有り触れた悲劇に酔っているだけだ、くだらない」


「坊やに何がわかるの!」

 ついに声を荒げた、涼しい顔が崩れた、何の意味もないが気分が晴れる、おそらく俺の性格が悪いだけなのだろうが。


「ヘッ、やっと怒ったな、だけど殺意ではない、それでは足らない」


「――っ」


 ハミューは顔を赤らめ唇を噛み締めて俺を睨んでいる、満足感が心を満たす。

 俺は踵を返し台所まで歩いて水をコップに注ぎ喉を鳴らして飲んだ。


 振り向くと、ハミューだけが残されていた窓際にあるテーブル席の隣に赤帝が座り、何やら話をし始めた、意地悪な俺に苛められていた女(五二歳)を慰める見た目六歳の少年。

 シュールだな。

 

 だがチャンスだ、俺は赤帝が使っていたベッドを素早く占拠し夢の世界へダイブした。

 俺専用ベッドをゲットしたぜ!

 疲れを残している暇はなくタイムリミットは七日後だ、これから当日まで忙しくなる。




 全ての準備を整える、揃えるものは全て揃える、計画どおりに事が運ぶ上で必要なもの全てだ。

 アルディア残党とも何度か会合を行った。

 変なアドリブを知らぬ間に計画に盛り込まないよう釘を刺しておかなければならない。

 特に俺の影武者は徹底的に拘った、誰が見てもタイサ・アズニャルと錯覚するほどに。

 机上の空論ってのはある意味真実であり、ある意味虚言だ。

 どんな計画も最初は机上の空論だ、実現可能にするのは人間なのだから。


『有機物も無機物も人も組織も計画も心も時間ってやつは全てを腐らせ緩ませていく、行動を起こす寸前までチェックを怠るなよ、夢物語でさえも精度は上がっていく』


 忌々しい親父の言葉だが正論だ。

 計画が煮詰まり残党諸君も成功に手応えを感じ始めている、ここが正念場、自信は手間をかけて育てないとすぐ慢心に変わるからな。

 



 公開処刑当日までの六日間、俺は髪の毛を黒に戻し毎日のようにタイサ・アズナブルを名乗りエスターク兵を斬った、俺に対する追跡は日に日に厳しくなっていったが赤帝の能力で全て回避している、計画通りだ。


 悪名を高めエスタークの目を俺に向ける、影武者はその為に置いている、エスタークが黒髪タイサ・アズニャルの目撃情報を入手した時にどれだけ人員を割いてくれるかが重要なんだ。




 刃物を研ぐように計画の全てを研磨していった……



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