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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
3章 エスターク王国編
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2話 Purpose

 

 俺達は逃げるようにアルデイアの残党が巣食う宿屋から抜け出した。

 雰囲気がなにやら宗教じみている、俺の目には自分の都合の良い未来しか思い浮かばない連中に映る。


 『俺はお前等とはちがうんだよ』みたいな思春期の終わりかけにかかる病などではなく、いい歳した大人が一途な眼をして夢物語を追いかけているような姿に耐え切れなくなったのだ。


 宿屋を出て通りを抜けると、それまでの薄暗さが嘘のように日差しがあたりに降り注ぎ、人波で賑わう本通りを照らしていた。

 白の太陽は天辺くらいを指している、最低でも赤い太陽の時間までは帰りたくない。

 安っぽいテントのような庇が通りを覆い、屋台に並ぶ乱暴に調理された肉や郷土料理らしきパン生地に具材を載せたものの匂いが辺りに充満している。


 俺とヨモギと赤帝は適当に買い食いしながら街道を進む。


「タイサ、私、新しい服が欲しいです」


「おいおい、またかよ」


「前の服が小さくなってきたんです」


「俺の服はジャストサイズのままなんだけど……」


 まぁ、お金は沢山あるんだけどな……狩りをして獲た魔獣の皮やグレーマン街道で倒した連中の装備品、この街で売れるものは売った、貴族の紋章や国の印が入った装備は出所の足が付くから売れないけれど、倒した敵の所持していた金貨袋も全て回収しているから生活するうえで困る事はない。


「貴様等、見ない顔だが旅の者か」


 近くにいたエスターク兵から唐突に声を掛けられた。

 自然な動作で剣の柄に手を掛けるヨモギを身体を割り込ませて隠し


「えぇ、狩りをしながら旅をしている者です、この街は始めてですが活気があって住み良い国すね」


 俺は自然な動作、表情を形作り返答した。

 当然だが練習していた動作でありセリフだ、下手に笑顔を作る必要は無い、俺の笑顔は評判がよくないからな。


 エスターク兵は二名、二人とも茶色い髪をしている、俺のように斑ではなく自然色だ。

 市中を見回りをしている兵だろう、平和なのか気張った様子は無い。


「そうか、この辺りにルーキフェアから逃れてきた黒髪が出没したという情報がある、注意しろよな」

 エスターク兵はそう言うとこの場を離れようとしたが


「その子供、随分とよい身なりだが……」

 エスターク兵から見れば貴族でもお眼にかかれないほど白銀に輝く衣装を纏った赤帝は奇異な存在だ。

 汚らしい髪をした二人組と行動を共にするのは不自然に映るだろう。


「我の名は赤て――」


「この子供の名は赤羽竜平、遠く離れた南方の国に帰還するところを我々が護衛しているのです」


 俺は赤帝の名乗りを遮ってエスターク兵に紹介した。

 その言葉に胡散臭さはない、表情も自信に満ち溢れている。

 日常会話は苦手だが嘘をつく俺に迷いは無くイキイキしながら言葉を紡ぐ、真実を告げるときはキョドったり言葉に詰まったりする。


「ふむ、気をつけていけよ」


 そう言ってエスターク兵は俺の肩をポンと叩くと雑踏に消えていった。


「貴様! 誰が赤羽竜平だ、我は天界の――」


「うるせぇよ、モロに『龍王』名乗るつもりかよ、グレーマン街道の出来事は下街でも噂になっている、余計なトラブルの元だ」


「だが……」

 子供の外見と相まって相当に悔しそうだ、ざまぁみろ。


「いいから今日からお前は竜平だ、わかったな」


「よろしくお願いします、竜平さん」

 ヨモギは俺より残酷だ、梯子の外し方がえげつない。


「ぐぬ……」


「これでお前も正式メンバーだな」


「……」


 俺達はエスターク兵の来襲を難なく退け衣類や雑貨を扱うゾーンへ足を運んだ。




 この国の既成服は西洋風な物が殆どで剣士っぽい服は見かけない。

 防具は鎧や胸当て、もしくは魔術師などが纏うローブばかり、ついでにサイズも大きい……


 俺は衣類を扱っている店舗に入り服をオーダーメイドで戦闘服を作る事にした、イメージは蝦夷共和国で土方歳三が着ていたようなやつだ。

 黒地の上下、靴は雑貨屋で仕立てた皮のロングブーツ、黒鋼の鉢金を付けた白い鉢巻も作った。


 竜平も同じ物を揃えさせた、凄く嫌がっていたが隣でピカピカと目立たれてたまるか。


 ヨモギは何かを察したのか、いつの間にか別行動を取り、俺たちが服を注文した後に何食わぬ顔で大きめな袋を両手に抱えて現れた。

 こいつは妙に狡賢(ずるがしこ)いからな。



 

 買い物をして飲み食いをして心身共にリフレッシュした俺達は薄暗い路地を通りアルディア王国残党、通称敗北同盟の根城である宿屋へ帰った。


 もう赤い太陽も暮れかけだ、宿屋のカウンターに座る男に目配せするとそのまま俺たちに宛がわれている一室に直行した。

 三人で一部屋だ、部屋の広さは八畳くらいだろうか。

 この建物は五階建て、両隣の建物もアジトとして使っている。

 爵位なんか俺にはわからないが元伯爵、侯爵、男爵などの連中は家族なども一人で一室とかだ。


 カリスティルの客分とはいえ、出自も定かではないゲジ男隊へここの奴等が下している評価はそんなものらしい。




「タイサ、これ似合いますか?」

 ヨモギは本日購入したばかりの赤を基調とした上下ともフリフリしたツーピースのドレスを早速着てクルクルと回っている。

 何処で着るつもりだよ、ついでにそれはセットでおいくら万円だ! と言うべきなのだろうがやめておいた。


「……貴様は今後、どのようになると踏んでおる」

 竜平が話を切り出してきた、ヨモギスルーは俺達の共通認識らしい。


「負け戦だろう、ここの連中は何をもって勝利条件としているのか不明だ」


 王城を占拠すればいいのか、このアルディリアを実行支配する総督を討てばいいのか、占領軍を全て打ち倒せばいのか、どう思っているのかわからん。

 王城を占拠してどうする、総督を討ってどうする、占領軍をどう片付ける、先の展望が全く無い。


 ここに残っているのは王族貴族だけだ、兵士や行政官ではない、行動を起こしても占領区を維持できない。

 民衆を先導? 悪政も敷いていないのに動かせるわけがない、日本にもいたエセ活動家と同じだ。

 社会不安を煽るだけで何のプランも提示できない、中身が無いんだからな、結局やることは社会インフラを占拠して火炎瓶を投げるだけ、唯の迷惑集団だ、支持されるわけがない。

 理不尽を押し通すなら圧倒的な力が要る、ここにいる連中にそんなものはない。


「貴様にも何も出来ぬだろう、ここに留まる理由は無いぞ」

 竜平は俺の肩に手をかけ問う。


「残念だがあの女を救う道はない」

 勝手に人の心を覗かないで欲しい、俺は肩に置かれた竜平の手を払うと。


「顛末を見守るつもりだ」


 そう言うのが精一杯だった。

 俺は知っている、勝つ事を目的に掲げる集団は必ず負ける、勝つ奴は未来を見据えている、必然として起こる争いは未来へ向かう出来事に過ぎない、目先の勝敗は関係なく最初から勝っているんだ。

 親父は戦う前から勝っていた、クズだが常に勝っていた、悲しい事にな。




 夜も更けて竜平と挟み将棋をして時間を潰していると扉をノックする音が部屋に響き渡った。

「あたしよ、いいかしら……」


 カリスティルの声だ、疲れているのだろう、いつもの迷惑な声量は無い。

「あぁ……お前一人ならいいぞ」


 俺は無意味にカリスティルの取り巻きに対する悪意を示してから入室を促がす。

 カリスティルは静かにドアを空けゆっくりと部屋に入ってきた、表情は無く、平坦な印象だ、胸以外。


「カリスティルさん、これ、今日買ったんですよ、似合ってますか?」

 ヨモギは赤い服を着たままだったようだ、ハートが強いな。


「えぇ、ヨモギちゃん、とっても似合うわ」

 カリスティルは優しく返答する、さすが年の功。


「えへへ」

 ヨモギは服を褒められて満足したのか、その場で部屋着に着替え始めた。

 一室なのにやめてほしい。


「で、貴様らはどのような結論を導き出したのだ」

 竜平はカリスティルへ詳細を説明するよう促がす。

 こいつは触れただけで全て把握できる、要するに俺に説明してやれってことだ。


「……当てに出来る人数は一〇〇名前後、東、西、北は陽動で南側ゲートから王宮に攻め込み総督を討ち、守りを固めるつもりよ……」

 溜息が出た、この国には戦史すらないのだろうか?


「それはカッコイイな、敵を討って王宮を取り戻す、最高だ」


「馬鹿にしないで! ……いえ、馬鹿にしていいわ、こんなの上手くいくわけないもの……」


「いや、そうじゃない、奇襲が成功すれば王宮を占拠するのは可能かもしんないね」


「あんたの眼から見てそう思える!」

 カリスティルが急に大声を出すからビックリしてベッドから転げ落ちた。


「なんだよ急に!」


「だって、どうせあんたのことだから粗を見つけて駄目出しするかな……って」


「なんで俺の一存で一喜一憂すんだよ」


「だって、あんたは勝ってみせたじゃない、(ずるい)し卑怯で狡猾で、人として最低だけど、私の前で勝ってきたじゃない」

 俺への評価が酷い。


「勝ってねぇよ、目的は常に生き残ることだけだ、俺がもっと正しければそもそも戦闘になっていない」


「――でも、その目的を達成したんだから勝ちじゃないの!」


「よーし、答えを見つけたようだな、では俺から聞こう」


「えぇ……」


「お前等の目的って何?」


「それはアルディア王国を再建することよ」


「そうだよな、そこで質問だが総督を討って王宮を占拠したら目的は達成できるの?」


「そっ――」

 カリスティルは何か言いたそうだが畳みかける。


「王宮を奪って王宮だけを領土に建国宣言でもすんの? 王都に点在する占領軍はどうすんの? 相手は正規軍だ、強さは知っているよな? 援軍の当ても無いのに篭城戦すんの? 篭城はいいけど腹は減らないの?」

 援軍の無い篭城戦の無意味は軍人じゃなくても理解しなくちゃな。


「……」


「勝つ事と目的を達成するのは別問題だ、テロリストにでもなって憂さ晴らししたいだけならそれでもいいけどな」


「……」


「お前等戦うことが前提だろ、アルディア再建とは道筋が違うじゃん」

 この組織は既に負けている。


「なら……あんたならどうするの?」


「逃げるよ、再建は不可能だ、がんばるだけカロリーの無駄」


「ダメよ、私にはアルディアしかないもの!」


「……知っている」


 沈黙が狭い部屋を包む、俺は事実しか口に出していないのに何でこんなに胸が苦しいんだろうね。


「……夜遅くにごめんなさい、もう一度みんなと話し合ってみるわ……」


「カリスティル、一つ聞いてもいいか?」


「なに?」


「お前、歳は……いくつだ?」


「一二才の時、始めての大会戦があったから今年で五二……かな」


「そっか……」


 カリスティルは静かにドアを空け、そのまま振り返りもせずに俺たちの部屋を出て行った。

 俺と竜平はベッドに腰掛けたままだ。


「もうどうしようもないな……」


「何がだ」


「いや、なぁ……相手がおばちゃんだと確信できたらカリスティルを見捨てる気分になれるかと思ったんだけど……」

 

 いやはや参ったわ……


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