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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
3章 エスターク王国編
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1話 アルディア王国解放軍

 

 俺たちはアルディア王国でカリスティルと別れ、龍脈の根源へ向かい出発……するはずだった。


「カリスティル様、フェリオ男爵の手勢も含めれば、我々の総数は一二〇名に達します」


 ここは旧アルディア王国の王都アルディリアだった都市だ。

 俺の予想していた通りアルディア王国はエスタークによって攻め滅ぼされていた。

 ジャラスパとの戦闘を乗り越えた俺たちはグレーマン街道を南下、インテルリ丘陵の先にあるアルディア王国属タイスマー辺境伯の領地であるはずのダボスの街に辿り着いて、馬鹿なカリスティルも認めざるを得ない現実を目の当たりにした。


「思わぬ裏切り者に足元を掬われ王都を失った事は面目次第も御座いませぬが、カリスティル様ご健在とあれば捲土重来など容易き事です」

 

 俺たちは現在旧アルディアの家臣が身を潜めている王都の片隅に、外見上は宿屋として存在している建物に身を寄せている。

 二〇畳ほどの一室で十数人俺の見知らぬ男女がカリスティルを取り巻いて、帰還の祝辞と現状報告をしているが、太鼓持ちは無視してこちらの状況を整理する。


 


 ダボスの街は典型的な田舎の地方都市で、高さ五メートルくらいの城壁に囲まれ、街のいたるところに水路を配し中央に領主の館を構える。

 この世界では平均的な城塞都市だ。

 城門、館にはエスターク国旗が掲揚され、現在アルディリアの支配者が何者なのかを雄弁に物語っていた。


 さすがにカリスティルにもアルディア王国は既に滅びていると認識できたようだったが「王都に行ってこの眼で全てを確認したい」と我が儘を言うので俺達は王都に進路を取った。

 龍捜索隊との一戦で俺たちに指名手配がかかっているが、この時代の杜撰な捜査網など『屁』みたいなものだ。


 俺とヨモギは髪色を変化させている。

 俺は斑な赤茶色の髪に、ヨモギは薄い黄緑だ、変な魔術や魔法の類ではなく俺の知識による偽装だ。


『お前が余計な捕まり方をしたら俺に迷惑が掛かる』そんな理由で叩きこまれた『行旅死亡人の作り方講座』の一つだ。

 焚き火の灰を水に浸した上澄み、灰汁を髪に塗布して太陽光にひたすら晒す。

 髪が酷く軋んでボロボロになったが『黒髪』を目印に捜索されている俺や目立つ緑髪のヨモギは難なく捜索の眼を擦り抜けている、フードを被って一目を偲ぶ必要も無い。


「エスタークはこの度の大会戦に寄せ手として兵を派遣する、その為現有兵力は不足しています、挙兵への障害はありません」

「そう……エスタークは大会戦に参戦する道を選んだのね……」


 一応人目を憚ってはいたが、ほぼ検問を素通りで進んだ俺達は、王都アルディリアへあっさり到着した。

 誇らしげに城門にはためくエスターク国旗、そして武装したエスターク兵、アルディア滅亡は火を見るより明らかだ。


 俺は「もう諦めて旅に付いて来いよ」なんでこんな事を言うのか俺にもわからないがそう提案すると「……まだ、誰か、アルディアの仲間が残っているかもしれない……」そううわ言のように声を絞り出し旧アルディア王国首都アルディリアへ入城を果たした。


 これで悪政でも敷かれていれば義憤にかられて力も沸いてきたのだろうが、活気のある商店街、行きかう人々に暗さは無い、商品の不足も感じられず、エスターク兵と旧アルディア市民との軋轢はまるで感じられなかった。


 愛国心? そんなものは満たされ暇をもて余す現代人の娯楽だよ、封建社会ど真ん中の市民や奴隷階級には望むべくも無い。

 カリスティルの曇った表情を見ていればわかる、旧アルディア王家の治世よりも善政を敷かれているということは。




「カリスティル! 無事だったのね!」打ちひしがれ途方にくれていたカリスティルを発見し接触してきたのは旧アルディア王国の残党だった。

 酷いボロを纏った女は薄茶色のウェーブのかかった髪、同色の瞳はやや細く全体の印象が薄いのはやつれているからだろうか、若く見えるがカルマを宿しているから歳はわからない。

 カルマは加齢すら回復するからな。


 女の名はハミューといい、カリスティルと古くからの友人だそうだ。

 幼い時よりカリスティルと一緒に遊んでいたりしていた思い出話を、アジトにしている宿屋までの道すがら語り合っていた。

 このハミューという女は、リスキング男爵家というアルディア王国の名家に嫁いで、二男二女を儲け何不自由なく幸せに暮らしていたが、アルディア城陥落後の掃討戦で娘一人を残し家族と財産の全てを失ったらしい。

 唯一生き残ったハミューの娘は二七歳だそうだ……カリスティルの年齢を聞くのが怖い。


「タイサは今後どうされます?」

「この男に聞いても答えぬ」


 ヨモギは俺にリーダーシップでも期待しているのか?

 赤帝は一々俺を見透かして気に入らない。

 まだ何かを決断する時間ではない、とりあえず自発的にカリスティルの後を付いて行ってみよう。




 そんなわけで俺、ヨモギ、赤帝の三名は薄暗い部屋の中央の席で多数の残党に囲まれているカリスティルを、部屋の隅の壁際にもたれ掛かりながら眺めている。


「なんでこんな面倒な事になってんだろ――」

 赤帝に呟いてみる、声を絞っているのは盛り上がっている皆様に不快な思いをさせない配慮だ。


「さてな、貴様がここにいる理由はないはずだが」

 外見上六歳前後にしか見えない二六〇〇年以上生きている龍はニヤリと顔を歪めて俺の問いに応える。


「お前は俺に触れたら考えがわかるんだろ、言葉に出す必要はねぇだろ」


「我にはわかるが貴様の女には言葉を通さねば理解できまい」


 まだ子供のヨモギを俺の女扱いしないで欲しい。

 決定的に誤解されてしまう、未来のハーレムルートも通行止めになってしまう。


「カリスティル、なぁ……」


「うむ……」


 ヨモギは俺と赤帝の会話に聞き耳を立てている。

 俺の考えを理解させるには赤帝との会話を聞かせるほうがヨモギにはわかりやすいようだ。


「この連中の武力蜂起は失敗する、早めにカリスティルをなんとかしないとな」


「あの女が奴らを見捨てるとは思えぬが」


「わかってる、だから困っている」


「貴様があの女を気にかける理由はないがの」

 赤帝は愉快そうに顔をニヤつかせる。


「――うるせぇよ」


「タイサはなんで結果が出る前から失敗すると決め付けているんですか?」

 ヨモギは本当にわからないのか目を丸くして俺を見上げる。


「こんなのは勝てる組織じゃない」

 やる前からわかっている、願望と戦略が同居している。

 所詮は既得権益に群がっていただけのお貴族様だ、何もわかっていない。


「勝てる組織……ですか」

 ヨモギにはわからないだろうし普通に生活していたらわからないだろうが、あえて言うなら空気が違う。

 

 親父と取り巻きはいつも勝っていた、始まる前から勝つことがわかっている組織だ。

 勝つと言う事の意味も。

 穴を埋めるような戦略ではない、勝利は一本道で揺らがない。

 誰がいるからとか、数が増えたからとか場当たり的な幸運、不運で揺らがない。


「結局のところ、こいつらって自分の権力や財産を取り戻したいだけだろ?」

「普通の社会に当てはめて見ればわかりやすい、こいつらの願望は子供の我が儘と同じだ」

「子供が「将来の夢は大金持ちの社長です」って言うのとなんら変わらない」

「他人が他人を金持ちにしてやる義理は無い、幸運を期待するのを戦略とは言わん」

「夢だけ見て結論ありき、中身の無い計画を立てている。夢が見たいなら脱法ハーブでも吸ってろ」

「勝てる組織は行動を起こす前に勝っていて、始まりと終わりは同時に訪れる」

 

 その立派な夢の為にカリスティルを神輿として使おうとしている。

 だが俺が、例えヨモギや赤帝が何を言っても無駄だろう。

 長い付き会いになったからわかる、カリスティルはアルディア王国で人生を共有してきたこいつらと行動を共にする。

 カリスティルにとってアルディア王族であることは、自分の存在価値全てなんだからな。


「……くだらねぇ」


「だが貴様はあの女を捨てられないのだろう」


「はぁ? 俺がカリスティルに拘るのは金目当てだぞ」


「そうか、貴様が言わぬなら我がやつらから奴隷購入代金とやらを請求してやろうか?」


「――利子がいっぱい付いてるんだよ、こいつらには払いきれないだろうな」


「なるほどのう――」


 楽しげに話す赤帝が不愉快で会話を切り上げ、カリスティルと愉快な仲間たちを眺めてみる。


「王宮へ通じる四つの入り口は各四名の衛兵、王宮に詰めている守備隊は三〇名程で手薄です」


「やはり大会戦への出兵で本国共々兵力が限られているのでしょう」


「このアリディリアの駐留軍は総数でも二〇〇前後、勝算は十分あります」


 カリスティルの脇を固めるようにすぐ右側に陣取ったリーダー格のマーキン・デスティル元伯爵は声を張って語っている。

 短く刈揃えられた銀髪、緑の脂ぎった眼は精力絶倫って感じだ、イメージとしてゴメスだな。


 その逆隣に静かに佇む焦げ茶色の髪を後ろで束ねた優男、マドリュー・パーセナル元宰相は静かな笑を称えたまま頷いている、見た目のイメージはピエール。

 共に二十歳そこそこに見えるがこの世界の外見年齢は当てにならない。


 


 この世界の王族貴族は老いた奴隷を殺しカルマを蓄えている。

 あの山中でカリスティルが俺の背中で呟いた「私も王族だから」の意味が重く圧し掛かる。

 なぜカリスティルがヨモギを気にかけていたかなんとなくわかった。

 元奴隷、脱走の前科がある奴隷は殺されてカルマを吸い取る餌でしかない。

 奴隷の身分を捨てて生きるヨモギを見て思うところがあったはずだ。


 ヨモギの奴隷紋はもう消えている、カルマが一定量に達したのだろう、肩に刻まれていた深い焼印は跡形も無い。

 昔の記憶はどの程度残っているのかわからない、俺が『英雄ドクダミアンの娘』という過去を押し付けて昔語りを封じているからな。


 だからカリスティルもヨモギの過去は知らない、知らないが奴隷紋を刻まれているヨモギが、王族からしたらエサにしか過ぎないヨモギが過去を捨てて生きる様をみてカリスティルがどう思ったかはなんとなくわかる。


 カリスティルのカルマは不要になった奴隷を数限りなく殺して得たものだろう、俺の人を見る眼が狂っていないのならヨモギと出会ったカリスティルが何も感じないはずがない。

 今こうして過去の亡霊と戯れているのはアルディア王族である責任、まぁそんなもんだろう。


 でもな、責任なんか取らなくてもいいと思うぞ。

 俺の知る限り責任は負けた奴が取るものだ、勝者が過去を悔やみ責任を取った例はない。

 勝てないなら逃げればいいんだぜ。


 

 赤帝は龍脈の根源に辿り着くことが俺たちに同行している目的のはずだが、旅の出発を催促しない。

 ヨモギは……おそらく何も考えてはいまい。

 旅の再開圧力は皆無だ。


 圧力のかからない俺はお荷物であり年齢的にはおばちゃんであろうカリスティルを何故か見捨てることも出来ず、壁にもたれかけながら彼女の力無い愛想笑いを眺めている。




「――皆さん、私に至らぬ点は多々ございますが共にがんばりましょう」

 周囲のアルディア残党の連中へ、赤頭が宣言する。

 カリスティルの一言でドッと歓声が上がる、どうやら無謀な戦いを挑むようだ……


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